第一話「終わりの始まり」

01.目覚めれば、暗闇

 目覚めるとそこは漆黒の空間――完全なる暗闇だった。


 全身には鈍い痛み。体の下には冷たい石畳の感触。頭は軽いもやに包まれたように混乱しており、ここがどこなのか、自分が誰なのかも定かではない。


 ゆっくりと体を起こすが、当然の事ながら前も後ろも、右も左も分からない。

 ただ、僅かに感じる空気の流れだけが、自分がまだ生きているという事を実感させた。そっと前後左右に手を伸ばすが、届く範囲で手に触れるものは無い。


 「まずは灯りを」と思い至った時、ようやく自分が灯りになるものを持っている事を思いだした。

 それは――。


光よラ・ルース


 が唱えた古代語エンシェントに反応して、首から下げた魔法のペンダントの輝石が白く淡い光を放ち始めた。

 眩しさに瞬きしつつ周囲を見渡すと、どうやらどこか広い通路のただ中に倒れ伏していたらしい。左右のやや離れた所に石造りの壁があり、前後は輝石の光が届かぬ先まで通路が伸びているようだった。


 頭上を照らすと、やはり石造りの天井が広がっていた。

 だが、その一部にぽっかりと黒い穴が穿たれていた。丁度、俺が倒れていた所の真上だ。もしかすると、ここから落ちてきたのかもしれない。


 ――そう、「落ちてきた」のだ。

 輝石の光が周囲を淡く照らすように、靄のかかっていた俺の記憶も少しずつはっきりしてきていた。一つずつ現状を把握していこう。


 まず名前は……思い出せる。俺の名前は「ホワイト」だ。

 自分が何者かもハッキリしている。俺は、「放浪の英雄アイン」の従者だ。


 次に……ここはどこか?

 ――ここはアルカマック王国の「地下迷宮」だ。

 俺は、仲間達と共にこの「地下迷宮」を攻略していたはず。


 そう、仲間だ。俺には共に迷宮攻略に挑んだ仲間がいたはずだ。

 もしかすると、この辺りに彼らもいるのかもしれない。彼らを探しつつ、少しずつ記憶を整理しよう。


 輝石の光を頼りに、少しずつ慎重に歩を進める。

 迷宮の中には、屈強な魔物達が跳梁跋扈していた。最下層を目指すまでにその殆どは倒してきたはずだが、まだ生き残りがいないとは限らない。

 ――そうだ、自分達は最下層を目指していた。そして辿はずだった。

 では、その先は?


 ――邪悪なる魔導師ヴァルドネル。迷宮の主である奴の居室に、俺達は辿り着いた……はずだ。

 複雑に入り組んだ通路を辿り、屈強な魔物達をほふり、何層ものフロアを抜け、やっと辿り着いた最下層。

 物々しい、まるで物語の「魔王の城」にでもありそうな不気味な大扉の向こう。地下迷宮の中とは思えないほど立派な広間の真ん中で、奴は――ヴァルドネルは俺達を待ち構えていたんだ。


 俺は、まだうっすらと靄のかかった頭にむち打ちながら、俺達の「最後の戦い」の様子を思い出していた――。

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