うみのけもの

第3話 おみみを澄ませば潮騒が聴こえる ~前編~

 ここから「カイジュウエン」迄は距離があるみたいで、今日はモノレール内で一夜を過ごす事になった


 ぼく達を起こさないようにと、ボスはスピードをゆっくりにしているみたいだけど、今、ぼくと、サーバルさんは起きていて、窓の外、空を眺めているサーバルさんと、月明かり照すコントラストが余りにも美しいと感じ、お願いして絵を描いている真っ最中


 こう言う時は不思議なもので、紙の上を走る線に迷いが生まれることは無い。

 でも決して描く速さは、速いわけでは無いんだ 

 もちろん、モノレールの明かりは消えているんだけど、こんな薄暗い中でも、はっきりと分かるくらい、着実にもうひとつの世界に色が着いていく

  

 流れる景色とそのゆっくりと流れる時間はとても穏やかで、お互い何も喋る事は無いけれど、とても気持ちの良い雰囲気に包まれていた……


 (サーバルさん、出来たよ!カラカルさん寝てるから静かにね……)


 こそっと、出来た事をサーバルさんの耳元で教える


 (うん、見せて見せて!……うわぁ……!すっごーい……!キュルルちゃん、とっても上手なんだね!素敵な絵をありがとう!!)


 絵を誉めてくれる

 とても嬉しい


 サーバルさん、しばらく絵を無言で眺めた後……


 (さ、サーバルさん!?)

 (カラカルも、一緒に描いてほしいんだ。少しお手伝いしてくれないかな?)


 (……分かった……)


 しかし、カラカルさんは寝相が良くないみたい

 始めの頃は、ちゃんと椅子の上で寝ていたんだけど、今は床に大の字に寝っ転がっている……


 起こしてしまわないように、カラカルさんをそーっと、二人で抱き抱える


 構図はサーバルさんに凭れるカラカルさん、という構図がリクエストされた


 「う、うぅん……サーバル……?」

 「!?」

 「むにゃあ……」


 サーバルさん、慌ててカラカルさんを覗き込むも、「大丈夫!」と手で合図をしてくれた

 ふぅ……危ない、危ない……


 (マドノソトゴラン、フタリトモ……)

 (どうしたの?ボス?)

 (ホラ!)

 

 うわぁ……!!


 (サァ、シシザリュウセイグンダヨ!!)


 窓の外は、暗闇

 だけども、優しく照らしてくれる月明かりと空いっぱいに広がる瞬く星たち

 一筋だけじゃない、一度それが始まると次から次へと白く、輝く尾を曳きながら吸い込まれていく星たち 


 (ボス、でもわたしもだけどお話しても良いの?)

 (イマハ、…………トシテダカラネ、コレハボクタチダケノナイショダヨ?)

 (ありがとう、ボス) 

 

 ボスは、ぼく達に振り返る事は無い


 正面の窓からも、きっと見えているはず

 たくさんの流れ星を見ながら、ボスはなにを思うんだろう……?


 気がつくとぼくは、スケッチブックにその光景を描き始めていた

 

 描きたい

 この、美しい星空を……

 心の中だけに留めて置くのは勿体無い気がしたんだ!


 そして……


 ↑←→→→↓↓A+A+B


 「あれ……?」

 

 どうやら、朝が来たみたい

 窓からは、元気がもりもり沸いてくる輝きが、ぼく達を包んでいる


 そして、絵は完成していた……!

 月明かりの感じは控えめに、流れ星がさあっと流れていく筋は次第に細くなって、少しばかり、紙に滲んだ跡が有った


 「キュルル、おはよう」

 「あ、カラカルさん!」

 「あんたも、まだまだね……」

 「え……?」


 カラカルさんは、ぼくのスケッチブックを眺め、そう一言


 「だってこれ、あんたが居ないじゃない?」

 「そ、それは……」

 「もし、その……良ければだけど……?」


 カラカルさんは、右でも左でもどっちでも良いから、描きやすい所に絵を描いてるぼくを描き足してほしいとリクエストしてきた


 「やってみるね」

 「べ、別に、あんたに期待してるわけじゃ……な、無いんだから、ね……?」


 「ちょっと待ってて」


 描いてた絵の左側、そこが空いてたのでそこに「ぼく」を描き込んでいく……

 光の当たっている二人の影に入るような構図になっちゃうけど、これで良いんだ

 そうすれば、主役であるカラカルさん、サーバルさんが映えるからね!

 おまけとして、ボスがぼくの膝にのっかってるのも付け加えてみた


 「出来たよ!」

 「どれどれ……」

 「どうかな?」

 

 しばらく無言だったけど……


 「キュルル、やっぱりあんた、やれば出来るじゃない……!これで完成ね!!」

 「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいよ!」


 ここで、ふとサーバルさんを起こしに行くカラカルさん


 「……がおー!食べちゃうぞぉっ!!」

 「にぎゃああああ!!ってカラカル!!」

 「サーバルごめんね?」

 「でも、そうやって起こしてくれるって珍しいね!?」

 「キュルル、ちょっとそれ借りるわよ?」


 スケッチブックを渡し、サーバルさんは覗き込む

 ぼくはとても嬉しかった


 声には出していないけど、両手で口を抑え、とても驚いた顔をしばらくした後


 「すごい……」

 

 これだけでも、描いた甲斐はすごく有ったと思った


 最後にボスに見てもらうと、足をパタパタさせ、跳び跳ねたり交互に目を光らせたり

 やっぱりボスも喋らなかった


 正面に向き直ると


 「オキャクサマ、カイジュウエンマエマデハモウスコシデス、オタノシミニ!!」


 と、


 それから今も使えるか分からないけど、施設には水の中でも息が出来るてきな装置が有ると教えてもらった


 ボスによる案内が終わる頃、モノレールは速度を落とす


 「オキャクサマ!カイジュウエンマエ、トウチャクダヨ!!」


 「さぁ、行くよ!キュルルちゃん!カラカル!!」

 「ちょっとぉ!あんただけ先なんてズルいわよ!!」


 元気よく外へと飛び出す二人

 降りるとき、ちらっとボスと目が合った

 (キュルル、ボクノブンモヨロシクネ!!)

(ボス、行ってくるね!)


 小さな声でお互い、挨拶だ


 スケッチブックよし!リュックよし!キミによし!ぼくによし!


 うん、よし!

 さぁ、今日も一日が始まる


      「まってー!」


 ↓↓↑←→→↓↑←B↓←A


 「うわぁ……!!」

 「デカァァァァァァァいッッッ!!!!」


 青い空ッッ!白い砂浜ッッ!!打ち寄せる波ッッッッッ!!!!


 「説明不要ッッッ!!これは……海だよ!!」


 カラカルさんと、サーバルさんは「冷たァァァァァいッッッ!!!」と波打ち際で海を楽しんでいる

 カラカルさん、海水が目に入ったらしく痛い様子……


 「ぺっ!ぺっ!何よこれ!?普通の水の味じゃない!?なんだか辛いわね!?」

 「ぺろっ……ほんとだー!お塩の味がするーっ!」


     「説明しようっ!!」

 

 「まーた始まったわ……」


 海水とは、ぼくたちの棲んでいるこの地球上に存在する海の水の事!

 

 ざっくり言うと、だいたい3%位塩が含まれています

 人体との馴染みがあんまりよくないので、たくさん飲むのは身体に障るから要注意

 浸透圧がどうのこうのらしい


 塩がどこから来るのかは、むかーしむかし、そのまた気が遠くなるようなむかし、……説明が面倒なんで、省きます

 ナトリウムと、塩酸が結合したのが塩になって、気が遠く成る程のなっがーい年月を掛けて今の海が出来たんだそうです

 山が元気なら海も豊かに成ります

 いつまでも継いでいきたいモノですね!


 ちなみに中の人は海派です


 「スケッチブックに描かれてる場所は、大体この辺な、はずなのに……?」

 「無いわね……」

 「誰かに聴いてみる?」

 「でも、この辺りには……」


 すると、カラカルさん、おみみを立てて、気配を探る……

 

 「居た……!あそこよ!」

 「いよーし!行ってみようよ!!」

 「勝負よ!!サーバル!!」

 「負けないんだから!」

 「えぇ……!?待ってー!!」


 施設へ向かって一直線!!

 それにしても二人は足が速いな……


 「ドルカさん!行きますよ!!」

 「良いよ!いつでも来て!!」 


 誰かがボールを高く上げ……


 「喰らええッッッ!ドルフィンスパイクッッッ!!」

 

 「ドルカさん……やりますね……!ですが!!」

 

 スパイクとは、手で打つものなんだけど大きな尾を使い、力強く撃ち込んだ!!


 なんて、豪速球なんだろう……


 それを、もう一人の方が両手を前に出し、いわゆる「レシーブ」で応えている


 もしも、ぼくが受けた場合、無事でいられないことだけは確かなのははっきりとしている


 フレンズ対フレンズ

 二人だけの空間に、ぼく達は入る余地が無いことを悟った

 そして、カラカルさん、サーバルさんはお口をぱっかり開けたまま、固まっていた


 そこそこラリーが続いた処でふと、止まり……


 「ドルカさん、ふと冷静に考えてみて果たしてこれが楽しい、と言えるのでしょうか?なんというか……物足りない感じがすると言うか……」


 「あー……それ、なんとなくだけどそう思ってた……」


 「でしょ?一体、何が足りないんでしょうか……」


 「あ、もっと誰か呼んでみる?ほら、シャチとか!」


 そろそろ声を掛けてみようかな?


 「あのー……」

 「どちらさまですか?」

 「え、えっとー……」

 「わたしは、サーバル!こっちは、カラカルで、この子はキュルル!」

 「始めまして!」


 サーバルさんが切っ掛けを作ってくれてなんとか声を掛けることができたって……えぇっ!

 

 「バンドウイルカのドルカだよっ!」

 「カリフォルニアアシカのフォルカです」


      二人合わせて……


     「ダブルフォルカ!」


 「あたしは突っ込まないわよ?」

 「えぇ……」


 「ドルカー!フォルカー!おやつの時間よー!!」


 施設からとても大きな声がした


 「ねぇ、みんなもおかーさんに会ってみない?」


 「おかーさん?」

 

 おかーさんは、シロナガスクジラさんの愛称で、とっても優しくて、とっても力の強い方なんだそう

 

 施設が近づくと何か書いてある


       「海の家」


 「の、って変だね!」

 「サーバル!?あれが分かるの!?」

 「なんとなく……だけどね」

 「やるじゃない……?」


 そして、なんだか良い香りが漂ってきた……

 

 「おかえりなさい!あらぁ、新しいお友達かしら?」

 「どうも、始めまして!」

 「さぁ、こっちへいらっしゃい。おやつ、たくさん出来てますよ!!」


 微笑むこの方が「おかーさん」

 なんだか、懐かしい感じがするな……

 ジャパリコロネを作ってみたんだって

 

 「初めて作ったから、あまり上手じゃないんですが……」


 おかーさま!?嘘をおっしゃい!?


 お皿にたくさんのジャパリコロネは形、大きさ、具材、その全てが揃っている、これのどこにケチを付ければ良いというのか、ぼくは戸惑いを隠せずにいた!


 「暖かいうちにどうぞ、召し上がれ!!」


     いただきまーす!


 これは……ッッ!


 あの、じゃぱりまんの生地が使われている

 それだけでも贅沢だと言うのに、なんと!なんとその中には、チョコが控えめながらもその存在を主張して来るではないか!!

 そして、もう一口……

 コロネの段々が舌を楽しませてくれる……贅沢だ……おそらく、何か分からないけど隠し味がこの中には確かに、存在している……葡萄をはんだ時に感じるかのようなあの、独特な風味

 通称、マスカテルフレーバー……甘酸っぱさの中に微かな渋味がある

 

 「こんな、旨いものが……まさに、これは……」


      御褒美……ッッ!!


 「あら?キュルル、どうしたのかしら?」

 「おかーさま、お気になさらずに、いつもの事よ」

 「そうなのね?これもどうぞ……」


 「頂きます……はっ!?」


 ティーカップに注がれた琥珀色の紅茶……

 

 「まさか……っ!?」

 「ふふ……そうなんです。よく分かりましたね?」


 そう、隠し味に使用されていたのはダージリン

 それも、セカンドフラッシュ……!


 


 「ねぇ、カラカル?キュルルちゃん何してるの?」

 「さぁ……?ま、難しい話はあっちにおまかせして、早いとこ取っとかないと無くなるわよ?」

 

 

 紅茶の余韻……喉を通り越した後、ほんわりとした風味を愉しむ為、目を閉じる……

 すうっと、後味が退く頃目を開けると、いつの間にか、くいと、眼鏡を上げるおかーさまとぼく、一対一の席がセッティングされているではないか!


 「あ、おかーさん!出来たみたいだよっ!」

 

 オーブンの前にはドルカさんが

 「ドルカ、あれをしっかり着けるのよ?やってごらんなさい」

 「うんっ!」


 手を被う、厚手の手袋を着けて扉に手を掛けている


 「じゃあ、いっくよー!」


 「おおっ……!」


 風味豊かなバターの香りが部屋一面に拡がる……


 「これは、ビスケットと言いましておかーさんの得意料理なんです!」


 おかーさま、「多目に焼いたから、たんとお食べ」とにこやか顔        


 フォルカさんの丁寧な手つき、音を立てずにテーブルに置いて貰った「宝の山」まだ、贅の限りを尽くしたおやつタイムは終わりそうにない…… 

 

 「頂きます……」

 

 「これは、分かるかしら?」


 おかーさまの挑戦状を有り難く頂戴する……


 「えぇ、分かりますとも……」

 

 これには、すぐそこの海岸の海水を、天日干しにして混ぜ混んだ、いわばおかーさんスペシャル……

 バターにも塩が使われているけど、それとはまた違った風味があるからそうだなと思った


 「あんた、なんでわかるのよ!?」

 「あはは、なんでだろ?」

 「キュルルちゃんすっごーい!?」


 おかーさまの満足した表情から正解である事が、理解る


 その後は、フォルカさんとドルカさんに解説をしてもらいながら、賑やかで暖かい雰囲気に包まれたおやつの時間を堪能したぼく達なのであった……





 しゅっぱつしんこー!ジャパリパーク!!


 


 

 

 

 

 

 


 

 


 


  

 


 

 

 

 



 

 


 


 

 



   


 


 

 

  


 


 

 


 

 

 

 


 

 



 


 


 

 

 


 


 


 

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