いろはにほへと
猫目 青
色とりどりの色をみれども
彩とりどりの色を見れども、姫さま以上に美しい濡羽色の髪をお持ちの方はおりません。姫さまの髪は夜闇よりも黒く、月光に輝いていたのです。
整えられた鬢の向こうに広がるお顔はふくよかで、白い頬は夜風によってほんのり紅色に染まっておりました。
夜ごとお屋敷の廂で、姫さまは琴をお弾きになられます。その琴の音に誘われて、私はお屋敷を訊ねるのが日課となっておりました。姫さまの琴を聴きにいくよう幼い頃に誰かに促され、それが今でも続いているのです。
私は山を降りて、姫さまのお屋敷へと赴きます。廂で琴を弾く姫さまのもとには、私以外にも山の獣たちが集まっていました。
私と同じ狐に、狸に、はたまた海の向こうに旅にでたはずの啄木鳥まで。皆、姫さまの琴の音に引き寄せられ、このお屋敷へと集まってくるのです。
姫さまの琴の音はまことに美しく、憐憫すらも含んだその響きは、私ども獣たちに、前世での罪を悔い改めるよう諭しているようです。
この世には六道というものがあります。
六道は天道、人道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道に分かれます。現世でどのように生きたかによって、人は来世で何に生まれ変わるのかが決まるのです。
私どもは畜生道に堕ちた身の上。前世で何かしらやましいことをし、山の獣という卑しい身の上に生まれついたのでしょう。
姫さまの慈愛に満ちた眼差しは私たちを慰めているようです。姫さまお顔は観音様のように穏やかで、見ていると気持ちが落ち着いてきます。
私たち山の獣たちの間では、姫さまは生き仏様ではないかと密かに囁かれておりました。そんな姫さまに近づこうなどという輩はおりません。でもその日、私は気分がはちょっと昂っていたのです。
姫さまがいつもと違う弾んだ曲を奏でるんですもの。私は嬉しくなってこんっと鳴いておりました。
「まぁ、やっと応えてくれわっ!」
するとまぁ不思議、姫さまが私に向かって微笑んだのです。
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