テンプレラブコメかと思えば学校一美少女に標的にされるってどういうことですか!?――――だけど好きにならないとは言ってない！

第62話 泉愛華の独白

　……私にはあんまり感情が無いのだと思っていた。

　友達と遊ぶ時も何処かうわの空で違うことを考えている。何をしても最高に楽しいなんて感じたことなんて一つも無い。周りが騒いではしゃいでるのを見て、自分も騒いでいるけどそこまで楽しいと思ったことは無い。

　ただ、何もない毎日を淡々と過ごしていく毎日。何が面白いのかと私は自分に問いかけられている気がいていたけど、無視をして、勘違いだと思い込み、心に蓋をした。

　　私は幸せな暮らしをしているのだから。友達も居て、休日も遊んで騒いで楽しいだと思っていたから。だけど、私には何処かが足りない気がしてしまった。

　高校に入れば、少しは何か違った生活が待っているなんて思ったけど何も変わらない。ただ、学校で友達と遊んで、外で騒いでの繰り返し。中学校と何一つ変わらない毎日だった。

　だけど、そんな時に、友達の一人に私の事を気になっている男子がいることを知った。

　『この人めっちゃカッコイイし愛華付き合ってみるべきだよ！』

　元々、感情にあんまり揺らぎを感じたことのない私は恋なんて、愛なんて知らないのだとばかり思っていた。だけど、もしかしたらこれで何かが変わるのではないかと思ってその友達の提案に乗って、宇治幸也と言う人と話して、流れのままで付き合うことになった。

　……だけど、付き合って一度ショッピングモールに行ったけど、やっぱり何も変わらない。友達と遊ぶのと何が違うのか自分でもよく分からなかった。

　ここでも私にとって変化が起きる物は見つからないのだと分かり、別れを切り出してもあちらは中々出来ないで、何度も電話が来て思わずゾッとしてしまった。

　私はあんまり感情が揺れる人間ではなかったからこそ、何がそこまで人を変えるのか理解出来ず、一度会っただけだけど優しい人というのは知っていたから余計怖く感じてしまった。

　そんな時、出会ったのが――――吉条宗弘という何処にでもいそうな男子の一人だった。

　パッと見たときは何一つ興味なんて無かったはずなのに。

　『お前のせいで！』

　一応彼氏だった宇治が怒って殴っている筈なのに、私は殴られている広先輩を見て、固まってしまった。

　――――どうしてそんなにも悲しい顔をしているのかと。

　今まで私は色んな人と話したり、遊んだりしてきた。けれど、あんな悲しい顔をした人を見たのは初めてだった。多分、あの悲しい表情は殴られて痛いからではないのだと感じるとともに、私は初めて言われようない胸に苦しみを覚えた。

　広先輩が学校の先生に連れていかれ戻ってくるときにはその表情は消えていたけど、私の中であの顔は多分忘れることが難しいと言えるほどに消えることはないのだと感じた。

　だけど、悲しい表情よりもそれ以上にどうしてこの人はあんな目に遭うことが出来るのだろうか。どうして、見ず知らずの私なのにあんなことが出来るのか分からなかった。

　『今後その場のノリなんかで付き合ったりするな』

　……どうして、さっきまで殴られてあんなにも悲しそうな顔をしていた貴方が私の事を注意する気遣いが出来るのか、私には分からなかった。

　私は世の中の人間は私利私欲の為に動くのだと思っていた。周りに流される人もそれは巡り巡って自分の為になる行動だから動くのだと思った。なのに、自分を傷付けてあんなあ悲しい表情をしていた貴方がどうしてそこまで他人の為に何かが出来るのか私には分からない。

　初めは本当にどうでもよかった広先輩の事が私は少し気になっていた。

　話せば話すほど分からない人で、私なんて眼中に無いって行動が女として少し悔しくて――――貴方にもうあんな表情をしてほしくないんだって初めて思えて、こんな気持ちにどう整理していいのか段々と分からなくなってしまった。

　私に色んな経験を感情を与えてくれたのは貴方だ。

　――――初めて遊んでどうしたら楽しんでくれるかなんて人の為に何かを考えることを。

　本当はあの日、凄い徹夜して必死にどうしたら楽しんでくれるのか考えてしまったなんて本人には言えない。

　――――広先輩が傷つかないために私も少しは頑張ろうなんて思えたのは。

　部活なんてたかが内申の為に入っていた筈なのに、私は必死に考えるようになるなんて思いもしなかった。

　――――誰かに手料理を食べてもらって美味しいって言われて嬉しいよ頃日を与えてくれたのは貴方だ。

　広先輩の家に行って、料理を食べて美味しいって言われて、多分表情には出ていなかったかもしれないけど、本当は心臓が飛び出すのではないかと言わんばかりに激しく鳴り、表情を隠すのに必死だった。

　――――誰かと話していれば、心がチクリと針が刺すような辛い思いをしたのは初めてだ。

　漢城先輩と話している時、私がどれだけ苦しい思いをしているのか自分で自分が分からなくなる程に心が締め付けられる。

　――――だけど、苦しい以上に誰かと素で話す楽しさを教えてくれた。

　初めだ。人と話してこんなにも楽しいって思えたのは。明日も早く学校に行きたいんだって、明日は何を話そうなんて考えたのは初めてだ。

　全部、全部貴方が私にくれたものだ。

　だからこそ辛い気持ちもあった。私は一年生で広先輩たちは二年生だ。私は皆とずっと少し違った道を歩いていくんだ。広先輩たちが卒業して違う道に進んでいく中、私はそこにはいないんだ。

　一緒にはいられないのだと気付いた時、悲しい気持ちになった。何で私がこんな気持ちになるんだ。

　今まで中学時代でもこんな気持ちになったことないのに。だから、今を精一杯生きたいってそう思ったんだ。私が後々後悔しないように今を貴方の為に頑張りたいって思えたんだ。

　そんな広先輩が頑張って走る姿を見て思わず涙が出そうになるのを堪えるのに必死だった。

　……貴方が頑張ってる姿を見てどうして涙が出そうになったのかなんて分からない。だけど、出そうになった。この言いようもない気持ちを与えてくれたのは貴方なんだ。

　『頑張れ広先輩！』

　私はこんな人じゃなかったのに。誰かを必死に応援したり、頑張ったり、緊張したり全部そんなの私じゃなかったのに。

　貴方がいたから私は変われたんだ。

　『勝者は――――吉条選手！大逆転勝利！四位から一気に上り詰め最後には清水選手との大接戦！そして最後の一ｍを制覇したのは吉条選手！後半戦優勝は二年四組だ!!』

　勝ってしまった。本当に勝つなんて……。

　「愛華!?え!?大丈夫!?」

　「……う、うん。大丈夫」

　思わず堰き止めていた涙が溢れてくるのを感じて必死に止める。初めてだ。感情的になって涙を流すなんて。

　何で広先輩はそんなにも私をこんな気持ちにさせるんだ。

　「泉」

　「……え？」

　「ん？何でお前泣いてんだ？」

　「……な、何でもないですよ」

　私を泣かせた張本人がこっちに来ているとは思わず必死に涙を服で拭う。

　「…な、何でもないです。どうしたんですか？」

　「いや、一言だけお前に言おうと思ってな。楽しい体育祭じゃないだろ？お前が望んだのは。今――――最高に忘れられない体育祭になっただろ？」

　――――ああ。

　どんどん自分の想いが募っていくのが分かってくる。

　私が貴方にお願いしたんだった。忘れない体育祭が見たいって。

　ただ、私は貴方と体育祭で一緒に居られるだけで忘れられない体育祭になったのに、やっぱり貴方は私を心底驚かせて、更に私を困らせる。

　こんなにも想いが募った事は無い。

　だけど、募れば募るほど貴方に対し辛い気持ちを味わってしまう。貴方と話したい。遊びたい、一緒に居たい。楽しさを喜びを悲しみも全部貴方と共感したい。そう思える人がいるなんて思いもしなかった。

　だから、他の人じゃなくて貴方と私で共感したいんだ。だから、これ以上私を辛い思いをさせないで、これ以上貴方を――――好きにならせないで。

　――――私はもうあなたを忘れられないぐらいたまらなく好きなんだから。

　「はい！」

　けれどまだ自分の想いを伝えることなんて出来ない。だから、いつかきっと私が絶対に伝えますから。

　――――覚悟しておいてくださいね。広先輩。