この惑星に棲む魔女の名は

火山たん

序章

始原の惑星

原初の太古。宙に浮かぶ土と金属と僅かな水との塊に「地球」という名が与えられる前のこと。


星々が集う銀河の端で、水素とヘリウムと、その他の元素とが塊を成し、密度を高めつつあった。

それらは互いの重力によって引かれあい、重なりあい、暗く濃い霧のように見えた。

密度が圧力に変わり、圧力が熱をもたらす。原子と原子とが近づき、これ以上ない圧縮が暗い霧に満ちた時、2つの原子が1つになった。

原子核融合の始まり。恒星の誕生。こうして、光があった。


この、ごく平凡な恒星は、持っていた物質の量により、生まれた瞬間に寿命が100億年と定められた。その名前を「太陽」と言う。

恒星に取り込まれなかった物質は、重力によって集い、最終的には10ほどの土と金属とガスとの塊になった。「惑星」の始原である。


惑星の中でも、土と金属が多いものは、集う時の圧力により全体が焼けただれ、灼熱の球体となる。内部のみならず、表層までもがマグマで覆われた。

しばらく時が経ち、溶けていた星の表面が冷え固まると、熱は外への逃げ場を探す。冷えた岩盤に穴を穿ち、自らと共にガスと赤熱した土塊を噴き上げた。

ガスは軽く、重量を振り切って、星と星との間に広がる闇へと逃げた。

土は重く、見えざる束縛により地へと落ち、穴の周りに盛り上がった地形を作った。


このようなことが数千回ほど続くと、穴は広くなり、土塊は積もり、周りから高さによって隔てられた。その形は綺麗な円錐であった。


この惑星で初めての、山の誕生である。


昼は穴から吐く煙と雲の柱によって太陽を隠し、夜は穴から放つ火と硫黄の光で星々を赤く染めた。

山は火を吐き、大きくなり、しばしば雨によって削られ、時には崩れ、再び育ち、火が衰え、やがて死んでいった。

火を吐く山は星々の数ほど生まれ、星々より輝き、星々より早く消えていく。


そのような存在が生まれては消え、また生まれて、46億年ほどが過ぎた。


火を吐く山の下には、様々な生命体が集まっていた。その中に、人間という種が居た。

人間は「それ」を見て、呻き慄き畏れ崇め、恩恵を受けるために近づき、災厄から逃れるために離れ、登って何か自分たちとは異なる「存在」を感じ、降りて山を眺め、また登った。


平穏の大海。その隅に浮かぶ島々に住む人間は、火を吐く山をいつしか「火山」と呼ぶようになった。


これはある物語。

人間と火山の、出会いと別れ。繁栄と滅亡の狭間を進むための道しるべ。

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