第6話 まともに町で過ごせません
『スキル奪取』……相手が持っているスキルまたは特性を奪うことができる能力のこと。奪うといっても、完全に相手からその能力を抜き去ってしまうのか、ただ単に自分がその能力を習得するだけなのかは場合により異なる。どちらにせよコピーなどと違って永続的に自分の物にできるため、スキル奪取を繰り返せばそれだけで最強の座に就くことができるかもしれない。
「ここが城下町か。さすがに人が多いな」
俺はなんとかこの国の首都にたどり着くことができた。途中でいくつかの村に寄り善行を積みながらも食事をおごってもらう勇者。俺の通った地域ではそんな伝説が残されるに違いない。
「さて、これからどうするか」
このまま城へ行き王様の話を聞くなりして情報を集めてもいいし、少し街をぶらついてもいい。別に時間に追われているわけでもなし、少しぶらつくか。
国の首都だけあってよく栄えている。道々で露店が開かれており物資も豊富。人が多く活気もある。すれ違う人種も様々で人間だけでなくエルフやドワーフ、獣人や翼の生えている有翼人種なる人達もいる。まあ相手が誰であろうと俺にとってはぶつかってはならない存在である。ケガをさせたくない。
俺がある通りに差し掛かった時のことである。
「こら! 泥棒ネコ!」
という声が聞こえた。見ると一匹の猫が魚を咥えてこちらに疾走してくる。別に猫一匹くらい放っておいてもいいのだが、人が多い通りで無用な混乱を招くと俺が人と接触しかねない。多分自動で回避するとは思うけど。
「しょうがないな」
俺は自分の持っている魔法の中から使えそうな魔法をチョイスした。
「
俺がそう唱えると猫は体を硬直させて立ち止った。俺、猫好きなんだけど。ゴメンね。麻痺はすぐに解けるから。後は追ってきたお店の人に任せよう。
『猫を捕縛しました。スキル奪取により
「は!? 何それ!? いらねえ! 勝手に習得すんな!」
またスキルが俺の許しもなく発動する。もはや呪いだよ、これ。女神の呪いだ。俺がそんなことを考えていると――
「泥棒だ! 捕まえてくれ!」
再びそんな声が聞こえてきた。荷物を抱えたチンピラが一心不乱に走っている。ほら衛兵さん、仕事だよ! 俺は関わりたくないよ!
「どけどけーーーっ!」
そう言ってこっちに突っ込んでくるチンピラ。ああ、何故困難は向こうからやって来るのか。
「はいはい。やりゃいいんでしょ。
俺が魔法を唱えると同時に眠りの世界へ旅立ったチンピラは走った勢いそのままに壁に激突した。衝撃で荷物の中身、パンツが舞う。そうですか。そういう方でしたか。派手に激突したにもかかわらずグースカといびきをかいている。後は追ってきた人に――
『泥棒を退治しました。スキル奪取により
「いらねえーーーーっ! 超いらねえーーーっ!! なんで趣味趣向まで押しつけられなきゃならねえんだよ!!」
なんなんだよ、このスキルは!? もういい。城に向かおう。これ以上変なフェティシズムに目覚める前に――
「大変だーーーっ!! 水路で子供が溺れているぞーーーっ!」
もういいよ……。城に行かせてよ。俺は世界を救うんだ。しかし見捨てるわけにもいかない。
「まあ、助けるだけなら……
俺は水路の水を丸ごと凍らせてしまった。子供は氷にはまっている。周りを砕けば助けられるだろう。心がやさぐれていたせいか、だいぶ雑な助け方になった。
「さて、行くか」
『子供を助けました。スキル奪取により特性 《かなづち》を習得します』
「…………」
もう俺は何も言わずに城へ向かった。途中何人かに助けを求められた気がしたが無視した。
―――――――――――――――――――
女神への質問コーナー
Q 人を助けただけなのにスキル奪取が発動しました。バグですか?
A 仕様です。見返りを期待した行動は善行とは言いません。でも善行をした後は何かご褒美が欲しくなりますよね。安心してください。そんなあなたの為にスキル奪取の能力を予め拡張しておきました。いい事をするとボーナスが貰えちゃいますよ! 人助けをたくさん行うあなたの助けになっているか、女神はとっても心配です。
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