風が吹いたら、悪事がバレる(桶屋2)
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風が吹いたら悪事がバレる
「俺たち仲良し5人組!
だよな?」
左端のケンタが俺たちに問いかける。
「もちろん!
中学に入ったばかりだけど、これからもこうするに決まってるさー!」
中学生にしては大柄な体のユウヤが肩を組みながら言う。
「ま、そう言ってられるのも今のうちかな…」
丸眼鏡のシンジはだいぶ現実的だ。
「大丈夫だって!
俺たち、幼稚園からのつるみじゃん」
そして、お気楽的な俺はそんなシンジに対する、フォロー役だ。
「そう、ダイキの言うとおり。
僕たちなら乗り越えられるよ」
「何をだよ!」
ここで俺たちにどっと笑いが起こる。
こうやってみんなに何でも同意するのが、テツだ。
夕方4時すぎ。
今日は風が強い。
昔の人は風が吹くと桶屋が儲かるといったけど、今どき桶屋なんてなかなかない。
「おい、あれみろよ。
お相撲さんが自転車乗ってるぜ」
ケンタが指差した方向には確かに、二人組の力士が自転車に乗ってる。
「この風じゃ倒れるのも時間の問題か」
シンジがそういったときだった。
強い風が吹いた。
手ぶらのお婆ちゃんは空の買い物用のカートから手を放し帽子を抑え、私服の女子大生っぽい人たちはなにか叫びながらスカートを抑えた。
自転車置き場の警備員は「またかよ」といった表情になって、倒れた自転車を起こしに行った。
そして、力士の二人組は…倒れなかった。
「さすが、運動神経高いからな」
ユウヤが言う。
それでもやはり、この風に煽られ倒れた人がいた。
「おい、ダイキの横」
見ると、自転車に乗っていたであろう、不健康そうな、若い男性が倒れていた。
かごからは、たくさんのじゃがいもやにんじん、何本かの牛乳、しまいには肉の塊までが溢れ出ていた。
「大丈夫ですか?」
俺の問いかけに対しても、
「あ、いえ。大丈夫です」
と、ぼそっと返しただけですぐに自転車にまたいで、その場を去っていった。
「今の人、見たことあるよ」
テツが言う。
「俺んちの向かいのアパートに住む、タナカさん。なんだか暗い人で、あんまり関わりたくないタイプの人間かな」
ふーん。
俺は気になったことを聞いた。
「その人、一人暮らしかな?」
「そうじゃない?家族がいるとは思えないし。
あの見た目だから恋人すらいないよ」
興味なさそうに答えるテツ。
俺はしばらく考え込んだ。
そして、買い物カートのお婆ちゃんのところへ行った。
「すみません。今、何人で暮らしてますか?」
急な質問に戸惑いながらも、答えてくれた。
「今は…娘夫婦と、孫と、爺さんと一緒だから…」
「あ、それがわかったら結構です」
そう言うと、俺はみんなのところに戻った。
「またいつものクセか?」
みんなは気にも留めてない。
「うん。あのタナカさんって人、悪い人だね」
「どうして?」
4人とも俺の方を向いて話を聞こうとする。
「ひったくりだよ」
「どういうこと?」
面倒臭いと思いながらも俺は説明をした。
「だってそうでしょ。
どう考えても、一人暮らしであろうタナカさんに、あんな量の食材、いらないよ。あんなやせ細った不健康そうな体じゃ、大食いってわけじゃなさそうし。
ここは想像の範囲だけど、じゃがいも、にんじん、肉の塊が入ってたからカレーの材料ぽかったし。それも大人数分の。
牛乳だって。一人であの量は腐るよ。
きっと、どこかであのお婆ちゃんからひったくったんだろうね。この時間に手ぶらっていうのも変だったし。」
俺の説明に納得したのか、また別の話になった。
別にお婆ちゃんになにか言うわけでもなく、ただ単にわかったことを報告しただけ。
それの何が悪いんだろう。
これを親に言うと、必ず被害者に言いなさい、だなんて言うけど、面倒臭いだけだ。
少なくとも、この場の5人はそう思ってる。
いや、俺だけかもしれない。
所詮俺たちの仲は風が吹いたら壊れるぐらいのものだろう。
俺はそう思ってる。
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