まほうのパンと老婆

ヘルツ博士

まほうのパンと老婆

 町外れにあるパン屋には、「魔法の食パン」と噂されているパンが売られている。このパンはジャムやマーガリンだけでなく、生の魚やパスタなどパンに合わないものを乗せてもおいしく食べることができる不思議なパンだった。パン屋でただ一人働いている老婆はそのパンの感想をお客から聞く度に、顔がほころぶのだった。

「おいししパンを食べて欲しい。」

 ただその思いだけで、老婆は朝の生地の仕込みを休むことなく続けていた。来る日も来る日もパンのことばかりが頭を離れず、パン屋から片時も離れなかった。


 冬の夜、窓一つさえも空いていないパン屋の中で衰弱した老婆は布団の中で力尽きていった。

「魔法の食パン」は、もうここにはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まほうのパンと老婆 ヘルツ博士 @Hakase10Hz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る