死の谷の日陰を歩いて 約束の地へ迎え

桑原賢五郎丸

異世界おくりびと

 おれの仕事は、罪人を異世界に送ることだ。


「なぜうちの子供は殺され、罪人がのうのうと生きるのか」

「なぜ反省もしていないのに刑期が短くなるのか」

「なぜ飲酒運転でひき逃げをしたのに不服の上告をするのか」


 被害者の遺族からの依頼を受け、罪人に罰を与える。決して人には言えない仕事だ。

 もちろん罪人共を殺しはしない。あんな奴らは殺してやる価値もない。


 おれに連絡を取る時は、ネット掲示板の「異世界でチートになった男が、強引ながらみるみるモテまくって美少女を喰い散らかした件」、通称いちごみるくにアクセスしてもらう。

 こんな狂った名前の掲示板にアクセスするのは、異世界とやらに逃げ込めば天国が待っていると勘違いしているバカか、シャブでもやってるか、もしくは本当に溺れている者だけだ。

 たとえ噂でも、それにすがる者は書き込むのだ。

「○○○○を異世界へ送ってください」と。


 真面目に読んだことはないが、今流行りの異世界ものというのは、やたらと主人公が賢いか強いかで、モテモテらしい。

 しかし、異世界に行ったところで自分が変わるわけではない。そもそも努力をせずに力が強くなるわけも、賢くなるわけもない。それなのに、主人公がなぜ目立つか、違和感を覚えたことはないだろうか。

 答えは簡単。周囲、モブというのか、そいつらがびっくりするほどのバカばかりだからだ。そして、おれがそのバカモブを生み出しているのだ。火というものを知らないバカが生まれたこともあったし、数字を知らないバカもいた。この間などは食事という概念を知らない、ホームラン級のバカモブが生まれた。


 なに、犯罪者を異世界に送ったら、向こうの人が困るんじゃないかって?

 そうか、あんたは優しい人なんだな。恐らくクソを流す時に「地球さんごめんなさい」と詫びるほどの善人なのだろう。だが地球は人間のクソごときで揺るがない。異世界もまた同じく。


 今夜は月がきれいだ。気分が良い。

 話せる範囲で、おれが異世界に送ったバカモブ共の話でもしよう。

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