想像の能力
雲一つない青空の下、ある生き物たちが1つの場所を目指して飛んでいた。
背中の翼を力強く羽ばたかせながら飛んでいるその姿を見れば、ほとんどの者は逃げ出すだろう。
なぜなら、完全に成長すれば体長12m以上となるその生き物を1匹倒すには兵士が最低でも100人以上は必要だ。
さらに今回はその生き物の色が5匹とも通常とは違う。
それは魔獣だということを表し、例え1匹でも倒すには並の兵士ならば200人でも足りるかわからない。
それが5匹。
5匹ともまだ小さく、その体長は3mほどだがそれでも手強いことには変わりはない。
これを見て逃げ出さない者がいるとすればおそらく、どんな相手でも恐れない強者かその危険さすらも理解できていない者のどちらかだろう。――故に、たった1人で挑んでくる者がいるなどその生き物たちに予想できるはずも無かった。
「――ハアッ!」
「Gyaa!?」
突如、5匹の内の1匹が
他の4匹が目にしたのは、本来ならありえないはずの
「よし、……それじゃ」
その少年――天月拓人は何かを確かめるようにそう呟いた後、次の狙いを定めて突撃した。
――3分ほど前。
屋敷から出た3人は空を見上げていた。
「――ドラゴン?」
拓斗がポツリと呟く。
距離があるためよく見えないが、4本の足と大きな翼を持っているであろうことは微かにわかり、おそらくはドラゴンだろうと推測した。
「しかもあの色……!」
やはりよく見えないが、その色は1匹ずつ違い、赤、青、黄、緑、黒のように見える。あれが魔獣で間違いないだろう。
「空か……」
ドラゴンの近くへと走っていく凜華と瑠希を無視して、拓人は足を止める。
(……多分いけるはず)
意識を集中し、自分が空を飛ぶ姿をイメージする。
「
しっかりとイメージしてそう呟くとポケットの中の鍵が僅かに発行し、拓人の体が宙に浮く。おそらくは能力を使用した時に鍵が、正確にはそれに付いている玉が光るようになっているのだろう。
能力が実際に使えたことに安心しつつ、そのままゆっくりと上昇していきドラゴンと同じぐらいの高さで静止した。
ドラゴンを倒すのが難しい理由の1つは飛行能力だ。 ドラゴンは空を飛べるが人は飛べない。そのため、地上から遠距離攻撃を行うしかなく、空高く舞い上がられると攻撃を当てるのが難しくなる。しかし、拓人は能力の使用で空中での移動が可能となった。これで高さによる不利はない。
「
その言葉と同時に拓人の右腕が仄かに輝きを放ち始めた。今のは見た目はそのままでドラゴンを1撃で倒せるほどの強い力を手に入れるイメージをし、それを具現化したのだ。僅かに赤く光っているのは能力が発動したか確かめるためで実際は光らせる必要などない。
「
「Gyaa!?」
直後、目にも止まらぬ速さで黒いドラゴンの目の前に移動した拓人はその勢いのままドラゴンを
殴られたドラゴンは勢いよく地面に激突し、動かなくなってしまった。
「よし、……それじゃ」
自分の
「うぉっ!」
間一髪のところでそれを避けた拓人だったが、安堵している余裕はなかった。
「っ!」
いつの間にか四方を取り囲んだドラゴンたちは攻撃態勢に入っていた。
拓人の正面の赤いドラゴンは全身を赤く光らせながら口の前に巨大な炎の玉を作り出し、左側の緑色のドラゴンは周囲に風を渦巻かせ、背後の青いドラゴンは頭上に巨大な氷塊を作り出し、右側の黄色いドラゴンは周囲にスパークを発生させている。
次の瞬間にはそれら全ての攻撃を同時に受けて、拓人は見るも無惨な姿になる――などということはなかった。
「「Gyaaa!?」」
下から飛んできた矢と光の矢が緑と黄色のドラゴンに命中し、2匹は怯んだ。
赤と青のドラゴンは構わずに攻撃を繰り出してきたが、その2匹の攻撃ならば避けることが出来る。
「「Gyeaaaaa!?」」
2匹の攻撃が放たれる直前に拓人は急降下した。
それによって向かい合っていた2匹の攻撃はお互いに命中。それぞれの攻撃を受けて2匹とも落下した。
拓人は地面に激突する直前に停止し、再び上昇。そして、辺りを見回している残りの2匹の元へ向かった。
まずは最初と同じように緑の方を不意打ちで殴る。殴られた緑のドラゴンは飛ばされて黄色の方のドラゴンに衝突。続けて拓人は2匹のドラゴンを頭上から殴って地面へと激突させた。
地上には動かなくなった5匹のドラゴンが横たわっている。それを確認した拓人は静かに地面へ降りた。
ふと、鍵に付いている玉を見ると色がなくなっていた。実際に能力が使えたのが嬉しくて、つい使いすぎてしまったようだ。これで、しばらくは能力が使えないことになる。
だが、問題はないだろう。
そう思いながら、屋敷へと戻った。
――横たわる5匹のドラゴンを見つめる白髪の少年がいた。見た目こそ子供だが、
(全て生きている、か……)
ドラゴンは5匹とも生きている。
それが故意か偶然かは分からないが、仮に死んでいたとしても放置というのは良くない。死んでいる生物を放置するとそこには腐敗臭が発生してしまうし、おそらくは気付いていなかったのだろうがこのドラゴン達は何者かに操られている。このままだと目を覚ました後にまた襲われるだろう。
少年はドラゴン達へ向けてスっと右手を伸ばす。
(これでいいだろう。……それよりも)
伸ばした腕を戻しながら思案する。
ドラゴンの洗脳は解いた。あとは自由に飛び立っていくだろう。
今はそれよりも気になることがあった。
脳裏に浮かべるは先程の3人の姿。
「失敗していたか」
そう呟いた後、身を
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