第27話 逆妹裁判



 早く起きなくては。


 そんな思いで目を開ける。

 しかし、目を開けたところで暗闇は解消されない。

 真っ暗だ。暗い暗い、闇の中にいる。


「……なんだよ、これ………」


 そして俺の身体と両手足は何かに縛り付けられて座らせられていた。

 真っ暗なので見て確認することはできないが感覚的に椅子に縛り付けられてる気がする。

 ごくりと息を呑む。

 落ち着け、俺。深呼吸だ。

 まずは状況を冷静に整理してみよう。



 朝、教室の引き出しにラブレターらしきものを発見。

         ↓

 それに従って放課後指定された場所へ赴く。

         ↓

 木の上からスク水を着た女の子が落ちて来る。

         ↓

 スク水女に気を失わされる。

         ↓

 暗い部屋で椅子に縛り付けられている(イマココ)



 ……うん、整理したところで全くわけが分からないな。

 なんだこのカオス。俺なんかしたかな。いやしてねぇだろ。絶対何も悪いことはしてない。


「おい、誰か!! 誰かいないか!?」


 俺はまず周りに人が居ないかを確認した。まぁこんな暗闇の中に俺以外がいるわけ………。


 カチッ。


 何かのスイッチ音と共に部屋の照明がついた。


「っ!?」


 部屋がそれによって照らされて、一瞬だけその眩しさに目を瞑ってしまう。

 次に目を開けた時には俺は何人もの人に囲まれていた。何人もの、と言ったが具体的には四人だ。目視できる範囲に四人の高校生が周りにいた。

 男子が二人、女子が二人。

 スク水女の姿は見えない。

 しかし、その中には一人見知ったやつがいた。確か、濃野にトッキーとか呼ばれてたやつ……。まぁ一回も会話したことないけど。

 長机三つでU字が作られていて、そのU字の口の部分に俺が縛り付けられている。


「開廷!」


 正面に見える女の子がそう叫んだ。

 めちゃくちゃ小さい女子だった。なぜか口にはつけ髭をつけている。


「小学生……?」


「死刑!」 


「なんで!?」


 正面に座る少女は裁判官がよく持ってるイメージである木槌ガベルを机に叩きつけた。

 カンッといい音がした。いやそうじゃなくって……。


「私は小学生じゃないよ! ましてや高校生でもない!」


 口調が口ひげと見合ってないし違和感がハンパない。

 小学生とも一瞬見間違えてしまったが服装が明らかにこの学校の制服なので生徒であるのは確かなのだろう。でも高校生じゃないってどういう……?


「私は裁判長なのだ!」


 そう言ってもう一度例の木槌を振り下ろす。

 カンッといういい音がまたしてもこの部屋に響いた。

 俺はいきなり拉致されたことに対する憤りがこのカオスな状況によって中和されてなんとか冷静になることが出来た。


「なぁ、これって何のおままごとだ? 早く解放して欲しいんだけど」


「ごめんなー七宮。ちょっとだけ付き合ってくれ」


 トッキーが俺を見て申し訳なさげな顔でそう言った。


「およ、ちょっとトッキー………いや弁護人! 口出さないでくれる? 裁判中は私語厳禁なんだよ!」


「すみません、会ちょ………じゃなくて裁判長」


「それでよろしいぞよ」


「裁判長、とっとと本題に入らないか?」


 そう言ったのは背の高い、顔の整った金髪の男だった。先輩だろうか。

 金髪ではあるが、不良という印象はなぜか感じずにその話し方からは真面目な雰囲気だけを感じ取れた。


「それもそうだね。では検察官の千輝ちぎら君、この罪人に引導を渡してやって!」


 罪人て。引導て。全くもって意味が分からない。

 千輝とやらは俺をひと睨みして、口を開いた。


「………被告人、貴様もしかして自分が何をしたのか理解していないではないか?」


「ま、まぁ。悪いこととか生まれてこの方したことないので」


「はっはっは………。よくもまぁそんなことが言えたな、この犯罪者がっ!」


「いやいやいや、なんで俺がそんなこと言われなきゃいけなんですか。名誉毀損とか拉致監禁とかで逆に訴えますよ」


「ふん、あくまでしらばっくれるつもりか。では貴様に決定的証拠を見せてやろう」


 千輝は椅子から立ち上がり、縛り付けられている俺の方へ歩み寄る。そしてポケットから何かを取り出した。

 三枚の写真のようだ。

 その写真を俺の前に差し出した。


「こ、これは………」


 一枚目は俺と七罪が夕日をバックに二人で歩いている写真だった。

 やけにローアングルな気がするが、めちゃくちゃいい写真だと思う。

 コンクールで優勝しててもおかしくないようなそんな美しい写真だ。


「……綺麗ですね。よく撮れてると思います」


「そうだろうそうだろう。これらは俺が撮ったんだからな。もっと褒めてくれてもいいぞ。よし、では次だ」


 そう言って自慢げな表情を見せながら千輝は次の写真を見せてきた。


「……ッ!?」


 それを見た時、冷や汗が額に滲むのが分かった。


 その写真は俺が小さい七罪をリュックサックに詰め込んでる時の写真だった。


 そして、この状況の全てを察することが出来た。

 要するにあれだ。

 一番恐れていたことが起きてしまったんだ。

 メリットに対する大きなリスク。そのリスクが俺に対して牙を剥けてきた。

 その写真はどっからどうみても児ポ案件だった。


「ハッ。ようやく被告らしい表情になったな。最後にトドメを突きつけてやろう」


 最後に見せたその写真は、俺が七罪の入ったリュックサックを持って自宅の玄関に入るところの写真だった。


 完全にアウト。


 皆さん、学園生活終了のお知らせです。

 さようなら、俺の学園生活。

 さようなら、俺の人生。

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