功利主義の男
@ieisandaaa
第0話 悪魔を従えた男
遠くの街で音がした。歴史の歯車が1つ進んだ音だ。だが、今までのように噛み合った音ではない。自分以外の凹凸を全て破壊し、自分の目指す世界を作り出す。言わば『ヒトラー』の様な狂信的なカリスマを持つ者の歴史。
再び世界は狂った方向に回り始める。
それは全てこの男が発端であった。
紫色のカーペットを汚れた靴底で踏み潰しながら年老いた掌で、無駄に立派な社長室の扉を押す。が、鍵のかかった扉は簡単には動かない。
普通なら鍵を取りに何処かに向かうだろう。だがこと男は違う。齢50を過ぎ、悲鳴をあげる体をくるり、と回し岩のように凸凹した裏拳で目の前の障壁を打ち砕く。
「効率を悪くするな。次から鍵は外せ。」
低く、重い声で前社長の秘書を威圧する様に言葉を紡ぐ。それだけで秘書は身震いし、まるで都合の悪いことで怒られている小学生の様に顔を真っ白にする。
この男こそ新しい時代を作り上げる者。ヒトラーよりも新しいが、ヒトラーよりは老け老いた者。彼の手によって会社を去った前社長が『悪魔を従えた男』と形容した。『功利主義の男』である。
功利主義の男 @ieisandaaa
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