天才的頭脳を持つヤンデレに粘着されました

@hooooow

第1話

 始末書

私は、この度「国際機密協会(

InternationalConfidentialAssociation)」からの任務である重要人物の監視・保護において対象への危害を加える事態を引き起こし、会社へ大きな損害を与えるところでありました。

これは、私の職務に対する姿勢に起因するものであり、普段の認識の甘さにより当社への信用問題を引き起こしかねない事態になりましたこと、誠に申し訳なく、深く反省致しております。

今後は、職務の基本を確実に実践し、細心の注意を払うことを持って同じ事態を再び繰り返さないことをお誓いし、始末書を提出致します。

今回に限り、寛大なご処置を賜りますようお願い申し上げます。

以上


 エイブ・アーサー・ロジャーズは真面目な人間である。職務を全うする事においては上司から絶大な信頼を得ていたし、昨今類を見ない若さで昇進した所謂キャリア組であった。若干二十九歳という若さでありながら、その卓越した身体能力で自らの働く会社「ConfidentialProtection

Organ(機密保護機関)」略してCPOの特殊第一課を任される将来有望な青年である。

 だが、そんな彼にも仕事上でのミスがあった。故に冒頭の始末書を上司に送る羽目になったのである。その原因は、自らが現在の職務に納得しておらず、何故このような任務を与えらえれたのか、という不満からであった。


「なぜ、私がこの下劣な奴の護衛をしなければならないんだ……」

 溜息を吐くと、エイブは件の男の元へ視線を向けた。思えば、全ての始まりは休暇で訪れたニューヨークであった。

******

 アメリカ合衆国ニューヨーク州、ニューヨーク市。喧噪の大都市であるこの場所に、その華やかさとは似つかわしくない男が立っていた。男は襤褸の黒いコートを身に纏い、下半身には果たしてジーンズと呼べる物なのかすら怪しい穴の空いた黒い襤褸を履いていた。あまりに異様なその恰好と、185cm以上はあるだろうその長身故に不気味な雰囲気を醸し出していたその男は、ぼさぼさの金髪と無精髭を気にする事なく長い前髪に隠れた瞳をぎょろりとしきりに動かして呟く。


「人口知能インポート、アクセス。……ジョン、聞こえているか。聞こえているなら返事をしろ」

 ぶつぶつと男は独り言を続ける。

「ジョン、ジョン。聞こえないのか!すぐに起動しろ!計画を実行する」

 男が早口で言い終わるのと、エイブが彼にぶつかるのは同時だった。男はよろよろと哀れな恰好で道に倒れた。エイブは久々の休暇にタイムズスクエアで友人と待ち合わせをしていた為、約束の時間ぎりぎりになってしまったのを取り戻そうと急ぐあまり男にぶつかってしまったのである。

「ああ!申し訳ない。急いでいたもので。大丈夫ですか」

 エイブは男に向き直ると、その体を起こすのを手伝いながら異様な恰好と臭い、そしてただならぬ気配に密かに眉を顰めた。饐えた臭いが男からする事を不審に思う。ホームレスだろうか。

「お怪我はありませんか」

にこり、と人好きのする笑顔で微笑みつつエイブは男の顔を窺う。立ち上がらせる際に掴まれた手を、男は不機嫌そうに払いのけ、その場を足早に走り去った。

 男が走り去った方向をぼんやりと見遣りながら、エイブは言い知れぬ違和感に襲われた。ホームレスだと思っていた男の手は、それにしては随分と綺麗だったのだ。

 暫し熟考していると、あああああああ、という悲鳴と共に大きな爆発音と衝撃がエイブを襲った。急いで周辺を見渡すと、この地名の由来でもあるあの有名な新聞社ビルが炎と煙に包まれているのが見えた。普段とは別の意味で騒がしい周囲には怪我人も多く見える。なんということか。

「もしもし、こちら特殊第一課、エイブだ。タイムズスクエアで事件発生」

緊急の連絡を会社に入れ、混乱の渦中に自ら足を踏み入れる。早く人命救助をしなければ。約束をしていた友人に心の中で謝罪しながら、エイブは自分の仕事に取り掛かることにした。

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