瞳の中の真実

仮面 その恋は埋もれていくもの

掌中に絶対得られない

仮面を取り外すことはもうできないからだ

重大な裏切りは

人間としては許されないのだ


階段を上りゆく

あの人の白い足のふくらみは

けっしてこの指では味わえない

しかし必ずしもこの世の中において

まったく触れる事ができないはずでもない


その狭間に生きていると思うと

妙に自分の重みが感じられない

存在はするが何か違う何かに

なってしまいそうな気がする


今日は俺の目を見てくれなかった

いや、ひょっとすると

恥ずかしくて、意識しすぎて

見る事ができなかったのだろうか


自由な会話の中に

すでに自由な時間が存在しなくなり

視線の中にしか

くつろぎがなくなった


失望を感じた

夕暮れのすきのある瞬間の

顔に浮き出た皺の深さは

尋常ではない


決して融けない雪氷が

心に乗っかかり動かないようだ

私に助けを求めている

いつもはひたすら隠していたが

今日は俺に

眼差しで伝えてしまった


今頃後悔しているに違いない

胸が張り裂けそうな背徳感を感じて

泣いているに違いない


もうすぐ枯れてしまう

小枝よ

永遠に生を失うかも知れない

小動物よ


残るは瞳だけになってしまった

信ずるはその瞳

あと60億年



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

詩集 『仮面』 (迷路にうごめく小動物の叫び) 阿達 萬 @mu-minn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る