第26話 青春シス野郎はスクール水着先輩の夢を見ない
鳥のさえずりが聞こえて、朝が来たことを悟る。
これが朝チュンってやつか。いや違うな。特に
それにしてもやべぇ全く寝られなかった。
あんな状況になったやつと同じ屋根の下、というか同じ部屋の中で簡単に寝られるわけがない。
俺は冴えきった頭を振って重い身体を起こす。
七罪の姿を一応確認する。
べ、別に寝顔が見たいとかじゃないんだからなっ。
七罪はいまだぐっすりと寝ているようだ。
......かわいい。
かわいいという概念そのもののような可愛さを携えている。
永遠に見てられるな、これ。
しかし、この世界に永遠なんてものは存在しない。さすがにずっと見てる訳にもいかないので俺は何とか理性を保って目線をずらした。
顔洗いに行くか。
俺は部屋から出て階段を降り洗面台に向かう。
隈がやばい。明らかに寝不足ってのが見てわかる顔色の悪さだ。
まぁ寝ないのもそれなりに慣れているから日常生活に支障はないはずだ。
俺は顔を洗った後に特に用もないがダイニングへと向かった。
「おっ今日は朝早いねベル兄」
「お前が早すぎんだよ………」
そこにいたのは朝飯を食べている途中のティアだった。
ティアはニヤニヤしながらこちらを見ながら口を開いた。
「あ、そうだ。ゆうべはお楽しみでしたね」
「……っ!?」
こ、こいつ何故それをっ……!?
いや特に何もなかったからそれも何もないんだけど。
「いやお風呂場の声だだ漏れだったからさ。聞きたくなくても聞こえたって言うか」
「はぁっ!?…………マジで……?」
「マジで」
「………マ?」
「マ」
「…………はぁ〜……っ」
俺は大きくため息をついてその場に膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。
今俺顔真っ赤かもしれない。どこからどこまで聞こえてたんだ、それ。
身内に聞かれて嫌なことトップ3には入るかもしれない。うっわ死にたい。
「安心してよ、ベル兄。兄さん達には『ベル兄が風呂場でアダルトな動画を見てるだけ』って言っておいたから」
「それだと俺が動画と会話してるヤバいヤツになるじゃねえか!」
「大丈夫。兄さん達はそれで納得してたから」
「兄貴たちは俺をなんだと思ってんだよ!」
ティアの機転(?)によって七罪の存在はバレなかったようだ。俺がそういう動画と会話する変態というレッテルを貼られたことと引き換えにだけど。
俺の視線はティアからリビングのテレビへと移動する。
テレビにはテンプレートのように早朝のニュースが映し出されていた。しかし、その内容はテンプレとは掛け離れていて───
「…………これってここから近いよね」
「ああ、一駅くらいここから離れてるけど。出火原因分からない火災とかそんなんあるんだなぁ」
それは出火原因不明の火事でいまは使われていない工場の廃墟が全焼したという内容のニュースだった。
跡形もなくなった工場廃墟の様子が映されている。
「放火だとして犯人捕まってないってちょっと怖くない?」
「別に放火とは限らないだろ。自然発火に一票〜」
俺はそんな適当にもほどがあるセリフを吐き捨てながら自室へと戻った。
そんなニュースとかなんとかは死ぬほどどうでもいい。俺の脳内は妹だけで満たされていて他の入る余地などないのだ。
七罪は相変わらず安心しきったような寝顔を見せて眠っていた。その姿を見ると思わず頬が緩んでしまう
昨晩の風呂場で自分が何を言ったのか実は覚えていない。
覚えていない、というのは少し語弊がある。
それは自分の思っていたことと口に出していたことが混合してどっちがどっちか分からないからだ。
どこまでを声に出していたか、それが分からない。
七罪に聞くことも恥ずかしさやプライドもあって
「まぁ、気にしないでいつも通りにするのが一番か……」
七罪の寝顔を見ながら俺はそう小声で呟いた。
◇◇◇
朝起きた七罪の様子はいつも通りで少し拍子抜けしてしまった。
いつも通り元気で可愛くて、そして俺の妹だった。
そんな七罪を彼女の教室に送ってから俺は自分の教室に向かった。
濃野や谷村と適当に挨拶を交わしてから自分の席へとつく。
また今日も学校という長いログインボーナスが始まってしまった。
隣に七罪がいてくれれば俺はそれでいいのにどうしてこんなに面倒なことをしなくちゃいけないんだろうか。
俺は項垂れた気持ちでバッグからノートやら何やらを机の引き出しに入れる。
………ん?
その過程で机の中に何か違和感を感じた。
俺はその違和感の正体を探るべく、手を伸ばすと厚い紙のような質感を感じ取れた。
俺はそれを机の奥からサルベージして引っ張り出す。
こ、これは……ッ!?
「………封筒?」
封筒としか形容することができないような長方形のそれを開けて中身を確認する。すると折りたたまれた紙が中から出てきたのでそれを開いてみる。
『放課後、ホームルームが終わったあとに旧校舎裏に来い♥』
いやあの......口調とハートマークがマッチしなさすぎなんですけど。あと妙に丸文字で字が可愛いのも来いっていう強めのセリフと合ってなさすぎる。
これってもしかして………いやもしかしなくても──────
…………ラブレターか?
告白のために誘い出す例のあれだろうか。いやそれか、呼び出して嘲るタイプのイタズラかもしれない。
あるとしてもその2パターンだ。それ以外の用途でこのデジタル社会にこんな手紙を机の中に忍ばせておくなんて俺には考えられない。
どっちにせよ、無視するのはあまりしたくない。俺は単純にこの手紙を出した人間がどんなやつか気になって仕方がなかった。
よく考えると、こんな変な書き方ではイタズラとは言い難い。
本当に騙すならもっと徹底して可愛くするべきだ。
もしイタズラであったとしても七罪のいる俺はもう失うものも何も無い。意に介さずにその場を去ることも容易いだろう。
本当のラブレターであった場合の方が困るかもしれない。
俺にはもう妹の七罪という愛する人がいるために人と付き合うなんてことは出来ない。
断るのもこちら側としては胸が痛む。
しかし、無視すれば呼び出したやつはそこで待ち続けることとなり、さらに辛い思いをさせるかもしれない。
それにこんな書き方をする手紙を寄越すやつの顔を拝んでもみたいしな。
くくくっ………。イタズラか本命か。どちらにせよ楽しめそうだ。
俺は手紙を丁寧に封筒に入れてからカバンに突っ込んだ。
退屈な授業はあっという間に終わりを迎えてホームルームも終わりを告げようとしていた。俺はホームルームが終わった瞬間に席を立ち部室ではなく旧校舎の裏手へと向かった。
七罪には一応用事あると伝えているし要件も直ぐに済むだろう。
俺を呼んだやつはどこにいるのだろう。
木陰にいるのか、それともイタズラなのか。どちらにせよここに人はいないようだ。
俺が来るの早すぎたか。しょうがない、一応待っとくか。
まぁ、告白とかには期待はしてないけどな!単純に相手がどんなやつか気になるだけで別に少し嬉しかったとかないからな!
と誰に言い訳をするわけでもなく心の中で叫んでいると、がさがさと頭上の木の葉が揺れて音がしたのが分かった。
俺は反射的に頭を上に向ける。
すると、黒い影のような何かが木の上から凄いスピードで音もなく地面に着地した。
そいつは地につけた手を放して立ち上がる。
そこまでの速さが人並みを外れていたので俺はワンテンポ反応が遅れてしまった。
「………なっ……!?」
俺は思わず自分の目を疑う。
上から落ちてきたのは人だった。紛れもなく人で、女の子だった。
身長は俺より低く、端正で綺麗な顔立ち、そして艶やかなポニーテールを携えている。そう、そこまで何も問題は無い。
しかし、その服装にこそ問題があった。
目の前のそいつはスクール水着しか身にまとっていなかったのだ。
胸元には『かざみ』と名前らしきものが書かれている。
水泳部なのだろうか。いや水泳部だからと言って常に水着で過ごしているわけがない。
それに何故、木の上から降りてきたんだこいつは。
こいつがあの手紙を書いたのか?
俺の頭が疑問で埋め尽くされている。
俺は目の前の光景に呆気に取られているとスク水を着た女がついに口を開く。
「───失礼します」
「………へ?」
突然、目の前からスク水女が消えた……。
いや、違う……! 後ろだ……ッ!
俺が反応することもできないようなスピードでそいつは俺の背後を取った。そして俺が振り返る前に俺の首にストンと手を下ろした。いわゆる手刀だ。
そこで俺の意識は途切れて、目の前が真っ暗になる。
…………恐ろしく速い手刀。俺は反応することすら出来なかった。
失った意識の中で俺はこんな状態だというのに七罪のことだけを考えていた。
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