復讐少女《リヴェンジガール》
里雨きび@学園バトルもの執筆中
第1章天空落下編
第1話状況的順応性《ケース・バイ・ケース》
時々、夢を見る。
なんのことはない。普通の夢だ。家族と団欒しながら一緒にご飯を食べたり、遊園地に出かけたり。学校から家に帰ると、当たり前のようにお母さんが「おかえり」と言ってくれる……そんな取り止めのない夢だ。けれど、それは私が一番求めていたもの。
でも、その夢はもうーー叶わない。
「はっ……!」
朝日が昇り、しばらく経った頃。彼女ーー
「……夢か」
うるさくなっている目覚まし時計に手を伸ばし、アラームを止める。時刻を確認すると、8時を過ぎた頃。あと30分もしないうちにHRが始まる。そう思った彼女は少し焦る。
少しばかり朝の予定を前倒しにしなければならないーーそう思うのに時間はかからなかった。
「げ……寝すぎた」
部屋着を無造作に放り投げ、昨日ハンガーに吊るし忘れたワイシャツに袖を通し、裸足でペタペタと脱衣所に向かう。彼女は、基本的にジャージか今のようなワイシャツのみの格好で過ごし、1日を送ることが多い。
「眠……あとちょっと寒い」
歯磨き、洗顔、髪のセットを数分ほどで済ませて、冷蔵庫にあるヨーグルトとバナナを出し、朝食を摂る。
『次のニュースです。昨夜未明、東京の池袋であった殺傷事件ですが、犯人はまだ見つかっておらず、警察は、犯人の行方を追っています。被害者の遺族はーー』
「物騒な話……近いし、一応気をつけないと」
テレビをつけて、ニュースをあらかた観る。そしてパンが焼ける時間を利用し、制服に着替える。ここまでの一連の流れが彼女の日課である。
今日のニュースは現場が近いこともあり、少しびっくりしたが、それでも彼女は黙々と学校へ行くための用意をする。
ほどなくして、彼女は朝食を食べ終わると学校へ行くために家を後にする。
「行ってくるね。お母さん」
自分の部屋の片隅にある写真立てに向かって彼女はどこか儚げに微笑んだ。
「たまには空を飛んでの通学もいいかも」
この世界には『力の顕在化(コア・エネルギー』……通称エネルギーと呼ばれる異能の力がある。 『力の
その能力はまさに十人十色、千差万別。星の数だけあるとされる異能力の中の一つに『
速度、質量によって消費するエネルギーが比例する。時間や空間さえ動かせることも理論上可能(彼女自身は一度も試したことがない)
雲一つない空。澄んだ空気。小鳥とともに空を飛び、上から人間社会の循環を肌で感じることができるのも彼女の能力の応用である。
一見強力に見えるがその分、多数の弱点を抱えている。例えば、今空を飛んでいるにしてもそうだ。少しでも気を抜けばーー
「おっとと……」
簡単に落下しそうになる。
彼女の能力は精密性が要求されることが多く、精密性に欠けると能力を上手く発動できないこともしばしば。だからこそ、空を飛ぶこともあまりせずに徒歩が多い彼女だが、今日は遅刻しそうになったため交通の便に縛られない空を選んで学校に向かうことにしたのだ。
「もうすぐ着くかな」
時速にして50キロ。
家から学校までの距離が徒歩で30分ほどに対して、飛行して行けば5分と経たずに着く距離に彼女の通う学校はあった。
東京都の豊島区に構え、全国有数の名門校として知られる。学業面よりも特に優秀な能力者を輩出することに特化している学校で、現在では様々な分野で個々の能力者が活躍する時代だ。
ある者はゼロから火を生み出し。
ある者はゼロから水を生み出し。
ある者はゼロから電気を生み出す。
これが何を意味するか? それは聞くまでもない。原子力発電や太陽光発電を遥かに凌ぐエネルギーの確立。ひいては他の惑星に移住するテラフォーミング計画の促進、大幅な科学技術の発展などなど……人間の生み出すエネルギーによって、顕著な成長を遂げてきた。しかし、それは決していいことばかりではなかった。
「……む」
ふとサイレンが聞こえたので、下を見てみると先ほどテレビで報道されていた事件の現場と思しき場所で野次馬や警察官が多く見られた。
彼らは街の様子を巡回して回ることで、犯罪を未然に防ぐ役割を担っている。特に緋那が住む街は都内ということもあり、それなりの数の警察官が配置されていると聞く。
その理由が日本を始めとした世界的な犯罪件数の多さである。異能力を悪用し、完全犯罪を目論む者が次々と現れ、時には強すぎる重力を発する能力者によって地球規模での危機になることもあった。
そんな犯罪件数を減らすために生まれた組織が『黄道十二宮』である。元は各大国の最強の
その
誰に説明するわけでもなく、そんな風に考えているうちに緋那は学校の屋上へ到着。
「うわ、時間ギリギリ……徒歩だったら確実に遅刻コースだった」
時刻にして、8時25分。HRが始まる5分前である。予鈴のチャイムも鳴っていたので、教室までは若干余裕があるとはいえ少し小走りしないと間に合わないかもしれない。
と、その拍子に。
「あたっ」
「……っ」
誰か見知らぬ生徒と緋那はぶつかってしまったが、その生徒は緋那が謝る間も無く急いで走り去ってしまった。階段が近くにあったせいか姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「前を見ていなかった私にも非があったけど、謝る前に走り去って行ったってことは、よっぽど急いでいたのかな?」
無理もない。予鈴がなって、HRが始まれば担任の先生によってはこっぴどく叱られることもある。場合によってはもっとひどいペナルティが与えられる可能性もある。
「って、私も急がなきゃだ」
緋那はぶつかった生徒には悪いが、一旦忘れて教室に急ぐことにした。
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