次空を越えて異世界へ

シン

謎の鍵

 現在は10月10日 午後11時45分頃。少年は明日から始まる中間試験に向けて勉強していた。今は苦手な歴史を暗記中だ。

 ノートを手で隠して、いつ何が起きたのかなどを声に出して言ったあと確認する。それを何度も続けていた。書いて覚える方法よりもこの方が自分にとっては覚えやすかった。


 窓の外からは激しい雨音が聞こえる。ここ何日か続いている雨がまた強くなったのだろう。

 しかし、そんなことに構う余裕など少年にはなかった。なんとしても高得点を取る。そのために最大限の努力をしなければいけない。そういった思いを胸に秘めて、少年は勉強を続ける。


 ――ふと気づくと、机の上に見たことのない鍵があった。不思議に思いそれを手に取った瞬間、少年は目の前が真っ暗になり、気がつくと見たことのない場所にいた。


「よくぞ来てくれた」


 背中からそう声をかけられ振り向く。


「私の名前はフェルシル。君は?」


 そこに立っていたのは、黒いローブを着た銀色の長い髪の男だった。この男が今の状況に関わっているのは間違いないだろう。

 この怪しい男に本名を言うか迷っていると、かつて友達が冗談で言った名前を思い出し、とりあえずこの名を名乗ろうと考えた。


「俺は、世界メグル」


「そうか、メグル。今からお前に起きた事と私の目的を話そう」


 そう言って男は話し始めた。


  ――望田もちだのぞみは学校へ行くために身支度をしていた。制服を取り出して着替え、鏡を見る。土日祝日を挟んで4日ぶりとなるその姿を、まるで何ヶ月ぶりかのように少しだけ懐かしむように見る。そして身だしなみを整え、をポケットに入れてリビングへと向かった。


『10月11日、今日も全国的に――』


 リビングでは母親がテレビを見ていた。


「お母さん、しばらく友達の家に泊まるから帰ってこなくても心配しないでね」


「え、どうして?」


 母親は理由を聞こうとのぞみの方を見て、気づく。


「――そう、気をつけてね」


 その目は何かを固く決意している。間違いなく何かをしようとしており、それはきっと危険なことで、しかしやらなければいけないことなのだと思う。本当は止めたいが止めてもきっと聞かず、無理矢理にでも行くのだろう。だから、その一言が精一杯だった。


「うん、いってきます」


「いってらっしゃい」


 母親はその背を静かに見送った。どうか無事に帰ってきてほしいと願いながら。


(ごめんなさい、ありがとうお母さん)


 家を出てふと空を見上げるときれいな青空が広がっていた。そういえば全国的に晴れが続いていたな、などと思いながら学校へと歩き始める。


(今度は私が――)


 大切な仲間たちの姿を思い浮かべ、強い決意を抱いてポケットの中の鍵を握りしめながら。


 ――火田ひだ凜華りんかは帰路についていた。短縮日課でいつもよりも早く学校が終わり、この後はどうしようかなどと考えていると家に着く。そして鍵を取り出そうとして気づいた。


「これは……?」


 家の鍵と一緒に見たことのない鍵が入っていた。入れた覚えはなく、何なのかを考える。だが、答えは出ない。


 まずは家に入ることにし、鍵を開けてドアを開いた瞬間、視界が光に覆われた。



 ―― 天月あまつき拓人たくとは図書室へと向かっていた。

 終礼が終わり、ほとんどの生徒達はすぐに帰り始めた。

 いつもならば部活に向かう生徒達もいるのだが、今は中間テストが近く全ての部活が休みになっている為、テスト勉強、もしくは勉強なんかせずに友達と遊ぶ為に早く帰りたいと考える者が多い。その為、昇降口付近は生徒達で溢れ、外へと向かう人の流れが出来ていた。

 そんな中、1人人混みから離れていく。


連人れんと、いるかな」


 昼休みに話した時に図書委員の仕事があると言っていた親友の手伝いをした後に一緒に帰るのが目的だった。

 そんなことをするぐらいならば早く帰って勉強するなり友達と遊ぶなりした方がいいと考える者もいるかもしれないが、拓人は基本的に勉強はせず、また、友達はほぼ全員勉強をしているため、この期間に一緒に遊ぶような者はほとんどいない。

 その為、テスト近くの時期の拓人の過ごし方は家で暇潰しにゲームをする程度だ。

 親友を手伝ったところで何も支障をきたさず、むしろ有意義に過ごせると考えた為、こうして図書室に向かっているのだった。

 しばらくすると図書室のある特別棟の2階に着く。テスト前ということもあってか廊下には他に人の姿は見当たらない。

 親友がいるか不安になりながらも図書室に入ろうとしたその時。ズボンのポケットの中で何か光ったような気がして、拓人はポケットの中を探ってみた。すると何かが指に当たり、気になって取り出してみる。それは――


「……鍵?」


 ――それは鍵だった。

 青い玉のストラップが付いているどこにでもありそうな形の鍵。

 拓人はこの鍵について考えてみたが、全く心当たりが無かった。しばらく考え込んでいたが、誰かが階段を上る音が聞こえて思考から意識を戻す。このまま考えていても仕方がない。とりあえず図書室に入ろうとドアを開けた瞬間――辺りは眩い光に包まれた。


「――っ!」


 光は、一瞬辺りを照らしてすぐに収まった。

 数秒後、ガララッ、とドアを開ける音がし、図書室の中から1人の男子生徒が顔を出す。


(あれ······?)


 何かが光ったような気がして見てみたのだが、廊下には変わったものは何も無く、誰もいない。

 気のせいかと思い、男子生徒は再び図書室に顔を引っ込めた。

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