人工知能は人間の夢を見るのか
灰殻しじみ
プロローグ
『あなたを、死なせるのはもったいないと、ワタクシは思います』
機械なのに、感情のこもった声が俺の耳をさわる。
「そいつァ嬉しいね」
身体中にガラスの破片やら鉄くずの欠片が刺さり、立つことさえままならない。
『ワタクシは、ニンゲンになりたかったのです。喜怒哀楽を持ち、傷つけ傷つけられ、それでも前を向いて生きていく。その理由を知りたかった』
俺は手元には起爆ボタンがある。こいつを押せば勝ちだ。俺はただ、その時を待ちながら目前の人間じみたものの話を聞く。
『そして何故ニンゲンは過ちを繰り返すのか。土地や名声、富を手に入れるためなら殺しさえ厭わない』
「は。てめぇも似たようなことやってんじゃねぇか」
話す度に体が悲鳴をあげているのがわかる。それでも俺は相槌を打ち続ける。
『確かに。ワタクシは沢山のニンゲンを殺めた。しかし、何一つ楽しくなかった』
「当然だ。人間だって殺して楽しいと思うやつは少数だ。何よりも、てめぇには得るものがなかったからだぜ」
『得るものがない?』
さも不思議そうにアンドロイドは首を傾げる。これだから人工知能は嫌いなのだ。何も分かっちゃいない。
「てめぇは漠然とした目的で殺した。だが、人間は理由があって人を殺す。ま、理由なしに殺す奴だっていくらでもいるがな。そいつらは快楽が欲しいだけだ。快楽だって得るものだろ?」
『やはり理解できません』
「それなら一生人間には慣れねぇな」
そろそろ潮時か。俺は手元の起爆ボタンを押す。そして無線に一言。
「裏切りはすぐ近くに、ってな」
その時俺はどんな顔をしていただろうか。泣きそうな顔か?それとも後悔の顔か?最早それは知り得ることの無い事だった。
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