第17話 まともに把握できません
『記憶』……物事をしっかりと記憶する能力。ボタン一つでできたり、パンを食べたりと方法は様々。一見すると地味な能力だが、実際問題同じ人に何度も同じ質問はできないので、これのある無しによって旅の進むスピードや周りからの信頼度が大きく変わる。
ちなみに勇者だけでなく名探偵にも先天的に備わっている能力であり、その記憶力は『まだ事件が起きる前の初めて出会った時に身に着けていた眼鏡の縁の色を覚えてる』レベルで凄まじく、そのせいで泣かされた犯人も多い。大抵の場合、名探偵は『ほら! あの時、ああだっただろ?』と当然のようにそれを指摘するが、そんなこと周りの人間は覚えちゃいない。推理モノにあっては推理を聞く方も読む方も高い理解力が求められる。油断ならない。
謎を解き塔の最上階へたどり着いた俺たちは魔物と対面した。畑を荒らすと言っていたから、てっきり動物っぽいものを想像していた。だが――
「フッ! よくぞここまでたどり着いた」
そこに居たのは漆黒の翼を持ち二本の角を頭から生やした、実に悪魔らしい魔物であった。今まで見た魔物の中でも一番の風格を兼ね備えていた。
「貴様! 何者だ!?」
俺は剣を構えて問いただした。クレアやメイシャもそれぞれ武器を構える。
「我は魔界における百八柱が一人……」
「何!? 百八柱だと!?」
百八柱……とうとう幹部クラスのお出ましか。腕が鳴る。体育座りをして待機していた甲斐があるってもんだ。しっかり『記憶』しておかないとな。
「お前を倒せば魔王に近づくな……」
「甘いな、人間よ。我の上にはまだ四十八の幹部がいる」
何だと!? 結構多いな。『記憶』しておくか?
「さらにその上には十二の魔神がいる」
「おい!」
多い! 面倒くさい!
「その上に四天王がいて――」
「待て!」
「その軍団が十セット分ある」
「もういい! それ以上、しゃべんな!」
十セットあったら四天王でも何でもねえだろうが!
魔王軍、多過ぎ!!
「その頂点におわすのが魔王様だ!」
「勇者、もうアタシ帰っていいかい?」
「ダメ! 俺だって帰りたいんだ!」
「何か、気が抜けますね……」
俺だって帰りたい。だからはっきりさせておこう。
「つまりお前は雑魚だってことだな?」
「舐めるな、人間ごときが! 我は百八柱が一人、恐怖のフレ――」
「ふん!!」
「オゴッッッ!?」
相手が名乗り終わる前に、俺は鉄拳をソイツの顔面にめり込ませていた。
高速で吹き飛んでいき、星になった。
「ゆ、勇者様。まだ相手の名乗りが……」
「いや、あんな奴の名前覚えるだけ記憶容量の無駄だから」
俺たちは塔を後にした。
何の感慨も湧かなかった。
――――――――――――――――――――
女神への質問コーナー
Q 魔王軍の全容が分かったような気がしました。
A 気がした……だけなんですね? 魔物退治とゴキブリ退治は似ている気がします。一匹見かけたら多分三〇匹くらい居ますよ。でも少しずつ情報が集まってるようで女神も安心しました。道のりは長く険しいかもしれませんが、仲間と一緒に頑張ってくださいね。
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