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「柿園先生、あたし、もう大丈夫です。帰っていいですか?」
「いいわよ。空野君、風見さんのことお願いね」
「はいわかりました」
澄斗は柿園先生に会釈し、あたしの手を掴んだ。
「失礼します」
スタスタと足早に校舎を出る。
「ね、ね、あたしの言った通りでしょう。本橋さんは生きたまま鼠を……」
「そんなんどうだっていいよ。お前さ、何がしたいの?」
「何って……」
「美術部に入ってからお前変だよ。ぶつぶつ一人言話したり、鼠をペットにしたり。昔のお前なら、怖がってキャーキャー騒いでいたはずだ」
「だって……」
だって、あれはハカセだから。
ただの鼠なら、苦手に決まってる。
「人格変わってるぞ。何かに取り憑かれてるみたいだ」
「やめてよ」
唐沢先輩もハカセも悪霊じゃない。
「しっかりしろよな」
澄斗はあたしの体から悪霊を追い出すように、背中をバンッと叩いた。
あまりの強さに、思わず体が前に出る。
「痛いな!」
自分こそ、ヴァンパイアの餌食になったくせに。
「あたしは餌食にならないからね」
「は? 餌食?」
校門を出ると……
そこには本橋さんの姿。
「空野君、遅かったね」
「本橋さん、ずっと待ってたの?」
「うん。同じマンションだし。一緒に帰りたくて」
色っぽい眼差し。
やだな、あたし完全にお邪魔虫だよ。
一歩二歩と、澄斗から離れ後退りする。
本橋さんはスッとあたしの前に入り、澄斗と並んだ。
相変わらず、感じ悪い。
「空野君、今日ね、両親がいないの」
本橋さんの両親?
そういえば、一度も逢ったことないな。
「一人なの? 大丈夫?」
「もう慣れてるから。でも……今夜は一人になりたくないんだ。空野君の家にお邪魔してもいい?」
えっ、澄斗の家に!?
自ら狼の餌食に?
澄斗が女子を家に連れ込むはずないよね。
「いいよ、くれば?」
マジで?
二人はもうそんな関係なんだ……。
「流音も来いよ。母さん今日仕事で遅いんだ」
「あたしも!?」
まさか、二人の今夜のディナーは……。
あ、た、し、!?
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