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 玄関に向かい靴を履く。ドアを開けると、通路に本橋さんが立っていた。


 両手をダラリと垂らし、俯いている。その立ち姿に思わず背筋がゾクッとした。


「うわ、驚いたな。本橋さんどうしたの?」


「空野君の姿が学校で見えなかったから、ここに来たの」


「なんだ。本橋さんも放課後いなかったよね。だから流音と帰ったんだ」


「そう。あたしは友達に逢ってたの。友達がね、南仏中学校に転校してくるんだ」


「……そうなんだ」


「風見さん、ちょっとお邪魔していい?」


 流音は俺を見て、ブルブルと首を左右に振った。


「今日はごめん。都合悪いの。だから澄斗にも帰ってもらってるの」


「都合悪いの? じゃあ……さようなら」


「……うん。ばいばい」


 流音はバタンとドアを閉める。


 通路に本橋さんと取り残された俺は、妙に気まずい。


「ごめん、本橋さん。俺も今日は友達と約束があるんだ。また明日学校で」


 本橋さんは俺をじっと見据えている。俺の嘘を見抜かれているようで思わず視線を逸らした。


「そう。じゃあ明日の朝……また迎えに来るね」


「……うん。じゃあ」


 玄関のドアを閉め、覗き窓からそーっと通路を見ると、そこには充血した白目がこちらを見ていて、思わず後退りした。


 今まで流音の話を単なる空想だと思っていたが、満更嘘ではないのかもしれない。


 美術室の幽霊も、単なる噂話ではないのかも。

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