第21話 エピローグ
例の事件から数日が経過した。
あの戦いでは、それなりの重軽傷者が出た。蓮が腹部貫通、両手と肋骨にヒビが入り病院行きであったが、他の悠星と氷雨は比較的軽傷だったため、自宅療養に専念している。
作戦に参加した者には学園側は特別休暇を与え、学業面に影響は受けないように配慮してくれた。緋那もその1人で絶対安静ということで自宅療養に専念していたわけだがーーとにかく暇であった。
「右腕を骨折してるくらいでみんな大袈裟な気がするなぁ……」
「ダメよ、緋那ちゃん。無理をして、倒れられても困るわ」
「そりゃそうですけど……あれから彼らはどうなったんですか?」
「そうね。まずはあなたが気を失ったところから順を追って話すわ」
青色はそう言うとゆっくりと話し始めた。
それは、緋那が気を失った後のことである。
まず、主犯格の如月涼夜であるがーー彼は自決した。
彼の計画の
そのショックのせいなのか、あるいは自分の知っている情報を知られるのを恐れたためか。涼夜は自らの不の感情で生み出した業火によって跡形もなく焼失した。
「私が気絶している間にそんなことがあったんですね……」
「ええ。色々思うところもあるでしょうけど、あなた達に大事がなかったのは不幸中の幸いね。それで、残りの2人だけれど……」
残りの2人の鳶沢一歩と波風彩里だが、今回の事件に関してはどちらも如月涼夜の策略に嵌った被害者であることが緋那の証言によって発覚した。だが、源治は当然ながらこの事態を重く見ていた。
彼曰く、「ワシの仕事をこれ以上増せんで欲しいわい。とりま、学園の地下にある牢獄にぶち込む。よろしこ。全く、事態を揉み消すわしの身にもなって欲しいのぅ……」だそうだ。
「牢獄なんてあったんですね……」
「ああ、あなたは知らなかったわね。この学園も名門と呼ばれる前は荒れていたものだから、その生徒の暴動を鎮静化するために学園長自らが作ったそうよ?」
「この学園昔荒れてたんですね……というか、生徒を牢獄にぶち込んだら親が黙っていないのでは?」
「そうね。でも、あの牢獄には人間の精神を更生させるのに最も効果的よ。あの監獄にいる看守がとても優秀でね。牢獄から出てきた彼らはまるで別人のように心を入れ替えたという話よ」
「へぇ……そんなに便利なところならこの世から悪人と呼ばれる人がいなくなりそうですね……ん? そういえばどうして先輩はそんなに昔のことを知っているんですか?」
「さぁね。その話はまたの機会にね。それで、牢獄行きになった彼らのことだけどーー」
彼女はこの手の聞かれた質問に対して、いつも素っ気ない上にすぐに話題を逸らす。単純にこの学園の歴史に詳しいのか、それとも他に秘密があるのか。
それは定かではないし、反応からしてどちらとも取れる。本当に、彼女には謎めいたものを感じると思う緋那であった。
「その後は学園のために尽くすそうよ。まぁ、要はこの学園の雑用ね。それで今までしてきたことはチャラにするそうよ」
「え……? なんか、イメージと違う……」
「学園長は意外と寛大よ? たまたま被害者がこの学園の関係者と生徒だっていうこともあるけれど」
「でも、今回の件を揉み消すって……どんだけ裏金を積んだんですか?」
「お金だけで解決できない問題も異能力で解決できてしまうのが今の世の中なのよ。死人も多少は出ていたけれど、このくらいの規模なら学園長の能力でどうとでもなってしまう」
「マジですか……世の中って怖……」
難儀なものである。エネルギーという異能力によってどんどん便利になっていく反面、薄汚いあの手この手を使って自分の利益のために動く輩がいるのだからエネルギーが普及していない時よりもより物騒だ。
「けれど、悪いことばかりではないのよ? うちの学園長は日本政府にも顔が効くから、あなたが想像したような悪事は彼が圧力をかけることである程度は防げるのよね。マスコミの偏向報道とかがいい例ね」
「それじゃあ学園長は自分に都合がいいことは揉み消して都合が悪いことは揉み消す最低な人間なんじゃ……」
「何も全部揉み消しているわけではないわ。揉み消しているのはほんの一部で微々たるものよ。でなければ、今頃書類やクレームに追われることもないでしょうし」
「あー……」
青音に言われて容易に学園長が書類に追われている姿が想像できた。それに加えて、クレーム対応ともなればとてもめまぐるしい状況になるはずだ。
「学園長……後処理ありがとうございます……」
「それは本人に言ったら喜ぶと思うわ」
「あはは。それもそうですね」
それから、しばらく談笑してからだったか。彼女は緋那に対してこう質問を投げかけた。
「そういえば、あなたのいう精神世界とやらでの出来事はどうだったのかしら?」
「はい。実は……」
緋那は自らの精神世界で起きた出来事を青色に詳らかに話した。彼女自身の戸惑いと葛藤。その背景。その場所で命懸けで戦った相手が ーーもう1人の自分が復讐心の塊で、緋那に復讐とはなんなのか。そもそもどのような覚悟で望んでいるのかを問われた。
その際に母親である花山緋里が残留思念で現れ、答えへの糸口のヒントをくれたこと。
そしてーー仇敵の名前がわかったこと。これは緋里との再会に次いで大きい収穫であった。
「仇敵の名前は
「皇零次……聞いたことはあるわ。彼は多くの闇に通じる人脈を有していて、黒い噂が絶えない人物ね。彼は『黄道十二宮』が最も警戒する危険因子の1人よ。なるほど、彼なら彼女ほどの使い手を倒せても不思議はないわ」
「! 先輩、彼について何か知っているんです!?」
「私は今言ったくらいの情報しか知らないわ。そもそも彼の名前自体が
「……じゃあどうして青色先輩は、知っていたんですか?」
「簡単な話よ。私は立場上学園長の補佐をすることが多いから学園長の資料をたまたま見ただけ。元々学園長は『黄道十二宮』のうちの1人だったわけだから、不思議はないと思うけれど」
「え、学園長が元『黄道十二宮』だなんて私初耳なんですけど……でも、それなら彼の情報を知っているのでは?」
「まぁ半世紀以上前の話だし、学園長も自分から過去のことはあまり話さないのもあるわ。それに、彼が知っている情報も大分古い可能性があるの。だから彼自身に直接聞くのはあまりオススメはしないわ。本人にも守秘義務があるだろうし、聞いてもたぶらかされるのがオチよ」
「むむ……これじゃあせっかく名前がわかってもふりだしと同じじゃないですか」
「そうね。でも、方法がないわけでもないわよ?」
「え?」
せっかく名前かわかったというのに、その
「あなたが『黄道十二宮』に入ればいいのよ。そうすれば今よりも確実に情報は手に入るし、『黄道十二宮』に入るくらいの実力を身につければ仇敵とやらに遅れを取ることもある程度は防ぐこともできるでしょうし、一石二鳥じゃないかしら?」
「で、でも、『黄道十二宮』は『五英将』の最終目標のようなものなんですよ? 卒業生の中でもそこに届いた人は誰もいないみたいですし……」
今の緋那の実力は『黄道十二宮』はおろか、『五英将』にすら届いていない。仮に今から死ぬほど修業を積んだとしても、『黄道十二宮』になれる確率はゼロに限りなく近いと言ってもいい。
「あら? 私はやってみる価値はあると思うわよ? 決して楽な道では言いがたいけれどーーあなたも精神世界でそこのところはわかったんでしょう?」
その言葉を聞いて。緋那はあの精神世界のことを思い出す。復讐を生半可な気持ちでしようとすればどうなるか。それは今回の事件で痛いほどわかった。
それでも、彼女はこう願ったのだ。必ず母のような
「! わ、分かりました。私、今日から『黄道十二宮』に入るために努力します。そして、必ず仇敵に関する情報を手に入れてみせます」
「うんうん、その意気よ。あなたは強い子よ。私でよければ相談くらいには乗るから」
「あ、青色先輩何から何までありがとうございます! 私なんてお礼を言ったらいいのか……」
「いいのよ。お礼なんて。私は私がしたいことをしているだけ。だから、あなたは気にせずに精進しなさいな」
「は、はい!」
こうして、緋那は新たな目標を胸に一歩前進するのであった。
復讐少女《リヴェンジガール》 里雨きび@学園バトルもの執筆中 @85jzw
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。復讐少女《リヴェンジガール》の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます