異世界

 「……どこだよ、ここ」

 気がつくと拓人は森の中にいた。何が起きたのかわからなかったが、今までの事を思い出してみて、原因の1つだと思われる物にたどり着いた。

 それはさっき拓人のポケットの中に入っていた鍵だ。

 あの鍵がポケットに入っていた時も光ったような気がしたし、関係があるのは間違ないだろう。

 そう思い鍵について改めて考えたが、思い当たる節はなかった。

 自分が置かれている状況はよくわからないが

 、じっとしていても仕方がない。拓人は、とりあえず辺りを散策してみることにした。

 しばらく歩くと森を抜け、街が見えてきた。


「え……!?」


 ――いや、正確には街だったと思われる場所が見えてきた。

 建物は崩れており、人の気配は全くしない。おそらくは廃墟なのだろう。

 しかし、拓人が思わず声を漏らしたはのはその廃墟に対してではない。その中をこちらへ向かって走ってくる1人の少女に対してだった。


「おーい!」


 太陽のように輝かんばかりの金色の髪が特徴的な少女は手を振りながら拓人の前まで来た。


「ボクの名前はリル。ねぇキミ、別の世界から来た?」


「え……?」


「あれ? てっきりキミだと思ったんだけどなぁー。――あ、そうだ! キミ、鍵持ってない?」


「鍵? ――あ!」


 金髪の少女――リルに問われ、いつの間にかポケットに入っていた鍵を取り出して見せる拓人。

 それを見た瞬間、リルの表情が喜々としたものになった。


「それだよそれ! やっぱりキミだったんだね。その鍵をキミ達の世界に送ったのはボクなんだよ」


「え?」


「こう見えてもボクは女神で、頼みたいことがあったから、その鍵をキミたちの世界に送ってこの世界に喚んだんだ」


「そう、だったんですか……?」


 今までの常識では有り得ないことをなんとか理解しながら、拓人はそう答えた。


「うん、そうなんだよ。詳しいことは後で全員にまとめて話すから、とりあえず家に案内するね。あと、敬語じゃなくていいよ」


「あ、うん。――え、全員……?」


 リルの『全員』という言葉で拓人はようやく気づいた。確かにリルは先程から『キミ』ではなく『キミたち』の世界と行っていた。てっきり自分と元の世界の人達を指していると思っていたがそうではなかったのだろう。つまり、自分以外にもこの世界が居るということだ。もしかしたら知り合いが、例えば中学生の頃に他県へ引越した友達や、親友の連人などが来ているかもしれないという拓人の淡い期待は――


「あれ、言ってなかったけ? キミと先に来てる女の子2人を合わせて、キミたちの世界から3人、この世界にきてるんだよ」


 ――そう話したリルの言葉によってすぐに打ち砕かれた。


「あ、そう……」


 見るからに落ち込んだ様子でそう答える拓人。その様子を見て何か勘違いしたのか、リルは真剣な表情で拓人に問いかけた。


「あれ? もしかしてキミ……男の子の方が好きなの?」


「は!? いやいや、違う違う!」


 リルのふざけたかのような、思いも寄らぬ質問に驚きながらも即答する拓人。


「ゴメンねー。落ち込んでたからてっきりそうなのかと思っちゃった」


 あれ? でもそしたらなんで落ち込んでたんだろう、と軽い調子で謝った後に拓人が落ち込んでいた理由を考え始めたリル。その様子を見て拓人はその理由を伝えようとした。


「あ、それは――」


「ま、いっか。とりあえず案内するからついて来てね」


「――あ、うん」


 自分のペースを貫くリルに戸惑いながら、拓人はリルについて行った。

 歩きながら周りを見回すが、建物はどれもこれも壊れており、やはり廃墟なのだと感じた。

 そんな廃墟となった街の中を歩くこと約20分。拓人達は、周りを木々に囲まれた街外れだったと思われる場所にある大きな屋敷の前に来ていた。


「ここがボクたちが住んでる所だよ。とりあえず話をしたいから中に入って!」


 リルは拓人を屋敷の中へ招き入れると、たくさんある部屋の中の1室へ案した。


「みんなー、連れてきたよ!」


 部屋の中には3人の少女がすでに待っており、リルと拓人が部屋に入った瞬間、3人の視線が一斉に2人の方を向いた。


「リル様。その人が3人目ですか?」


 その中で1番幼く見える少女がリルへ問いかけた。


「そうだよ、シャル。この子が3人目、いや正確には3人目って言うのが正しかどうかはわからないんだけど、ともかく、キミたちの希望の1人だよ!」


 シャルルと呼ばれた少女はリルの返答を聞き、嬉しそうな表情をした。


「あの、ところで私たちをこの世界に呼んだ理由は何でしょうか?」


 黒髪のロングヘアーで学校の制服と思われる物を着ている少女がリルへと問う。


「そのことについては後で話すから、まずは自己紹介をしようよ」


 お互いのことを知っておいて損はないでしょ、と言われ少女は渋々納得した。


「······わかりました」


「よし、じゃあまずはボクから! ボクはリル。この世界の女神だよ」


 よろしくね、と言いながらアストは可愛らしく手を降った。その様子を見届けた後、先程の黒髪の少女が名乗った。


「火田凜華です。よろしくお願いします」


 そう言い一礼をする。その様子は凛としていて、見る者に美しさを感じさせるものだった。


望田もちだのぞみです。よろしくお願いします」


 続けて拓人と同じ学校の制服を着た、穏やかで明るい雰囲気をまとったショートボブの少女――希が自己紹介を終えた。


「次はキミ、お願い」


 リルは拓人の方を向きながらそう言った。


「あ、はい。えっと、天月拓人です。……よろしくお願いします」


 最後にシャルが自己紹介をした。


「シャル·リムルットです。このエリア、ブライサロのエリアマスターをしています。ブライサロを復活させるために皆さんの力を貸していただけませんか?」


「どういうことですか?」


「詳しくはボクが説明するよ」


 そう言うとリルはこの世界のこと、この街のこと、そして拓人たちへの願いについて話し始めた。


 この世界には、いくつかのエリアのある人間界、そして天界と魔界が存在する。

 街にはそれぞれエリアマスターが存在し、それぞれの街を管理している。また、神がそれぞれ街を守護しており、街に何かあった場合には力を貸してきた。

 しかし、200年程前の起きたある戦いによって女神たちは封印され、その封印が解けたのが約1年前だ。

 そして、この街ブライサロの現在のエリアマスターがシャルであり、この街の女神がリルである。

 現在、ブライサロは壊滅状態になっており、その原因は全て1年前の出来事だった。

 1年前、突如ブライサロに魔獣が現れて暴れ始めた。人々は果敢に立ち向かったが、魔獣の圧倒的な強さの前では為す術も無くその命を散らしていった。

 魔獣が暴れ始めた翌日、大人たちは1人残らず殺され、残されたのは避難していた子供たちだけになってしまった。

 そして子供たちやにも魔獣の驚異が迫ったその時、封印が解けたリルが駆けつけて魔獣を撃退した。その後、生き残った子供たちの中で最年長だったシャルがエリアマスターとなり、リルの協力もあってなんとか生活してきた。


 以上のことを話し終えると、リルは1拍間を置いて再び話し始めた。


「――という訳でこの街はこういう状態になってしまったんだ。不幸中の幸いはボクたちに掛けられた封印が200年で解けるものだったことかな。そのおかげでなんとか子供たちだけは守ること出来たからね」


 重い空気が漂う中、シャルが話の続きを切り出した。


「それで皆さんにはこの街の復活をお願いしたいんです」


「街の復活って、私たちは具体的に何をすればいいの?」


 その疑問を口にしたのはのぞみだった。


「今度開かれる大会に出場して、優勝して欲しいんです」


「大会、ですか?」


「うん。その大会は神王様っていうこの世界を治めてる神様が1000年前から100年置きに開催してるんだ。ある事情によって100年前は開催されなかったんだけど今回はあるんだ。そしてなんと、その大会で優勝すると願いを叶えて貰えるんだ!」


「っ!?」


 願いが叶うという言葉に拓人が驚く一方でのぞみは冷静にリルに問いかけた。


「それで優勝して街を復活させる、という願いを叶えるんだよね?」


「そういうこと!」


「わかった。私は参加する」


 最初に参加の意思を示したのはのぞみだった。


「私も参加させて貰います。自分の実力を試したいので」


 続けて凜華も参加を決める。


「……オレも参加するのはいいんだけど、その……オレたちで勝てるの?」


 その疑問にリルはすぐに答えた。


「大丈夫だよ。キミたちの付いている鍵に付いている玉は魂結石といって、一度だけ持ち主の魂と結びついて持ち主が望む能力をいくつでも与える力があるんだ。それで欲しい能力を願って手に入れれば勝てるはずだよ。まぁ、その能力は無制限にはつかえないんだけど、その辺はあとで説明するよ」


 確かに強い能力が手に入れば勝てるだろう。


「でも、それで勝ったらズルじゃない?」


「大丈夫。当日は他の選手たちにも魂結石が渡されて、能力が使えるようになるから」


 相手も能力を使うというのならズルにはならないだろう。だが、相手も能力を使うというのなら、やはり最初の問題に戻ってしまう。


「相手も能力を使うならやっぱり勝てるかわからないんじゃ……」


「きっと大丈夫だよ。ボクが保証する!」


 大丈夫かどうかわからないが女神に保証されては信じるしかない。


「わかった。じゃあ、とりあえず頑張ってみる」


 最後に拓人が参加意思を示したことで3人の参加が決まった。


「それで、その大会のルールはどのようなものなのですか?」


「ルールは簡単。各街から3人1チームでトーナメント形式で戦っていくんだ。武器の使用は有りで、相手を行動不能にするか、場外に出す、もしくは降参させることで勝利になる。相手を殺した場合は失格だよ」


「そうですか。わかりました。ところで、その大会はいつあるんですか?」


「2日後だよ」


「「えっ!」」


 サラッと言ったリルだが、それは拓人たちにとっては驚かざるを得ない日付だった。

 なぜなら、まだこの世界のことをほとんど把握していない状態で戦わなければならず、また、普通の学生である自分たちが本当に勝てるのかも不安だった。


「大丈夫。なんとかなるよ!」


 拓人たちの思いを知ってか知らずかリルはそう告げるだけだった。


 その後3人は食堂へ案内され、子供たちと挨拶を交わして夕食を食べた。それが終わるとリルは3人にそれぞれの部屋の場所を教えた後自分の部屋へと連れて行き、能力のことについて話し始めた。


「さっきも言った通り、魂結石には持ち主の魂と結びつくことで一度だけ、持ち主が望んだ能力を与える力があるんだ。でも、与えられた能力は本来は無いはずのものだから、その能力の使用者の魂や肉体にかなりの負担がかかってしまうんだよ。それでその石には負担を肩代わりしてくれる力もあるんだけど、それには限界もある。限界がきた場合は一時的に能力が使用できなくなるんだ。その場合は何日か経てばまた能力を使えるようになるよ。ちなみに能力を使える限界までの値は魂との結び付きが強くなるほど大きくなっていくんだ。魂との結び付きは能力を使うほど強くなっていくよ。あと、一度能力が確定したら変えることは出来なくて、他の人が使用してもその能力になるよ」


 3人ともリルの話を集中して聞いていたが、凜華が疑問を口にした。


「能力を使用できる限界はどうすればわかるのですか?」


「それは玉の色でわかるよ。能力を使う度に玉の色が薄くなっていって最終的に無色透明になるんだ。同じ能力でも威力とかで使える回数は変わってくる。例えば、炎を操る能力だとしたら、火の玉を出すのと相手を焼き尽くすほどの炎を出すのとだったら、後者の方が威力が高くてその分エネルギーが必要だから使える回数は少なくなるんだ」


「つまり、最初から多くのエネルギーが必要な能力はほとんど使えないと言うことですね」


「うん、その通りだよ。とりあえず、説明はこれくらいかな。あとは自由にしていいよ」


 その後、3人は自由に過ごすことになった。

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