ヤンデレなんかじゃない

ヤンデレなんかじゃない

ふふっ、こうやってハルくんと手を繋いで帰るの夢だったんだぁ。早速一つ、夢が叶っちゃった。

え？ハルくんもなの？　私たち、心の奥で繋がってるのかもね。

……ところでさ、今日、学校でナツミちゃんやフユコちゃんと一緒に楽しそうに話してたよね？

委員会の業務連絡？　嘘、ただの業務連絡であんなに楽しそうにするはずないじゃない。

やっぱり、本当は雑談もしたんだ。

変に浮いて、私に迷惑がかからないようにするため？　

そんなことしなくてもいいわよ！　ハルくんが私だけを見てくれれば、私はそれだけで幸せなの！

ハルくんだってそうでしょ？　だから私、今日男の子とは誰とも話してないんだよ？話しかけられても無視して、ハルくんとだけ話してた。

なのに……なのに！

……これ？　見れば分かるでしょ、スタンガンだよ。

ハルくんを私の家に閉じ込めて、私以外の誰ともお話しできなようにするの。

私、一人暮らしだし、何の問題もないよ。大丈夫、家族とだけはたまにお話しさせてあげるから。

お金のことも心配しないで？ハルくんのために、私いっぱい働くから！

それじゃあ……少しだけ眠っててね、ハルくん！

………。

…………。

え、あれ？　……なんで普通に立ってるの？

漫画のまねして何年間もずっとスタンガンを自分に使ってたら効かなくなった？

いやいやいや、嘘はやめてよ、そんなことあるはずないじゃない。

……。

…………。

ねえ、今リミッターも取ったんだけど。

もしもの時のために改造してかなりの電流と電圧になってるはずなんだけど……もしかして本当に効いてない？

だ、だったら……！

違法な方法で入手した催眠スプレー！！

……。

…………。

ねえ、これ一瞬で象も眠らせるスプレーなんだけど。せめてあくびくらいしてよ。

っていうかなんでこれも効かないのよ。明らかにおかしいでしょ。

……小さい時に毒蛇に噛まれてから、毒がまったく効かなくなった？

なにそれ、主人公かなにかなの？

もう、こうなったら……物理で殴る！　くらえ、カバンにしまえるタイプの鈍器！

……。

…………。

あっ、ふーん。なるほどね、逆に鈍器が壊れるのね。

……うん、予想超えてきた。正直殴っても平然としてる程度は覚悟してた。まさか壊れるとは思わなかった。

……10階から落としても割れないはずなんだけどなぁ。そっか、粉々かぁ……。

……。

…………。

なによ、その目。

好きな人を独占したいのは当たり前でしょ？

私はハルくんの彼女なんだから、おかしいことじゃないの！

こういうことするとヤンデレって言う人がいるけど、これは愛の証明だもん。

私はハルくんだけを見てるんだから、ハルくんにも私だけを見てほしいって思うことは普通のことなの！　私が狂ってるみたいに見るのはやめて！

なんで私以外を見てるの？

なんで私だけを愛してくれないの？

なんでなんでなんでなんで――

……え？　ヤンデレなんかじゃない？

嘘はやめてって言ってるでしょ！　本当にそう思うならどうして私の愛を受け入れてくれないのよ！

……拒否してない？　ただ効かないだけ？

そ、そういえば確かに、私がなにしても効かなかったけど、避けようともしてなかった……。

……え？　君も学校で、先生と話してた、って？

い、いやだって、授業で当てられたら答えるしかないじゃない。

……ねえ、なんで私からスタンガン奪ったの？

僕だって我慢してた？　でも君がそう言うなら僕ももう我慢しない？

君を僕に家に閉じ込める？

……………………。

……嬉しい。監禁してくれるんだ。

そうよね、好きな人を独占したいと思うことは当然よね。

やっぱり私たち、心の深いところで繋がってるんだわ。本当に、本当に嬉しい。

うん、私のこと、独占して。家族とも話させなくていいよ。

ハルくんとだけお話しできればいいの。

ふふっ、本当はスタンガンなんて使わなくても監禁されるけど……。

やっぱり、同じ考えね。

『私が監禁される』じゃなくて、『ハルくんが監禁する』ことが大事だもんね。

スタンガンも催眠スプレーも使って、私にハルくんの愛を刻んで？

そうだね。鈍器が壊れっちゃったの、もったいないね。

それで、一生消えない傷を作ってもらいたかったなぁ。

でもいいよね。どっちみち、私の人生はハルくんに全部あげちゃうんだから。

私がハルくん以外の誰とも話せないようにして。

私の視界にハルくん以外が入らないようにして。

私の人生からハルくん以外のすべてを消して。

私をハルくんだけで満たして。

これは、普通のことだもんね？

恋人のことを独占するのは当たり前だもんね？

私たちはヤンデレなんかじゃない。そうでしょ？

あ、そうだ。

私のために働いてくれるのは分かるけど、私以外の女と話したら許さないから。

……うん、それじゃあ、私のこと気絶させて。

私の体、家まで頑張って運んでね？

死ぬまで……ううん、死んでも一緒にいようね、ハルくん。