僕らにはまともな恋はできはしない
藤也チカ
第一章 春、それは出会いと変化の季節
プロローグ きっとそれは、切なくて
中学生最後の冬の事だった。
多分その日は雪が降っていたんだと思う。ううん……確かにあの日は、特別寒かった。
朝から空には雲がかかっていて、その日のお昼からはもうパラパラと雪が降り始めていて……下校する頃には、グラウンドは一面真っ白の雪化粧が施されていた。
「寒いなぁ……」
かじかんだ手を擦り合わせて吐息で指先を温める。
吐息は白く、僕の指先を包み込むと、空気に溶け込むように消えていった。
中学校生活最後の冬、どこか焦りがあったのか、僕は思い切って、3年間思い続けていた“彼女”に思いを告げるために手紙を書いた。
今頃ラブレターなんて、このご時世、前時代的ではあるけれど“彼女”の連絡先を知らない僕にとってはこれしか思いを告げる方法はなくて……
けれど“彼女”は一向に来る気配がない。
手紙に書いた時間はとっくに過ぎている。場所も間違えるなんて事はないはずだ。
「ははは……そっか。そうだよね。多分、ふられたって事なんだよね」
考えれば考えるほど胸にズシリと重みを感じて、僕は思わず乾いた笑みを浮かべる。自分で言っておいて惨めになってしまってさらに胸が苦しくなった。
「もう、帰ろうかな」
これ以上は耐えられなくて、僕は重い足取りで体育館裏を後にした。
「ねえねえ、本当に行かなくて良いわけ?」
「はぁ? 冗談でしょ。行かないよ」
「アハハ! 鷹辺君可哀想ー」
体育館通路に出る途中で聞き慣れた声がして僕は咄嗟に物陰に隠れてしまった。
物陰に身を隠しながらそっと様子を窺う。
同じクラスの女子の5人がグループになって一緒に帰っているようだ。
その中には……“彼女”がいた。
僕が“彼女”宛てに書いた手紙を他の4人に見せびらかし、ケタケタと笑っている。
「ずっとあなたの事が好きでしたって、寒いセリフ。こんなんで落ちる奴いないって!」
「アハハ! 言えてる~。テンプレかよって感じ」
「大体さ、アタシがあんな根暗相手にするわけないじゃん? 夢見すぎだろって感じ」
「良いじゃん。夢見させてあげなよー。案外尽くしてくれるかもよ?」
「うっわ。今ガチで震えたんですけど。吐きそう……」
「うわー。汚ーい」
「「「「アハハハ!」」」」
僕は壁にもたれ掛かり、その場に崩れ落ちる。
聞くべきではなかった。今日は気分を変えて裏門から帰るべきだった。
プレス機でじわじわと圧を掛けられるような胸の苦しみに耐えきれなくなって涙が溢れてきた。
泣くつもりなんてなかったのに……。
抑え込んでいた涙は溢れ出すともう止まらない。次から次へと目尻から零れ落ちて頬を伝い、顎先に溜まって地面に滴る。
こんな今の自分に気付いて欲しくなくて僕は声を押し殺しながら嗚咽を漏らした。
「本当、アンタも大変よね~。幼稚園からの付き合いなんでしょ?」
「えっ……うん」
「えぇ!? 幼馴染ってやつ? あんなのと幼馴染なの? 苦労多いんじゃない?」
「そ、そう…だね。ちょっと苦労はあるかな」
腕に顔を
四つん這いの体勢になりながら俺は物陰に隠れた状態で再び様子を窺った。
「嘘……そんな事って」
そのグループの中には
他の女子がケタケタと笑う中で詩穂梨は困ったような笑みを浮かべている。
僕がふられたのを分かっていて、その相手を前に同調して笑っていた。
「うわー、幼馴染にさえ見放される鷹辺君可哀想ー」
「「「「アハハハハ!!」」」」
とうとう僕はその場にいる事も耐えられなくなって逃げ出すように家に帰った。
自分の中で初めての告白が儚く散っただけじゃなく、笑いものにされて恥をかかされ、詩穂梨にさえ裏切られて……。
この日の出来事は、僕の胸に一生消える事のない傷跡を残した。
多分、この後からなんだろう……僕が恋に臆病になったのは。
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