ひとのちから

第6話 修羅を行くけもの達 ~前編~

 じり、じりと迫り来る二人……

 

 「ねぇ、ケンカは良くないよ!なんでキュルルちゃんにいじわるしようとするの!?」


 「我々も、ここまで来たからには、退く訳には行かないのです!」

 「さぁ!大人しくお縄を頂戴しろ!!」


 「サーバル、キュルル、下がってなさい……」


 「こ、これ以上、近寄らないで……よぉ!!」


 カラカルさん、大きく息を吸い込み……咳払いを一つ……


    「……がぁおおーっ!」


 「ひいっ!!」


 怒髪天を衝く一発!牙を剥き出しにしたカラカルさんは、凄い迫力だ!


 これまでの形勢は一気に逆転し、さっきまで強気だった二人は地面にうずくまってしまった!


 「うぅ……!怖いよぉ……!!」


 「か、カラカル!それ以上はやっちゃダメ!!」


 怯える二人に、近付く!

 ぼくが動きかけた処に、サーバルさんがすかさず止めに入った


 「そんなんじゃないわよ……ちょっと、あたしやり過ぎたわ……ごめんね……?」


 サーバルさんとカラカルさんは、二人を優しく撫でる……


 「ひゃあっ!!」   


 その後、落ち着いてくれるまでかなりの時間がかかり、水平線から「おはよう」と挨拶が来た


 「ふわぁ……朝ね……」

 「朝だね……」

 「うみゃあ……」

 「ア、ミーゴ!!」

 「ボス、朝から元気ね……」


 あの二人……


 「Zzz……」

 「ぐー……」


 結局あの後そのまま二人は寝ちゃって、ぼく達はバグ個体に襲われてしまわないよう、見張りをしていた

 と、言っても、いつも通りの静かな夜を四名でお喋りをして過ごしたんだ


 「し、痺れるぅ……」

 「ぐっ……やっぱりあの体制はキツい……」


 「あ、起きたみたいよ?」

  

 「オオアルマジロさん、オオセンザンコウさん、ちょっとうつ伏せになって?」


 「?」


 「いいから、いいから……」


 なんだか辛そうな二人……昨日、サーバルさんの火事場のクソ力を体験し、お手伝いをしてもらおうと思ったぼく


 「サーバルさん、これやってみて?」

 「うまく出来るかな?」


 背中に乗り、ふくらはぎを「ぐー」でちょっと力を入れつつ、もみもみ……


 お?大分張ってるみたいだ

 

 「……!?」

 「……ッッ!?」


 始めの頃はとても驚いた顔をしていたけど……?

 

 「あ、良いですねぇ……せ、背中も、お願いできますか?」

 「まかせて!!」


 「わたしもー……いやぁ、効くねぇ……」

 「ここ、どうかな?」

 「はうっ……!?」


 「あたしも、後でやってもらおうかしら?」

 「カラカル、ネッコロガレーヨ」

 「じゃ、お願いしちゃおうかしら?よろしくね、黄色いボス!」


 「サーバルさん、とても上手いですねぇ……」

 「えへへ……ありがと!もみもみ……もみもみ……んみ……」


 ひんやりとした朝のまったりとした一時なのであった……!


 「せ、センちゃんっ!?」


 オオセンザンコウさんとオオアルマジロさんは前に、レッドさんから聞いてたダブルスフィアチームなんだって


 「こ、今回は見逃します……」


 聞きたいことあったんだけど、見逃してくれるって事を条件に結局何も聞くことが出来なかった……


 残念……と、ここでオオセンザンコウさん


 「これだけは教えます、……ビースト、そう呼ばれる子には注意するのですよ?」


 「ビースト?」


 聞きなれない言葉……

  

 「あー、あの子……いきなり襲ってくるもんね……」


 「ねぇ、その子ってどんな子なの?」


 「何らかの理由で、暴走状態にあるフレンズ?だと思うのですが……見たのは数える程……確か、アムールトラ……」

 

 「それも含めて、わたし達はしらべてるんだよー」


 「それを教えてくれただけでも十分だよ!ありがとう、オオセンザンコウさん、オオアルマジロさん!」


 「……それから、今後また会うことが有りましたら、センちゃん、と呼んでくださいね?」

 「オルマーだよ!」


 二人と握手を交わしぼく達は別れた


 「まったねー!あー、すっきりしたー!!」

 

 手を繋いでウキウキした様子で二人は帰って?行った   


 ↑↓←→↑←→↑←→↑↓A


 「ボクハ、ココマデ、ミナミメリカーエンダケノタントウダカラ、ココデオワカレダヨ」


 「え?」


 「ダイジョウブ、ココカラサキ、ジャングルエンハ、カレガタントウシテクレルーヨ!」


 がさがさと草むらから、何かが飛び出してきた!


 「マタセタナ!」


 「あ、今度は黒いボス!」


 「ソンブレロ、アトハオレニマカセロ!」

 

 「ジャア、ボクイクネ!ステキナタビヲ。アディオス!!」


 有難う……ソンブレロさん……


 「ジャングルエン」は危険がいっぱい!なんだって

 

 「あの、お名前はなんと呼べば……?」


 よーく見てみると、黒と灰色

 二つの色が混じり、しましまになっているボス

 「しましま」さん、で良いのかな?

 お話の仕方が、ソンブレロさんと違い、なんだか、固い印象を受ける……


 「コマンドー、オレハソウヨバレテイル……ト、アッテソウソウスマナイガ、キミノソノリュック、オジャマスル」


 「どうぞ」

 

 なんでも、「バッテリーの消費を抑えるため」なんだって

 お腹が空いてるのかな?


 「お顔がひょっこり!かわいいね!!」

 「サーバル、テ、テレルジャナイカ……」


 背中越しに、サーバルさんがコマンドーさんを撫で撫でしている

 一応、喋って良いのはヒトであるぼくだけって事になってるらしいけど、それを聞いたとたん……


 「ウルサイ!ゴチャゴチャヌカスナ!!オレノカッテダロ!!」


 「はいいいいい!!!!」

 「うみゃあっ!?」


 だって……


 「あはは……とんだじゃじゃ馬ね……」


 「シッ!オマエタチ……シズカニシロ……ナニカキコエル……!」


 サーバルさんとカラカルさん、目を閉じおみみが動く……

 最初は、二人のおみみがバラバラの方を向いていたんだけど、次第に同じ方向に向いて……?


 (サーバル、キュルル、あの茂みの向こうからよ……)

 (キュルルちゃん、抜き足、差し足、ネコ脚……だよ……?)


 ぼく達、この空間に緊張が走る……ッッ!


 (アシモトニチュウイダ……ツタヤ、エダ、ジャングルハ、キノユルミガイノチトリニナル。テンネンノヨウサイダトオモエ……!)

 (分かった……!)


 近付くにつれ、誰かが騒いでる声が聞こえる

 

     4名居るみたいよ


 カラカルさん、こっちを向かずに指を折ってぼく達に教えてくれる

 

   気付かれてないわ、大丈夫よ!


 多分、その解釈で当たっていると思う


 (ヨウスヲミヨウ……オトヲタテルナ……)

 

 あれ?さっきまですぐ横にいたサーバルさんが居ない!?

 


 「ちょっと!あんた達!さっさと出ていきな!!ここはあたい達のナワバリだよ!!」

 「そうよ!何度も言わせないで下さい!!」


 二人、木の上を見ながら誰かに話しかけている

 なんだか、物騒な雰囲気……


 (イリエワニト、メガネカイマンダ、アノフタリ、カナリキガツヨクテオレハニガテナンダヨナ……)


 「うっさいなぁ!!文句有るんやったら、ここまで上がってこーい!!」

 「ねーちゃんのいうとーりや!!」


 (ヒョウシマイ、アネ、ヒョウ、イモウト、クロヒョウ。アノフタリトヒキアワストトテモヤッカイダ……)  


 「うみゃー!ケンカは止めてよ!!」


 さ、サーバルさんいつの間に!?


 「なんや!?お前エラっそうに!!」

 「部外者は引っ込んでな!!」


 「なんで、みんな仲良く出来ないの!!?こんなのおかしいよ!!!」

 

 「なんでかなんてポッと出のお前に教えるわけ無いやろ!!?」


 「ううぅ……!!!」


 まずい!サーバルさんがキレそう!!


 「なんやお前!!うちらとやる気か!!?」

 「受けてたつで!!」


 一触即発!

 サーバルさん、止めに入ったのが裏目に出てしまい余計に刺激してしまった!!

 

 (マズイ!アノタイセイハ……!)


 (良い?キュルル、あたしの合図で出るわよ……!)

 (分かった……)

 (あたしの、本能がヤバいと……)


 「ゴチャゴチャ五月蝿いわっ!よっ!!でやあっ!!」

 

     「言ってるのよっ!」


 イリエワニさんが二人の乗ってる樹に超強力なヘッドバットを入れたッッ!!


 「キュルル!ジャンプっ!!」


 地面から足が離れた途端、回りの大きな木々が揺れたり、葉っぱが落ちたり……


 「ミシリ……」と嫌な音を立て、ゆっくりと倒れていく!


 「う、うわぁ!!」

 「ねーちゃん!!」


 「あたしは、あの子をやる!キュルルは黒い方を!!頼んだわよ!!」

 「ま、任せて!!」


 スローモーション……宙を力なく墜ちて行く二人を……


 「フンバレ!!コンジョウミセロオオオオオオオオ!!!!」


   「うおおおおおおお!!!!」

 

 よし!カラカルさんは豪快なスライディングキャッチを決めた!!


 「あっ!しまった!!」


 ボスが空中に!!

 

 「ナムサンッッ!!」

 「まかせて!!」

 「サーバルさんっ!!」


 「クロヒョウッッ!セナカニジュウシンヲカケナオセ!!」

 「!!?」


 咄嗟に身体を捻り、本来の着地態勢とは別の指示を出されたクロヒョウさん

 驚きを隠せない表情だ!


 「ぐっ……!よし!ぼくも成功!!クロヒョウさん、ケガは無い?」


 カラカルさんほど上手くはない、ぼくの上に跨がる形でのキャッチとなった


 「お、おう……ありがとな……ほら、あんたも、はよ起き?」


 手を差し伸べてもらい……


 「ありがとう、クロヒョウさん」


 立ち上がる

 ちょうど、木々の隙間から覗く太陽がお昼を教えてくれる


 サーバルさんは、こっちに手を振り、だっこしていたボスは、ぼくのリュックへと戻った


 「ラッキーさん、喋ったで!?」

 「クロ、それはホンマか!?」

 「あぁ、間違いない」

 「クロ、アンタもしかしてヒト……ンなわけないよな!?」

 「ねーちゃん、んな、アホな事言わんといて!?ウチは、ねーちゃん、ヒョウの妹、クロヒョウや!」

 「せやかて、この事実、どう説明すればええんか!?」


 「あの……」


 混乱している所に、声をかけるのはどうかな?って思ったんだけど……


 「ねーちゃん、この子は、ウチの恩人や」

 「妹が世話ンなった、ありがとな?」


 「いえ……」


 「キュルル、ちょっとあの子達と話してくる。サーバルと一緒に、その子達お願いね?」


 ヒートアップしてしまったみんなをクールダウン

 カラカルさんは、イリエワニさん、メガネカイマンさんを

 ぼくと、サーバルさんはヒョウ姉妹とお話をするため、一度別れる事に


 ↑↓←→↑←→↑A←→↑


 「うーん……」

 「キュルルさん、えっらい難しい顔してどないしたん?」


 あれだけ激しい言い争いをしていたから、相当な原因があるのかも?

 

 「ねぇ、ヒョウさん?」

 「あんた、お堅いやっちゃなぁ!?うちの事は、呼び捨てでエエで?」


 「いえ、仲良くなりたいからこそ、丁寧にしたいんだ。だからさん付けで」


 「ま、えぇやろ。んで?聞きたい事ってなんや?」


 ここで意を決して聞いて見ることに

 すると……?


 原因は、ほんの些細な事だった

 お互いどちらも意地っ張りで、きっかけが合ったらすぐ、さっきみたいな事態に発展してしまうんだって……


 いつもなら「親分」と呼ばれるフレンズさんが止めに入って大事には至らないそうなんだけど、今は「やらなくちゃいけない」事でしばらく戻っていないと教えてくれた


 「なぁ、あんた、ヒトなんやろ?でないと、ラッキーさん喋らんと、親分から聞いてん」


 「確かに、ぼくはヒトだけど……」


 「だけど?なんや?勿体振らんとはよ教えて?」


 やっぱり、探していたんだ

 ぼくに、その答えを求めるかのよう……


 「じゃあ、ぼくがヒトならどうするの?」

 「そりゃあ、決まっとるやろ、なぁ、ねーちゃん」


 ヒトには、フレンズを操る力があると言う……


 「みんな勘違いしてるよ!?」

 「サーバルさん、なんや?アンタ、ヒトの事詳しいんか!?」


 「うーん、良くわかんないけど、ヒトってそんなひどい事しないよ!!」


 「そうか……やっぱりアレは噂やったんか……」

 「ねーちゃん……」


 「イヤ、アナガチウワサデハナイ……カツテヒトハ、サイミンジュツ、トヨバレルヤリカタデ……」


 人は、その言論によって対象は個人から、果ては一国を動かしてきた


 人は、考える葦である


 知能が高いからこそ、より他者の心に入り込み相手をその考えにさせる事が出来る


 それによりヒト、すなわち「人類」は繁栄してこれたし、それにより滅びかけたりもした


 フレンズと言う存在は、ヒトに近い性質を取った生物

 だからこそ、孤独よりも、手を取り、今をより良くしたいと願う事だろう

 それはとても偉大な事なのだ


 だからこそ、色々な考えがあり、先ほどのような衝突が起こる事もまたしばしば……


 催眠術とは、何も特別な事ではない

 普段から他者に対し、無意識に行っているモノなのだから

 

 ただし、悪い方向に使ってはいけないと言う事は、言うまでもないだろう……


 「ト、マァコンナカンジカ……」

 「一つエエか?」

 「ナンダ?」

 「ヒョウ、それ以上は言っちゃダメ!!」

 「なんや、なんでラッキーさんうちらに話してくれるんかなーって……」


 あらら、言っちゃったよ…… 


 「イマハ、エマージェンシー、キンキュウジタイダカラダ!!コレヨリ、サクセンヲセツメイスル!!」


 作戦は、こうだ


 古くから知られる、「紐とコイン」を使用したやり方をベースに掛ける「フリ」をする

 ジャングルエンには、それに代用出来る物がたくさん有る、例えば紐なら蔦、コインなら木の実なんかが使えるだろう


 「アクマデモフリダ」

 

 コマンドーさんいわく、一芝居を打つ

 と言う事らしい


 「うちがやる」

 「ねーちゃん!危ないで!ウチがやる!!」

 「えぇか?クロ、うちは汚れ役でかまへん。その先、ケンカせんでエエならこれ程やりがいは無いで!?うちに任しとき!ここは一発カマしたるわ!!」

 「……スマン、キュルルさん……ねーちゃんを頼みます……」


 「分かった!ぼくも精一杯頑張るよ!!」


 「キュルルちゃん」

 「なぁに?サーバルさん?」

 「……わたしにも、出来る事……何か無いかな?」


 「サーバル、デハ、キミハ、キノミヲトッテキテクレ。ナルベクメダツヤツガイイ」

 「分かった!行ってくるね!」

 「クレグレモ、バレナイヨウニソシテスミヤカニ……イイナ?」

 

 さっき、物音を立てないサーバルさんを見ての事かもしれない

 こくりと頷くとぼく達と、反対方向にスッとその姿を消した


 「消えた!?」

 「さっきと言い、サーバルさん、一体何者なんや!?」


 「それはぼくも思う……」


 


 「そっちは済んだかしら?」

 「お?カラカルさんやないか?どないしたん?」

 「どうもこうもないわよ……ま、後はそっちが済み次第ってとこね」


 上からやっぱり物音一つ立てずにサーバルさんが降ってきた


 「はい、これ」

  

 「お?サーバルさん仕事早いな!もう戻って来たで!?後は、ねーちゃんとキュルルさんがどうか、やな」

 

 カラカルさんからお話を

 イリエワニさんとメガネカイマンさんが待っていると教えてもらった


 あっちも、何か考えがありそうな雰囲気……


 「よっしゃ!うちら、準備エエでぇ!!」

 「カラカルさん、案内をお願いします!」

 

 「……良いわ、着いてらっしゃい……」


 ぼくの役目は、あくまでもヒョウさんのアシスタント

 練習する前、ヒョウさん、「本番でみっともない事なるけど多目にみてな……?」と言ってたのがなんだか気にかかる……


 「ソレデハ、コレヨリサクセンコウドウカイシトスル!!」


 コマンドーさん、ここから先は絶対に喋らないと約束を決めた


 「ぼく、心配だよ……」

 「キュルルちゃん、大丈夫、きっと上手く行くよ!!」


  

 昼下がりのサーバルさんのその笑顔は、そっと優しくて、そして眩しかった……





 しゅっぱつしんこー!ジャパリパーク!!


 

 

 

 

 


 


 


 

 


 

 


 

 

 


 


 


 

 

 


 



 

 


 


 


  

 


 

 


 


 


 

 


 


 


 



 

 

 

 

 


 


 


 


 


 


 


 

 


 


 

 



 


 


 


 


 


 


 

 

 



 


 

 

 


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る