第25話 WARNING!!
目の前にいる七罪は何故かいつもの女子高生の大きさになっていた。
いや、何故かじゃない。その理由は一瞬にして理解出来た。
俺が無意識に《
妹と一緒に風呂に入るという状況でだいぶ頭が追い付いてなかったらしい。
まずいまずいまずい。
俺は反射的に風呂場から出ようとして足を動かす。
しかし、俺の身体はその意思に追いつけずに翻弄されてしまう。
要するに、足をタイルで滑らしてしまったのだ。
神の悪戯か、悪魔の罠か。
俺の身体は七罪の方へと前から倒れていく。
「うわッ!」
どさっ。
「きゃっ!」
偶発的に俺が七罪に覆い被さるような状況になる。
「いてて………す、すまん七罪、大丈夫か?」
不思議と俺の口から発せられた言葉は今この状況に慌てふためいたりした煩悩に溢れた文言などではなく、七罪の身体を心配する言葉だった。
七罪の身体には傷一つ付いちゃいけない。
「は、はい、だ……大丈夫ですけど……あっ……あの、その………ぅぅ……」
「どうした、もしかしてさっきので頭打ったか?」
七罪は言葉がたじたじになって、顔も紅潮している。もしかしたら重症かもしれない。
サーっと血の気が引いてくるのが分かる。
救急車を呼ぼうと立ち上がろうとすると、七罪が口を開いた。
「じゃ、じゃなくて、その………て……」
「て?」
「手が………」
「……ん?」
意識を自然と自分の右手に持っていく。
言われて気づいたが、妙に柔らかいものに俺は触れていた。
なんだこれ。俺は無意識に視線を下げる。
そこにあったのは七罪の────
「すっ、すまん!」
俺はずっと触れっぱなしだったであろうそれから手を離して立ち上がる。
「う、うぅ………」
七罪は身体を丸めて隠すようにしていた。
「ごめん七罪、俺もう出るから」
俺はその場から逃げるように風呂場の出口へと向かう。
しかし─────
「ちょ、ちょっと待って下さい」
七罪が制止させるように俺の腕を掴んだ。
「せっかくここまで来たんですし、出るのは湯船一緒に浸かってからにしませんか……?」
……何言ってんの、この子。
もう俺は七罪のサービスでお腹いっぱいだよ……。
「『妹と湯船に浸かる』ってずっと夢に思ってたんじゃないですか?」
「確かに、そうだけど……」
振り返り、七罪の顔を見る。
その顔は今にも消えてなくなりそうな儚さを秘めていた。上目遣いのその表情は俺にただ訴えかけていた。
決してふざけて言ってるわけではないことが一眼でわかる。
「…………妹の頼みを断るなんて兄失格だよな」
「じゃ、じゃあ」
「可愛い妹のお願いだ。入ってやるか」
「やったっ」
七罪は純粋な笑顔で喜んだ。くそかわいい。
「ただし────」
俺は《
「その姿でな。あの見た目だと目のやり場に困る」
「了解ですっ」
俺は七罪の脇に手を入れて身体を持ち上げる。
「わっ」
そのまま湯船に入り、七罪から手を離す。
「ふぃ〜」
湯の気持ち良さに思わずおっさんじみた感嘆詞が漏れてしまう。
「うわぁ気持ちいいですね〜」
七罪は顔だけを湯から出すようにして浸かっていた。
その表情からは幸せオーラがだだ漏れになっている。
かわいい。
「妹と風呂に入るなんて夢みたいだ」
「ふふふ、よかったですね」
「ああ、ありがとう、七罪。俺に夢を見させてくれて」
「ふふん、もっと感謝していいんですよ」
「感謝してるよ、ほんとに。俺は救われっぱなしだ」
俺は七罪の頭を優しく撫でた。
「えへへ」
七罪は今までに見せたことのないような腑抜けた表情になる。めっちゃかわいい。
こいつってこんな顔するんだな。
俺は全然昔の七罪のことを知らない。
いや、知りたくないんだ。
七罪の過去を知れば知るほど俺とは違った存在に見えてしまうかも知れない。
七罪を妹として見れなくなってしまうかも知れない。
そんな恐怖がここ最近、俺につきまとっている。
七罪はそんな俺の気持ちを汲んでいるのか過去の話を全くと言ってしない。
七罪に救われてばっかだな、俺。
「よいしょっと」
俺が考えに浸っていると七罪が立ち上がり、俺の胸を背にするように座り込んだ。
「ちょっ、おい」
「なんですかー?」
「なんですかじゃないだろ……」
「いいじゃないですか。なんか包まれてる感があって安心するんですよ、これ。お兄さん、それとも」
七罪は俺の顔を見上げて悪戯っぽい顔をする。
「こんな小さい子、しかも妹相手に変な気持ちになってるわけじゃないですよね?」
………こいつ。俺を試してやがる。
「そ、そりゃそうだろ。俺はシスコンであってロリコンでもペドフィリアでもないからな!」
「そうですか〜ふふっ」
七罪は背中を俺の腹にぐいぐいと押し付けた。
くっくっく。この俺がこんな小さい子相手に欲情するわけがないだろう。
せいぜい俺を楽しませてくれたまえ、七罪君。
と、頭の中で余裕をぶっこいているとある疑問に辿り着いてしまった。
俺は妹が好きで幼女が好きなわけではない。
しかし、妹が幼女の場合はどうだろう。
俺はその場合だと妹を好きになれるのか。
改めて七罪を見下ろす。
艶やかな髪に触れがたいほど綺麗な肌。
「どうしたんですか? 私の顔、なんか付いてます?」
俺が望んだような可愛さを誇る顔。
どれを取っても好きだ。
好きな要素しかない。
わかった。
気づいてしまった。
俺の根底に埋まったそれに。
心の底に眠っていた、どんな姿の七罪も本当に愛せる自信に。
七罪の脇に手を入れて俺と向かい合うように移動させる。
「七罪」
「は、はい」
「好きだ」
「私も…………ってええええ!?」
今まで俺は自分に嘘をついていたのかも知れない。
俺は小さい七罪を愛せないと。
しかし、それは大きな間違いだった。
「ずっと一緒にいよう」
「あ、あのまだ心の準備が……」
「どんな姿の七罪も好きだってことに気が付いたんだ、俺」
「え、えと、私はお兄さんをロリコンさんにしてしまったのですか……?」
「違う。俺はシスコンになりきれていなかったんだ。自分で自分に嘘をついていた。小さい七罪に欲情しないってな。でもそれは大きな過ちだった」
「もともと変態だったお兄さんがド変態になっちゃいました!」
俺は“妹のいるシスコン”になる覚悟ができていなかった。
臆病の俺のままだった。逃げてばかりの俺のままだった。
シスコンってのはどんな妹も愛する奴を指す言葉だ。
そして───
「俺は今、真の意味でのシスコンになった。それと同時に七罪のことが本当に大好きになったんだ」
「ほ、ほう……」
「だから七罪、俺と結婚してくれ」
「こ、こちらこそ……?」
あ、あれ?俺どこまで口に出してたっけ……。
頭が上手く回らない。
「「……………………………………………ん?」」
お互い湯の熱さに頭をやられて変なこと言っていたことに数秒後気が付く。
その晩二人して恥ずかしさにのたうち回り、今までで一番悶々とした夜を過ごすことになった。
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