第29話 ドキドキ(仮)部!-Doki Doki Kakkokari Club!-
それは七宮ベルフェゴールが生徒会に拉致される数分前に遡る────
『すまん、俺ちょっと用事あるから遅れる。先に部室行っててくれ』
『了解です٩(๑'о'๑)و✧*』
これでよしっ、と。
お兄さんに可愛い顔文字付きで返信を返す。
お昼休みの時、どこか様子が変だった気がする。
なんか嫌な予感がするなぁと女神の勘がそう言っている。
しかし、私は〈勘〉の女神でもなんでもないので勘などあてにならない。
私には想像することしかできないのだ。
大人しく部室に向かおうかな。
てくてくと廊下を歩き、部室へと向かっていると途中で永淵先輩とばったり会う。
「おお七罪後輩、奇遇だな」
「わ〜永淵先輩こんにちはー」
これから同じ部活だから奇遇も何も無いのでは? という野暮なツッコミは喉の奥に押さえ込んだ。
永淵先輩は金髪碧眼のお人形さんみたいな女の子でとってもチャーミングだ。言動は少し、いやかなり厨二病をこじらせているがそれはそれで可愛いといえるだろう。
私は猫ちゃんとかとにかく可愛いものに目がない。
永淵先輩のこともほんとはよしよししてあげたいのだが、さすがに先輩だしあまりよろしくはない。
二人肩を並べて歩いていく。
「そういえば永淵先輩って
「え、あ、ああ、そう………なのかな。まぁ、そうかもな」
永淵先輩は歯切れが悪いようにしぶしぶ肯定した。
実は私はお兄さんと永淵先輩の初対面などは知っていない。ちょうどその時お兄さんの監視はしていなかったのだ。
「どうやって知り合ったんですか?ほら、お兄さんお喋り下手なのによくこんな可愛い人とお近付きになれたなぁ、と」
「わ、私が可愛い……っ?………ふふっ」
永淵先輩は露骨に機嫌を良くした。とってもわかりやすい人だ。可愛いなぁ。
「しかし、すまない。いくらベルフェゴールの妹である
「わわ、そうなんですね。いや大丈夫ですよ、お気になさらず。誰にでも話したくないことのひとつやふたつありますし」
でも、それほどまでに話したくない出会い方とかあるのかな。
まさかお兄さんが何かやらかしてしまったのでは...?何かのという内容については想像するほかないですけど。
そんなこんなで考えに耽っているといつの間にか部室前についていた。
扉を開けると、部室の中には読書中の
こちらを見ると少し微笑んでから軽く手を振ってきた。
その仕草があまりにも美しすぎて女の私でも少しドキッとしてしまうところがあったりなかったり。
「灰咲、グーテンターク」
「なんでドイツ語なんですか……。灰咲先輩こんにちは〜」
「ええ、こんにちは二人とも」
「えっと
「今日はいらっしゃらないみたいね。ほら、教卓の上の紙に書いてあるわ」
私と永淵先輩は揃ってその紙を覗き込んだ。
『今日は職員会議あって行けねぇから、お前らだけで活動しててくれ。お前らに今回やってもらいたいのは「部長決め」だ。部長がいないと部がなりたたねぇから話し合いの元適当に決めちゃってくれ。以上。お前らの恩師、留萌萌依より』
その紙には留萌先生らしい口調でそう書かれていた。絶対に本人が書いたんだろうと確信する。
「ふむふむ。我達の中で頂点を決めるとそういうことか」
「そんなバトロワみたいな感じじゃなくて普通に部長決めるだけですからね……」
今日はお兄さんがいないからツッコミ役は全て私が請け負うことになるってことですか……。まぁ全然苦じゃないので構わないですけど。むしろ楽しいですし。
私と永淵先輩は灰咲先輩の座る机に接するところに腰を下ろした。
「心底どうでもいいのだけれど、七宮君は今日いないのかしら」
「放課後ちょっと用事あるとかなんとかで。まぁすぐ来ると思いますよ」
「そう」
……あれ?なんか今一瞬だけ私の方を見る灰咲先輩の眼光が鋭かったような……。まぁ気のせいかな。
灰咲先輩は口数が多くない人だけど何だかんだ優しい人ですし。
「じゃあ七宮君が来る前にちょっとだけ話進めましょうか」
「あいつが来てからでいいのではないか?」
「初めにやりたい人がいるかを聞きたいの。そういう意思のある人に部長はやってもらった方がいいでしょう?」
「確かにそれもそうですね」
「ちなみに私は責任を負いたくないからあまりやりたくはないわ」
灰咲先輩は依然として言い放った。
もちろん、その通りだ。部長である限りこの部の問題を全て請け負うことになると言ってもおかしくはない。
「私も積極的になりたいと思わないな」
永淵先輩がそう口にする。
「わ、私もです。というか私一年生なのでそもそも対象外かもしれませんが」
ここにいる三人とも部長になりたくないという結論が早くも決まってしまった。
「部長になるメリットも正直あまり分からないですしね」
「名のある部活だったら内申にも影響するでしょうけど(仮)部部長っていう称号がそれに響くわけないでしょうし」
「ますます部長になる利点が分からなくなってきたな。面倒くさそうだし、それに部活同士の対抗戦で表立ってやることになるだろうしな」
部活動間対抗戦。
それはこの学校の大きなイベントのひとつで部活動が三桁近く存在するこの学校ならではのイベントである。
その対抗戦ではそれぞれ競技が決まっていてその中に最強の部長を決める通称『B-1グランプリ』というものある。
部活動の長である部長はそれに必ず出場しないといけない決まりがあるのだ。
「あのくだらない競技に参加するなら死んだ方がマシね」
灰咲先輩の言ってることも決して大袈裟ではなく『B-1グランプリ』では文化部や運動部全ての部が公平に戦えるように様々なことをやらされる。そう様々なことをだ。
ええと……あとは察して欲しいです。
私の口からはとても言えたことではないので……。
「部長の頂点に立つというのも悪くはないが、あれらをやらされるのは流石の私もな……」
永淵先輩は顔色を悪くしている。
自分がそれに出場したのを想像してしまったのだろう。
「みんな、こういうのはどうかしら」
灰咲先輩がそれぞれを見渡す。
「七宮君に部長をやってもらうってのは」
「………っ」
な、なるほど。その手がありましたか。というかここにいる三人は頭の片隅にその考えがチラついて仕方がなかったと思う。
口にしなかっただけでみんなお兄さんにやってもらいたかったはずだ。
「そう、しようか。ベルフェゴールには悪いが……ほんっとうに悪いと思っているが勝手に決めさせてもらうとしよう」
「そ、そうですね。お兄さんが一番私たちを引っ張るのにふさわしいですし」
本人の居ないところで話がだいぶ決まってしまった。
ごめんなさい、お兄さん。私達はB-1グランプリに出たくないのです……。
「じゃあ、七宮君以外の総意も定まったので七宮君が部長ということでいいかしら?」
「「はーい」」
「じゃあそういうことにしましょうか。留萌先生には私から言っておくわ。本人はここにいないけど七宮君だし別にいいでしょう」
総意の中にお兄さんが入っていないことが凄く不憫で仕方がありません。あぁ……ごめんなさいお兄さん。
「今日のやることは終わったわけだけれど、一応“部活の内容を決める部活”なわけですし少しお話しましょうか」
「そうですね、お兄さんも待たないとですし」
そうしていつかのように私たちの話し合いが始まった。
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