第56話 体育祭 中編

 『本校の棒倒しが他校とは違うということを配慮して、一応説明させてもらいます。全学年で合わせた赤、白で三十人チームずつあり、計三回戦行われます。その三回戦で先に二回勝った方が勝ちとなります。運ではなく地力の差、両組の作戦がここで必要となってくるでしょう』


 漢城がルール説明している間に赤組である俺達の中には知り合いである黒柿がいたが、それ以外は知り合いはいなかった。

 そんな中、赤組の応援団長であるスポーツ刈りの三年生が棒倒しに出る人達の前に出る。


 「一応作戦というか、俺達は基本通りに一回戦は十五人、二回戦はもう片方の十五人、そして三回戦にもつれた場合は一、二回戦で勝った方のチームでいく。絶対に勝つぞ!」


 「「おお‼」」


 応援団長が叫べば、周りの全員が声を揃えて力強く返事する。

 ……え?今から喧嘩でもするような雰囲気だけど体育祭だよな?


 少し戸惑いながらも入場すれば、あちらさんもやる気十分の様な気がする。いや、やる気が漲っている。今から戦争とか始まらないよな?体育祭だよな?


 『それでは両陣営棒を起こしてください』


 漢城の指示で何人かで棒を起こす。

 因みに俺は前半は防衛組。だけど、防衛は出来る自信は皆無です。


 『それでは今から男たちによる棒倒し開始です!』


 「行くぞ赤組!」


 応援団長が叫びながら、赤組十四人を引き連れて攻めに行った――――だが、俺にとって予想外過ぎる展開が目の前では行われていた。


 白組のメンバーは七十キロ以上の体重、180㎝以上の伸長を持った二人の男で棒を支え、棒の前に三人、計五人だけで守りその他を全て攻めに転じてきた。


 ……マジか。


 白組はどうやら予想外の戦略を用意していたようで一気に攻めかかって、俺達は同然と言うべきなのか、短期決戦で為す術なく棒が倒される。


 「よっしゃー!」


 「次もいけるぞ!」


 白組は嬉々とした表情で戻っていく。


 『な、なんと!白組は無謀とも言えるほどの防衛を少なくして一気に攻めてきました!だが、突然の攻撃に赤組は何もすることは叶わず倒されてしまった!これは白組に優秀な参謀がいるのか!?』


 白組の方を見れば、春義が防衛で仁王立ちしている姿が目に入った。

 ……多分作戦の発端はあいつか。

 流石に予想外過ぎるが、それが功をなしている。


 「次だ!次は取るぞ!」


 「「お、おう!!」」


 突然の白組の攻撃に赤組の殆どの指揮が下がっていたが、応援団長が声を上げて皆も声を上げている。


 『それでは、第二回戦です!赤組に次はありません!頑張ってください!』


 赤組に次が無いという言葉は周りに火をつけたのか、全員が真剣に前だけを見据えている。


 『始め!!』


 放送部の声と共に赤組の攻める方は一気に攻めかかっていく。

 俺も攻めに入ったのだが如何せん人が多すぎて人混みで気分が悪くなってしまいそうだった。

 だが、白組が一回戦を勝って油断したのか、それとも気が緩んだのかは定かではないが、本当に僅差で先に白組の棒を倒すことは出来た。


 ……だが、次は負ける。今のは白組が油断しただけだ。


 俺にとってはこれはただの体育祭で入らなければならないという競技だが、ここで負ければ少し春義に負けたような気がしてならない。それだけは何か嫌だ。


 「お兄ちゃん頑張れ!」


 ……お兄ちゃん?


 突然聞こえた声に思わず反射的に背後を振り返れば、来客席に妹がいた。


 ……何故いる?


 今すぐ問い詰めたい気持ちだが今は競技中で抜け出すことは出来ない。

 それに応援してきたのであれば、少しはかっこいい姿を見せてやろう。そろそろ兄の威厳というのを見せないとな。


 「応援団長。俺に一つ作戦があります」


 応援団長に一つ提案を提供する。


 「――――それで勝てるか?」


 「分かりませんけど、何もしないよりはましかと」


 「……そうだな。皆に説得してみよう。どっちみち今のままじゃ勝つのは少し厳しそうだしな」


 自分で発案しておいてなんだが、これに乗っかてくるとは中々にこの人は肝が据わっている気がする。


 『それでは最終勝負!第三回戦』


 「ちょっと作戦タイムが欲しい!」


 『え?』


 「一分…いや三分で良いんだ。駄目か?」


 『え、ええと白組団長は良いでしょうか?』


 「全然構わないよ」


 白組応援団長はどうやら春義のようだ。知らなかった。


 だが、これで作戦を話す時間が手に入った。

 応援団長が皆の前に立つが、何故か俺の方を見て手招きする。ここは、俺じゃないと思って行かないという選択肢もあるかと思ったが、それで余計な時間を食らうのももったいないので、仕方なく前に出る。


 「それで、俺達は多分今のままじゃ白組に負ける可能性が高い。ということで、作戦を一つこの吉条君から聞いて欲しい」


 「俺が言うんですか?」


 「ああ。お前から説明してくれ」


 先輩に言われれば断ることも出来ないので、一応説明すると赤組の坊主頭の一人が立ち上がり、俺の前に出る。


 「お前、それで勝てるのか?」


 「多分ですけど……どちら様ですか?」


 「ふざけんな!同じクラスだ!」


 漫画の様なギャグではなく、普通に分からなかった。だって一回も話したことが無いんだから仕方なくないと思ってください。


 「分かった。あれだ、同じクラスの水沢?」


 「誰だよ!水重だよ!」


 「惜しかった」


 「惜しくねえ!!それよりも本当に勝てるのか?俺は今年に賭けてんだ!」


 何がこの水重君を押しているのか分からないが、どうやら殆どの人は勝つ気満々。まあ、俺も今はそうだけども。


 「分からんが俺でもこのままじゃ勝てないということは分かる。やるしかなくないか?」


 「……確かにそうだけど」


 「まあ、というわけだ。俺もこの作戦は結構良いと思う。皆もそれでいいか?」


 「「はい!!」」


 流石赤組団長。最後はビシッと締めてくれる。


 後は、勝つのみ。


 兄の威厳を保つために!

 ちょっと皆とは勝つための気持ちが違う気がするが気にしない!


 『それでは三分が経ちましたので試合を再開します!第三回戦用意してください』


 漢城の言葉に赤組、白組は互いに棒を立てる。

 やはり、あちらは棒を支えるのは二人って事はさっきと同じか。


 『始め!』


 漢城の言葉で両陣営が動き出すが、やはり白組は大勢で一気に攻めかかってくる。


 ここまでは分かり切っていたこと。ここからは作戦が上手くいくかどうか。


 『お、おっとこれは予想外です!白組が大勢で攻めかかってくるのに対し、赤組は大勢で守り、何と赤組の攻める人数は四人!これは勝てるのか!?』


 こちら側から攻めるのは俺と俺の推薦で黒柿、応援団長、そして知らない三年生一人。


 「兄貴やってやりましょう!」


 「分かってるから。てか、久しぶりに兄貴って聞いた気がする」


 黒柿と一緒に攻めていくが、ここはばらけた方が良いだろう。

 少し黒柿との距離を開け白組に迫っていく。


 ここで、理想的なのは相手の守りが目立つ黒柿や応援団長、もしくは三年生の方に向かい、俺は無法備。そこを影が薄い俺が背後から奇襲。


 完璧じゃね?


 「何処に向かおうとしてるんですか?先輩」


 「ここは通しませんよ」


 ―――――まあ、そんな簡単にいくとは思ってなかったが、まさか棒を守るのが二人に対し通せんぼするのは三人の筈なんだが、その内の二人がこっちに来るとは思いもしなかった。


 「……おいおい。人選間違ってるだろ。行くなら応援団長か三年の方に行けよ」


 「これも春義先輩の命令なんで。吉条先輩の方に行けって」


 「だから、通しませんよ」


 「マジか。流石に予想外だし、お前らが守りとはな。


 オック―こと、小倉鷲高、景こと、古宮景一である伊瀬の噂を聞くために尋ねた黒柿の友達二人が目の前に立ちはだかるのだった。

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