第42話 まともに下見できません

『魔眼』……瞳に魔力を宿らせることで相手を支配するスキル。効果は様々で、相手に幻を見せたり、絶対服従させたり、自滅を強いたりできる。魔法抵抗力のある人間には、効きが弱かったりする。古来より瞳には力が宿ると言われているが、恋にも応用できる。ジッと相手の目を見る。相手が気にして近づいてきたら上々。その後、抱きつかれるかビンタされるかは顔しだい。結局、イケメンが勝つ。




 魔王であるものは敵情視察も欠かさない。

 人の村を訪れて、本当に人は滅ぼすべき存在かを判断するのだ。

 もし人間が愚かで凶悪な存在なら、滅ぼさなければならない。

 姿を見られても平気か、だと?

 問題ない。我には『魔眼』がある。


「やあ、こんにちは! 旅の方かい?」

「あ、ああ……」


 ほ、ほれ、この通り。

 人間には我の姿が、同じ人間にしか見えん。

 問題なく、村を見て回れるな。

 ちょっと、挙動不審になってしまったが……。


 それにしても人間の村はのどかの一言に尽きる。

 人々は精を出して畑を耕したり、家畜の世話をしたりしている。

 牧歌的な風景とは、このようなことを言うのか……。


「やあ、旅の方。よかったらこれ持って行ってよ! うちで採れた野菜!」

「え? 良いのか?」


 なんか野菜をくれた。

 人間とは見ず知らずの者に野菜をくれるものなのか?


「はい、そこの兄ちゃん! これ持ってきなよ!」

「そこの坊主! どうだ? うちの特産品持ってけよ!」

「ほら! 旨い飯食ってくか? おごってやるぜ?」

「せっかくだから、一緒に飲みましょうよ?」


 お?

 おお?

 何なのだ? このプレゼントの嵐は?

 別に『魔眼』の力と言ったって、相手を魅了するほどのものではないぞ?

 ということは、これが人間の世界では当たり前なのか?


 半日後――


「お帰りなさいませ、魔王様。おや? 背中に背負っている物は何ですかな?」

「爺よ。我はまた人間というものが分からなくなった……」


 背中一杯に特産品を背負いながら我は思った。

 こんな人間ばかりなら、世の中平和なのになあ、と。




―――――――――――――――――――

魔王様への意見具申コーナー

Q 今度行く時は、私、グローシアもお供いたしますわ。


A うん、そうだな。お前も一度人間の営みを見ておいた方がいい。何か、心が癒されるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る