第28話 もう一人のジョンジュン⑤ 監視人リー・ルイ
リー・ルイはジョンジュンの主治医だったが、本当のところはジョンジュンを監視するために中国政府が派遣した監視員だった。
リー・ルイがジョンジュンにかかわるようになったのは、数年前からだったが、
時々、任務が嫌になることがあった。
赴任前に、前任者は、監視対象に同情してしまい、彼と逃げようとして射殺された・・・と聞いたとき、なんて馬鹿なヤツだと思ったが、前任者の気持ちが今は良く分かった。
リー・ルイはジョンジュンの本当の素性を知ったとき、慄然とした。
目の前にいる見るからに弱弱しく見える青年が、国家権力に反抗する重罪人になることは、もはや不可能であることは明らかだった。それなのに監視と監禁は続くのだ。たぶん彼が死ぬまで、永遠に・・・
失われた年月が青年にもたらしたものは、喪失以外の何物でもなかった。
しかし青年は、記憶を失ってもその聖性を失ってはいなかった。
美しく澄んだ瞳と美しい声をしていた。
それゆえにリー・ルイは、哀しかった。
リー・ルイもときどき、彼を連れて逃げたいと思った。
彼を永遠にこの苦しみから、解放してあげたいと思った。
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