第10話 学園長登場
互いの全てを出し切り、最高の技同士が衝突した。会場のボルテージは最高潮に達し、これからの本戦も盛り上がりを見せるーーそう、誰しもが思っていた矢先だった。
突如、何者かが、両者の戦いに割って入ったのだ。
彼は緋那と悠星の渾身の技をあっさりと相殺し、両者を睨みつけた。
「………………」
「な、なんだてめーー」
悠星が言葉を言い切る前に、異常が起きた。
彼は遅れて、気づいたのだ。自分の左腕があるべき場所にないことに。
「う、うわああああああああ!?」
『な、なんなんだあの男!? ってまた瀬戸内さんがいないし!?』
「お、おい! 八条、お前不死身はどうしたんだよ!っていうか、止血……」
「ーーッ! お、俺の不死身は一旦あのモードになるとしばらく戻れねぇんだ。だから、奥の手っつっただろ。あの能力は強力だが、こういう不意打ち、には弱……」
「ちょっ……八条!?」
「……大丈夫っす。幸い、花山さんの止血の対応が早かったんで、命に別状はないはずっすよ。だから悠星を連れて逃げてください」
いつのまにか蓮が緋那や悠星の元に駆け寄って、そっと耳打ちをするが、このまま黙って逃げられるほど緋那は人間ができてはいなかった。
「でもっ……」
「いいから!!!」
「……いい先輩になったじゃないか、蓮」
「! そういう先輩は悪い先輩になっちまったんですか?鳶沢先輩」
「え……どういうことですか?」
「あー端的に言うと……」
蓮曰く、目の前にいるこの大男の名は
霧峰学園のOBで元『五英将』序列3位に在籍していたこともあり、その実力は折り紙付きであるということだ。
「え……じゃあなんでこんなこと……」
「知らん。けど、腐っても元『五英将』。だから、この人に対抗できる人間は現状、俺しかいないってことになるっす」
「ふん。お前如きにこの俺が遅れを取るとでも思っているのか? 学園にいた頃の俺のままだと思っているのなら、それは大きな間違いだぞ、蓮」
「それは俺にも言えることですよ、先輩。俺だって2年前と一緒にされちゃあ困りますよ」
大きなエネルギー同士がぶつかり合い、それだけで会場にいる多くの人間はその威圧に萎縮し、逃げることもままならなくなってしまう。幸い、会場には結界があるため、下手にパニックになって会場の外に避難するよりもこの中にいた方がよほど安全で好都合である。
(ビリビリ来るこの感じ……強者しか立ち入れない場所だって嫌でも分かる……悔しいけど、私は完全に足手まといだ)
「ビックラビット!! 何をボサッとしてるんだ! さっさとお前の『
「させないぞ、蓮」
「それはこっちの台詞っすよ。鳶沢先輩」
ガゴンッ!!!
凄まじい衝突音が会場全域に響く。蓮が一歩を食い止めている間にビックラビットが緋那と悠星を救出するために安全圏な結界内に連れていく。
「だ、大丈夫!?」
「私はなんとか……でも八条が」
「確かにこれは酷いな……血が止まっていないから早く止血しないと……」
「それは私がやりましょう」
「え、紗綾川先生……?」
悠星のピンチに登場したのは、緋那や悠星の担任である紗綾川真耶であった。
ーー戦場サイドーー
蓮と一歩は互いに譲らない戦いを見せていた。だが、経験の差というべきか、蓮が徐々に押され始めていた。
「ちっ……」
「ふん。戦闘の基礎の大半を教えたのはこの俺だ。2年前はただのひよっこ同然だったお前を『五英将』にまで上り詰めさせたのも、な。2年の間何をしていたかは知らんが結局お前は何も変わってはいやしない」
彼の言うことは最もであり、正論であった。
だが、なんの秘策も根拠もなく、この怪物の目の前に出るほど、彼はお人好しでも能無しでもなかった。
「ーー『雷化』」
「ほう。面白い」
『
「ーーーー」
相手に一切隙を与えることなく、反撃することさえ許さない。現に先ほどまで優勢だったはずの一歩は反撃できずに攻撃を浴び続けている。
「ふむ。これが『雷化』というやつか。実物を見たのは初めてだが、なるほど、とても目では追いきれん。だが……」
スカッと。彼の言葉を境にして、蓮が攻撃を撃ち込んでも一切、一歩には届かない。
「!! なんで、当たらない……!」
「強力な能力に構けて戦術が疎かになっているからだ。攻撃も単調かつワンパターン。どれだけ速かろうがどれだけ強力だろうが当たらなければ意味がない。こんなことは俺でなくても見切ることができれば誰でもお前の攻撃を躱せるぞ」
口では簡単に言ってくれるが、彼のやっていることはめちゃくちゃで論理的に破綻している。目を瞑って両隣から超スピードで来る車を避けろと言っているようなものだ。まともじゃない。
彼のずば抜けた身体能力と動体視力、エネルギーコントロール技術が無ければ、まず成立しないことだ。彼は勘違いして、コツさえ掴めば誰でもできると思っているが、それは大きな間違いである。
「くそっ……!!」
「無駄だ。どれだけやっても攻撃を読まれ、避けられていてはエネルギーを無駄にするだけだ。ここは大人しくやられていろ、蓮。俺の能力とお前と俺との実力差が分からないほど、お前も未熟ではあるまい?」
「くっ……」
そんなことは蓮自身が一番痛感している。『雷化』を使っても尚、ダメージすら与えられない。それどころか彼はまだ実力の半分はおろか、3分の1も出してはいないだろう。
彼の能力は『星崩し』。
この能力名は本人が命名したものではなく、周りがそう言って本人が気に入ったために付けられた名前、というよりも通り名に近かった。
そう彼が言われるようになったのは、2年前まで遡る。
当時、高校3年生で若干18歳だった彼はその才能を見込まれてアメリカに留学していた。アメリカでの慣れない生活にも少しずつ慣れていたその時だった。アメリカ全土を危険に陥れた『隕石』が落ちてきたのは。
作戦名プラネット・ブラスト。略してPB作戦の概要は単純だった。跡形もなく消し去る。ただそれだけである。プランBはない。失敗すれば、アメリカにとって最悪の危機が訪れる。
隕石は直径50メートル。落ちる場所にもよるが、広島原爆の数百倍に匹敵する破壊力があるため、確実に被害が出る。そんなプランに抜擢されたのが鳶沢一歩である。
元々このプランは鳶沢一歩を主軸にして考えられたものであり、彼が打ち砕いた隕石の後処理をするためにアメリカ政府は軍を動かしたと言ってもいい。
そして、隕石が実際に降ってくると彼はなんの躊躇いもなく、彼は1人で隕石に立ち向かった。
一撃。
ただの拳一つで彼は隕石を木っ端微塵に打ち砕いた。そして、後処理として待機していた軍の手を煩わせることもなく。そのたった一撃の拳で破片もろとも成層圏まで跳ね返したのだった。
その歴史的事件から億単位の人間を救い、アメリカでは英雄に等しい扱いを受けていた一歩だったが、ある日突然、姿を消した。
それが、この学園の卒業式。その日から彼は最初からいなかったように姿を消したのだった。
「……まさか、敵になってまた再会するなんて夢にも思いませんでしたよ、先輩。あなたは間違いなく、英雄だった。この学園が輩出した傑物の1人だった。そして、俺が最も尊敬する先輩だった。なのに、なんで……」
「敵、か。まあ、お互いの信念が違えば、そういう解釈もできるか」
一歩は感慨深く考えると、ゆっくりと口を開いた。
「少し、話してやろう」
ーー観客サイドーー
「先生……いつから……?」
「ずっとですよ。この会場は私が責任を持って取り扱っているのですから現場にいるのは当たり前です……と言いたいところなのですが、この有様ではそんなことも堂々と言えたものではないですね……まさか侵入者を許してしまうなんて」
「紗綾川先生1人のせいではないとですよ。このビッグラビットが保証します」
「そう、ね。とにかく治療はします。止血をしたら、腕をくっつけたいのですが……」
「あ、念のために腕は回収しました」
「お手柄よビックラビット君。今、彼らの元に飛び込むのは返って蓮君の足を引っ張る事態になるでしょうし……」
真耶はそう言いながら、治療を開始する。
流石は名門の霧峰学園の先生というべきか、手際が良く無駄な動きが一つもない。
「そう言えば、先生の能力ってなんなんですか?」
「あーそう言えば、ビッグラビットも聞いたことないかも。紗綾川先生の能力」
「私の能力、ですか。まぁ今回は緊急事態ですし、お互いの能力は把握していた方が良いですね」
真耶の知られざる能力。普段は何となくはぐらかされて分からずじまいだったが、真耶は詳らかに話した。
『
真耶のエネルギーと付与される対象者のエネルギーを意図的に合成することで、様々な効果を得る。例えば、止血を施し、腕をくっつける能力も悠星の持つ自己治癒力を極限まで高めることで可能にしている。
その他にも、他人の潜在能力を引き出したり、身体強化、状態異常の解除、幻術や幻惑の類の能力を事前に防ぐこともできる。応用次第では非常に強力な能力ではあるがーー自分にはこの能力は使えないというのが一番の弱点である。
つまり、完全なサポート特化型の能力。自分自身は戦闘ではまるで役に立たないと彼女も自覚している。
「でも、使い方次第ではこの状況を打破できるのでは? 例えば、花山さんと八条さんを全快させて、3人であの怪物を倒すとか……」
「…………ダメですよ、ビッグラビットさん」
「え、どうして……?」
「悔しいですけど、彼には何人束になっても勝てないです。それだけ、実力差がある。その事実を私は直接肌で感じました。結界越しでも、意識の弱い者から威圧されただけで気絶させてしまう。そんな怪物は私には手が余ります」
ただーーと緋那は区切ると、
「勝てる可能性があるのは瀬戸内先輩だけです。あの大男も元は『五英将』の1人。同じ『五英将』の彼以外ではどうすることもできません」
「でも、彼の『雷化』ですらあの有り様では……」
「そこで、私に考えがあります。八条を全快させたら、作戦を開始します」
緋那は作戦をビッグラビットと真耶に伝えた。
「なるほど……確かにその線しか無いですね。しかし……先生のエネルギーが持つかどうか」
「私は大丈夫です。……これぐらいしか私にはできませんから」
「では、決まりですね。八条が全快次第、作戦を開始します!」
緋那はステージの様子を窺いつつ、作戦に向けて動き出した。
ーー戦場サイドーー
「俺の目的はこの世界を救うことだ。そのためにはある程度の犠牲はやむを得ないと思っている」
「……な、に?」
「驚くのも無理はあるまい。こんなこと、世界を救うには程遠いというのは分かっているつもりだ。だが、必要な作業だ。お前も協力するか? 」
「へっ……冗談じゃないっすよ……こんなことをする犯罪者に加担するとか、死んでもごめんです」
「そうか。お前ならそう言うと思っていたよ、蓮。正義感が人一倍強いお前なら尚更な。交渉には取り合う気がないようだから……この場で貴様を殺すとしよう」
そう彼が言った瞬間、
「! ほう……」
ビッグラビットの
「馬鹿野郎!!! なんで、戻ってーー」
と文句の一つも言う暇もなく、ビッグラビットは再び
「あまり、いい判断とは言えんな。実力差が分からないほどお前達も未熟ではあるまい。無謀な賭けはただの蛮勇でしかないぞ」
「確かに貴方の言う通りですよ、鳶沢先輩。でも、私達には
「そういうこった。俺としても大きな借りがあるしなぁ……借りがあるまま敵を野放しにしてたら、風紀委員長なんて務まらねぇし」
「いいだろう。少し遊んでやろう。この戦場に再び足を踏み入れたことを後悔するがいい」
「行くよ、八条」
「おうよ」
2人がコンビを組むことによって、1人ではどうしようもない相手に立ち向かっていく。
「うおおおおおおおっ!!」
「ふん、真正面から攻めるとは血迷ったか」
真正面から攻めたのは、悠星だった。持ち前の不死身を活かして神風特攻隊のように玉砕覚悟で突っ込む。そして、悠星に気を取られている好きに緋那が後方から援護をする。
「
緋那が重力の展開の最大限度は地球の重力の約100倍である。悠星が引きつけて、この技を使って嵌める。並みの能力者ならここで潰れて死ぬが、彼にはビクともしていない。
「……ふむ。なかなかいい攻撃だ。蓮以外にもここまでやるやつがいるのか。面白い」
「ちっ……全く効かないのかよ」
想定内とはいえ、なかなかショックなことである。悠星や緋那は真耶の能力で体力とエネルギーが全快し、最初から全力を出している状況にあるのにそれでも尚、彼には全く届かない。
「しかし……不死身とやらは厄介だな。いくら攻撃しても立ち上がってくる。まるで鋼鉄よりも硬い何を叩いているようだ。隕石よりも厄介かもしれん」
「へっ……お褒めに預かり光栄ですよ、鳶沢先輩」
「ほう……俺を知っているのか」
「歴代の『五英将』の名前と実績くらい頭に入っていますよ。まあ、こんなところで役に立つとは思ってもみませんでしたが」
悠星が攻撃を全て引き受けてくれるおかげで、緋那は思う存分能力を使えるわけだがーーその能力は悉く防がれることもなく、全くの無傷。
最大出力の暴風も試してみたがやはり効いていない。エネルギーを纏っているとはいえ、これほど頑丈な人間は緋那は今まで一度も見たことがなかった。
ーー強い。
その一言では説明ができないほど、彼の強さは圧倒的でとても鮮烈だった。
「不死身相手にもそろそろ飽き飽きしてきたな……と言っても俺は封印技なんて持ってないし……弱ったなこれは」
「へ! ただの蛮勇でしかないって先輩は言っていましたけど、これでも貴方は蛮勇だと言い張れますか?」
「……ああ。蛮勇だよ。その慢心が己の身を滅ぼすのだ」
「……!! まずい!」
緋那は見た。彼が懐から異様なエネルギーを発していたナイフを。あれはダメだ。悠星にとって間違いなく天敵の……
(くそっ……間に合わないーー!)
そう緋那が思った矢先だった。まるで雷鳴のような速さで悠星と一歩の間を割って入ったのはーー瀬戸内蓮であった。
「お待たせしましたっす」
「蓮、だと? 貴様今までどこに……」
「ま、ビッグラビット《あいつ》に連れられて、ちょっとしたパワーアップをしてきたところですよ」
「……なるほど、そういうことか。こいつらがわざわざ戦場に舞い戻ってきた理由が分かったぞ」
一歩は全てを察すると再び蓮に対して視線を合わせる。
「……それが貴様の本来の力というやつか」
「ええ、まあ。そういうことですよ。ビッグラビット。緋那と悠星を安全なところへ」
「了解ですーー必ず、勝ってください」
「必ず、か。確実な約束はできねぇけど、善処はするっすよ」
ビッグラビットは2人を連れて、観客席に再び戻る。
「……攻撃しないんですね。少し、意外でした」
「攻撃しても、どうせお前に防がれるんだろう? だったら、攻撃してもそれはただの無駄撃ちだ。あいにく、無駄と分かっていて攻撃するほど俺は馬鹿じゃない」
「そういえばそうでしたね」
お互い、もう言葉はいらないと感じたのか、構えの姿勢を取る。ここからが本番だと言わんばかりの様子である。
「ーー行きます」
「来い」
次の瞬間には、2人は上空を翔けて衝突した。
ーー観客席サイドーー
時は少し戻って数分前。
ビッグラビットが蓮を観客席に瞬間移動した直後の出来事である。
「おい! 説明しろ、ビッグラビット。これは一体どういうことだ! あの2人じゃあの先輩には……」
「分かっています。分かっている上で彼らはあの怪物と戦っています」
「紗綾川先生! 貴女がいながらどうしてこんなことを!?」
「今からその説明をします。1度しか言う時間がないのでよく聞いてください」
その説明とは、もちろん緋那が考えた作戦の全容であった。
緋那の作戦を要約すると、自分と悠星が時間を稼ぐからその間に蓮を全快させた上で潜在能力を引き出し、もう一度あの怪物とぶつけるといったものだった。
「……確かにこの状況を切り抜けるにはそうするしかないですが、そんなに簡単に潜在能力なんて引き出せるんですか?」
「ええ。可能です。ただ、その対象者に全く潜在能力がない場合は拒絶反応を起こして意識不明の重体になるという条件付きではありますがーー潜在能力があれば即時引き出せます」
「そりゃまた危ない賭けっすね……」
「ですが、緋那さんは貴方を信じていました。貴方しか彼に対抗できない。だから彼が最高のベストパフォーマンスができるように調整して欲しいと」
「……分かった。俺も先生と花山さんを信じてみます。 ……正直、今の状態だと鳶沢先輩に勝てる気がしなかったので」
おそらく、緋那は観客席から蓮と一歩の戦いを見ていたのだろう。押され気味で勝つ保証なんてどこにもないし、例え潜在能力を引き出したとしても、勝てる見込みが薄い。それでも尚、彼女は蓮を信じた。
今日初めて会った初対面の人間にそこまでできる人間はそうはいない。だったら、蓮もその期待に応えなければならない。
緋那が命をかけて信じた男は、必ずあの怪物を打ち負かすのだと。
「こ、これで、準備OKで……す。あとは頼み、ます……」
「せ、先生!」
「大丈夫だ、ビッグラビット。脈はある。気を失っただけだ。無理もない。悠星と緋那の体力とエネルギーの全快に加えて、俺の体力とエネルギーも全快にした上で潜在能力まで引き出してくれたんだ。でも、これでなんとかなりそうだ! ビッグラビット、
「わ、わかった。運ぶぞ。掴まってろ」
ビッグラビットがそう返答すると、蓮は再び戦場に舞い戻ったのであった。
ーー戦場サイドーー
といった経緯があり、現在に戻るわけだがーー
今は概ね、緋那の思惑通りに事が進んでいた。先ほどまで蓮を圧倒していた一歩だったが……今は互角に渡り合えている。
「ちっ……どうなっていやがる……この短時間でさっきとは別人だ」
「…………」
蓮の能力は『電光雷撃』。その能力は電気に関することなら全てをこなすほどの応用力と火力を兼ね備えたもので、雷系最上位の技である『
『雷化』にさらに蓮がアレンジを加えて、改良と試行錯誤を重ねて生み出したオリジナル技。『雷化』よりも強力な力と速度と電流・電圧を誇り、『雷神化』した蓮の戦闘能力は瞬間的とはいえ、『五英将』現序列1位にして学園の歴代最高の傑物にすら届き得る。
その力の一端が今、一歩の目の前で起きている現実である。真耶の能力によってさらに強化され、本来ならなるのに制約がある『雷神化』も自由自在に制御できるようになったのだ。
部分的に解放しただけで互角、ということは全解放をすれば一気に勝負が決められるかもしれない。
(と言っても『雷神化』の持続時間は長くない。長期戦は不利だな……短期決戦で決めないとこっちの身体が持たない)
「ふふふ……」
ここで一歩が不敵な笑みをこぼした。
「フハハハハはははははははは!!!!!!」
「……?」
いきなり笑い出した一歩に対して訝しげな視線を向ける蓮だったが、彼は笑いが堪えられないと言った感じで口を開く。
「蓮、お前最高だよ……ふふ……まさか、これほど強くなっているとは思わなかった。最初見た時は俺を失望させ、お世辞にも強くなったとは言えない状況だったが……俺は嬉しいぞ」
「やれやれ……訳の分からない世界救う発言から戦闘狂紛いの台詞まで吐くようになってしまっているとは……いや、戦闘狂は元からだったような気がしますけど」
蓮は一歩の豹変ぶりに若干引きつつも、耳だけは傾けるようにした。
「俺もこのまま不完全燃焼で終わるのは不本意だったんでな……つい嬉しくてな。これでお前を全力で叩き潰せるというもの。覚悟をしろ。ここからは手加減なしだ」
「上等ですよ、先輩。俺がこの勝負は勝たせてもらいます」
「ほざけ!」
お互い、今まで以上に強力なエネルギーを貯め、大技を撃つ構えを取る。このままではステージはおろか、観客席ですら危ない状況に陥ることだろう。緋那達もそのことを察してか、観客達の避難の準備をしようとあたふたし始めるが……そこへ、ある人物が戦場に現れた。
「そこまでじゃ、若造共」
その声は決して大きな声ではなかったが、それでも芯の通った声だったため脳に直接響いたような気がした。
「「が、学園長……」」
蓮と一歩の2人はそう声を揃えた。
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