澄斗side

57

 階段を降りながら、本橋は俺の腕に体を密着させた。


「あのさ、俺、馴れ馴れしい女は苦手だから」


「……えっ?」


 本橋は一瞬俺を見上げた。上目遣いだった眼差しが一瞬キツくなる。


「腕を組むのやめてくれる? 俺達付き合ってないし、誰かに見られて誤解されたら本橋さんも嫌だろ」


「ごめんなさい。空野君ってシャイなんだね。あたしは平気だよ。空野君さえよければ、あたしと付き合わない?」


「本橋さんって、意外と積極的だね」


「女子から告白されるのは嫌? それとも好きな子がいるの? もしかして……風見さんとか?」


 本橋の発言に、思わず焦る。


「俺が流音を? 地球上に流音と2人きりになったとしても、俺がアイツと恋に落ちることはない」


「ふーん。そんなに嫌いなの?」


 嫌いかと問われ、その言葉に即答出来ない。だって好きだから。


 校庭のベンチに腰を降ろし、キャンバスを立てる。鉛筆でデッサンをしていると、俺の隣で本橋がデッサンを始めた。


「ねぇ空野君。空野君は美術室の幽霊や化学室のヴァンパイアって信じてる?」


「黒谷のことか?」


「うん。心霊写真撮ってたでしょう。霊が簡単に写真に写り込むわけないのにね。だから人間はバカなのよ」


「随分手厳しいね?」


「それより美術室の幽霊は、この地の地縛霊に呪いをかけられた生徒だって知ってる? 少年は霊能力があったらしく、逆に地縛霊を地底深くに封じ込めたんだって」


 そんな噂初めて聞いた。

 落ち葉がカサカサと足元を舞い、思わず飛び上がる。


「うわっ」


 この地底に地縛霊が!?


「俺、今日はイメージが湧かない。やっぱ、もう帰る」


「空野君帰っちゃうの? だったらあたしも帰ろう」


「あたしもって、本橋さんの家は何処? 俺は歩いて帰れる距離けど、電車通学なの?」


「あたしも歩いて帰れる距離だよ。世田谷白樺マンション」


「俺と……同じだ」


「だったら一緒に帰ろう。偶然だね、嬉しいな」


 本橋と同じマンションだなんて、俺は驚きを隠せない。


「四階の404なんだ」


 四のつく部屋は五階にはない。四階にはあるんだ……。


 本橋と一緒に学校を出ると、ヒタヒタと背後から足音がする。


 まさか……

 地縛霊!?


 校庭で絵を描いたから?

 まさか、取り憑かれた!?


 ――ヒタヒタ……。


 ――ヒタヒタ…………。


「ぎゃあー……!」


 猛ダッシュで走り出した俺。俺を抜き去り『あっかんべー』をしたのは、地縛霊ではなく流音だった。

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