第40話 向江美優の解決策

 翌日も漢城がアルバイトの手伝いを行ってくれ、何とか料理場は対処が出来た。そして、俺や南澤、寺垣も二日目となると段々と要領を掴めてきた。よって、少し周りを見る余裕さえも生まれた。

 ピーク時間を超えたにも関わらず、前日よりは疲れていないのを体で実感しながら、今日の俺にとって一番重要な話し合いが始まる。

 今日も妹と萩先生と遊んでいた向江が三人揃って帰ってきた。


 俺が向江の方を見ると、あちらも気付いたのかコクリと頷く。

 昨日同様に座っていたのだが、少し重い腰を上げながら向江の元に向かう。


 「助けて欲しいって言ってこい」


 「……うん」


 「何のこと?」

 

 「今から分かる」


 隣にいた妹が当然の疑問を浮かべるが、今から向江が話すのでわざわざ教える必要も無いだろう。


 だが、これには金松さんも聞いておかなければならない案件だと俺は思うので、ちょっと待ってと向江に伝え、今も尚働いている金松さんの元に向かう。


 「あの、今お客いないですしちょっと時間ありますか?」


 「ん?まあ、あるっちゃあるがどうしたんだ?」


 「貴方の甥っ子さんが皆に聞いて欲しい事があるそうです」


 「美優が?」


 向江が話すと聞き、怪しむような眼をこちらに向けてくる。


 「大事な話ですよ」


 俺の言葉に何かしらあると金松さんは感じたのか、店を閉めるから少し待ってくれと言われたので、待つだけでは暇だし時間が掛かりそうだったので少し手伝い、金松さんと一緒に全員が集まってるベンチへと行く。


 「……それで大事な話ってのは何なんだ?」


 「私達もこれから聞くんですよ」


 全員が集まり、俺もまたベンチに座ろうと思ったのだが、向江から一言。


 「こっち来て」


 「面倒だから嫌だ」


 「行ってこい」


 隣に座っている金松さんから頭を叩かれる。この人って向江に対して凄い甘い気がする。立っているのが面倒なので座っておきたかったのだが、仕方ない。


 渋々と言った形を金松さんに見せつけながら向江の隣に立つ。

 だが、元々あまり話していない人と話すのは得意ではなかったのか、向江はモジモジとして話そうとしない。


 「……俺ここにいる意味だろ。お前喋んないなら戻っていい?」


 「おい!美優に対してなんて言い方を」


 俺の言いように金松さんが注意しようとしたが泉によって手で遮られる。ナイスだ泉。


 「確かに俺は言ったらどうだ?とは言ったが最終的に決めるのはお前だ。話せないんなら戻るぞ?」


 「話せるもん」


 ムキになったように口を尖らせた向江だったが、直ぐに全員の方に向き直り、口を開いた。


 向江と言う少女は子ども扱いが嫌いだ。ならば、子供扱いすれば羞恥心や緊張など忘れて話すことは出来るだろう。


 目測通り向江は自分が三年生になってから無視されるようになり友達がいなくなったという話をし、自分は少なくても良いから友達が欲しいという趣旨を皆に話す。


 「――――助けて貰うこと出来ますか?」

 

 言い切ったのだが、あまり自信が持てないのか向江は敬語になりながら全員に尋ねるが、


 「「絶対に助ける!!」」


 泉、寺垣、南澤が満場一致の答えを出し、


 「今から殴り込みに行くぞ」


 手をポキポキと鳴らしながら金松さんが立ち上がるが、萩先生が必死に宥める中、俺は向江と視線を交わす。


 「言えば楽になったろ?」


 「うん!」


 向江は初めて笑顔をこちらに向けて大きく頷いたのだった。


 話が終わった所で向江と俺も座り、全員で話し合いが始まる。


 「私は教室内にいる他の人と話せばいいと思うわ!クラス内には他にも色んな子がいるんだし」


 南澤が真っ先に意見を述べる。


 「だけど、それは無理なのは女子が一番分かってるんじゃないのか?」


 南澤が分かっていない様なので、この場にいる漢城、泉、寺垣に向けて尋ねる。


 「そうですね。吉条君の言う通り、少し厳しいのかもしれません。本人がいる前で言うのもあれですけど、良いですか?」


 漢城が尋ねると、向江がこくりと頷く。


 「なら話しますが、多分普通の女の子の場合ですと無視されている女の子と話すと自分も周りから無視されるのではないかと言う疑問になります。自分が標的になった時が怖いので皆は向江ちゃんと話そうとは思わないと思います。そのお友達がいい例だと思います」


 「どうしてだよ!こんなにも可愛んだぞ!?」


 金松さんがビシッと向江を指差しながら呟く。やはり金松さんは向江を溺愛しているように見える。

 あと、可愛いって言われて照れている場合じゃないぞ向江。


 「それはそうかもしれないですけど、結果は変わらないと思いますよ?」


 「なら、まずは避けられる原因を見つけたらどう?」


 寺垣が中々に良い意見を出してくれた。確かに、それが分かればその友達との仲は解消されるのかもしれない。


 「どうなんだ?」


 「分かんない。私は本当に何もしてないと思う」


 向江に尋ねるが、やはり自覚は無いようだ。


 「それじゃあ、その時何か変わったことは無かった?例えば、男の子が沢山話しかけてくるとか」


 ここで、妹が助言するように呟くと、向江は少し上を向いて考えるようにうーんと唸ると、


 「あ、確かに私に話しかけてくる男の子が一人いたかも」


 「それじゃねえか」


 「まあ、美優は可愛いから仕方ないな」


 金松さんは自分の事の様に誇らしげにうんうんと頷きながら威張っている。いや、あんたの事ではないからな?


 閑話休題。


 少し話がずれそうになったが、この場合だと寺垣の案は棄却されることになる。


 「…その場合、寺垣さんの案はきついですね。女の子って理屈かどうとかの前に感情論の人間だと思いますから。美優ちゃんが謝ったとしても多分その子は許してくれない可能性が高い気がします」


 「そっか。じゃあ、他の意見を考えるしかないね」


 妹の発言に納得したように寺垣は案を下げ、他に考えるように頭を捻りだしているのか、うーんと呻き声をあげている。


 「ふむ。中々全員意見が思い付かないようだが、吉条はどうだ?」


 萩先生がまるで、俺ならば何かしら分かっているのではないかと言う視線を向けている気がしてならない。

 まあ、一応昨日向江から話は聞いているので案は一つだけあるが、言いたくはない。


 「言いたくないです」


 「どうしてですか?」


 「完璧に出来ると分かったもんじゃないから」


 泉が当然の疑問をぶつけてくるが、俺の回答はタダの自分勝手な理由だった。完璧な案が俺には今の所思いつかない。

 はっきり言って清水がここにいれば、何かしらの回答が導かれてくるのかもしれない。だが、俺は超人天才な人間ではない。直ぐに完璧な案が思い付くわけでもない。1日考えてようやく一つ回答が見つかったが、絶対に出来ると言った確証はない。


 はっきり言えば、運だ。運が無ければ終わりの俺の考え。そんな運任せな意見を自分の口から出すのは嫌だった。


 「成る程。それならどうします?」


 泉は俺が完璧主義者だと理解しているのか、次の案を探そうとするが、


 「いやいや、少しでも可能性があるんならその方がいいに決まってるじゃない」


 だが、それを全ての人が理解するわけではない。当然、少しの可能性を賭け向江を助ける方に意見する方が当たり前と言える。南澤が俺の意見を訪ねようとする。


 「…それは分かってるんだが」


 「言えない事情でもあるの?」


 寺垣が俺が意見を喋ることに何かしらの事情があるのではないかと思うのは当然だ。だが、本当に違う。ただ、俺自身のプライドが許さないだけだ。


 「いや、ただ運任せに意見を言うのは嫌いだからだ」


 「向江ちゃんを助ける事が出来るかもしれないなら今の所意見は無いですし、吉条君の案を言った方が良いと思いますよ?」


 漢城もまた意見を言うように言う。

 間違っているのは理解しているが、だがここで俺の我儘に付き合わせるのは駄目だ。


 「なら、多数決でいく。もしかしたら他に案が見つかるかもしれない。それに、俺達がここにいるのは後二日。その間しか日にちは無い。それでも、俺の運任せの意見でいいか?」


 「私は今の所案が無いのであれば、その運任せの解決策で良いと思います」


 漢城が運任せに一票、そして、更に次々と運任せに票が入り、言いたくない派は俺と泉の二票、運任せが六票と言う形になった。


 ……まあ、当然の結果だろう。


 「……多数決なら仕方ないから話すが、これには全員の協力が必要不可欠だが、その中でも一番負担が掛かるのは寺垣だ。そして、金松さん。貴方には重要なお願いがあります」


 「え?私?」


 「ほう」


 寺垣は自分が呼ばれたことに驚き、金松さんは興味深そうに片腕をベンチに傾けながら、俺の話を前のめりになって聞くのだった。


 今回は運任せ。だが、仕方ない。


 ――――やるとしよう。現代の力を駆使しして。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る