ボクと狐ちゃんのキャンパス巡り9
博物館の中に入ると右手に受付の小さな窓があり、『お昼休み。ご自由にお入りください』と書かれた紙が置いてあった。
昼時はお昼休みなのか、と思いながら、クーちゃんと二人で奥に進む。
特に順路なども書いておらず、左手に上に上がる階段が、正面には展示室らしき扉があったのだが……
「二階、展示物入れ替え中、だって」
「残念だったね。4月15日からだって」
二階へ続く階段の前には看板が立っており、ロープが張ってあった。再来週からやる展示はある偉い人のコレクションを展示すると書いてあったが、どんな人だか知らない人だった。大学に関係の深い人なのだろうか。
なんにしろ入れないなら仕方ない。一階の展示室を覗いてみよう。
クーちゃんと二人、『常設展示室』と書かれた正面の扉を開けて展示室に入る。それなりの広さのある展示室には、真ん中にソファが置かれていた。壁のガラス張りの展示スペースには、絵やら壺やらがおいてある。全部で20点もないだろう。
「……なんか思っていたのと違う」
「そうだねぇ」
クーちゃんが不満そうにしている。きっと恐竜の化石とかをイメージしていたのだろう。その想定からすると、絵やら壺やらよくわからない雑貨やらは興味の範囲外だったのだろう。耳が露骨にへたってしょんぼりしている。
「ひとまず、一つずつ見ていってみようよ」
「むー」
「ほら、膨れてないで」
「ぷひゅー」
膨らんでいたクーちゃんの頬っぺたを指でつつくと変な音をさせてしぼんだ。ぷにぷにの柔らかい頬っぺただ。よく考えたら女の子の顔なんて初めて触ったなーとかどうでもいいことを思いながら、クーちゃんの両肩に後ろから手を置き、そのまま最初の展示の前にまで進んでいった。誰もいないからある程度騒いでも誰も文句を言わなさそうなのは助かった。
「まずはこの絵かな」
「黄色い絵だね。何の絵だろう」
「えっと、しるくろーど?」
「シルクロードの絵なのかなぁ」
下に置いてある解説文に、題名『シルクロード』と書かれていた。
ただ、絵自体は一面黄色なのか金色なのか塗られている中に、黒い線が縦横無尽に引かれているもので、何が描かれているのか全く分からない。
「これのどこがシルクロードなの?」
「砂漠っぽいところ?」
「黄色いもんねー」
「黄色いよねー」
二人してアホっぽい感想しか出てこない。風景画とか、人物画ならもう少し違う感想が出てきたのかもしれないが、よくわからないんだからしょうがない。
「シルクロードって黄色いのかな」
「どうなんだろうね」
「というかシルクロードってどの辺?」
「中国とヨーロッパの間でしょう」
「受験でやったねぇ」
「やったねぇ」
なんかすごい知力が低い会話をしている気がする。
「でもそれってユーラシア大陸横断じゃない」
「だねぇ」
「じゃあどのへんなの?」
「わかんないねぇ」
「ショウちゃんもわかんないかー」
「わかんないねぇ」
解説文には具体的にシルクロードのどこか、といった情報は書かれておらず、知らない画家さんの情報が書かれていた。つまり、さっぱりなんだかわからない絵だった。
「次行こうか」
「そうだねー」
知力がすごい落ちたまま、ボクたちは次の展示物の前に移動した。
次の展示物は壺だった。かなり大きい。高さ1m近くあるんじゃないかっていうぐらい大きな壺だった。
「壺だね」
「壺だね」
「高そうだね」
「そうだね」
「後青いね」
「青いね」
薄い青色の大きな壺だった。それ以上の評価がまるでできない。かっこいい竜の模様があったり、変わった形を居ていたりすれば、もう少し話を膨らませられるのかもしれないが、薄い青色一色で、形も壺っぽい壺だった。
それ以上に何とも表現しがたく、すでに解説文を読む気すらなかった。
「つぎいこうか」
「そうだね」
ボクたちはすごすごと次の展示物へと向かった。
結局一通り回ったが、どれもこれもまるで興味が湧かないものであった。
ボクとクーちゃんは、二人でソファに隣に座った。
そういえばこういうソファでクーちゃんの尻尾ってどうするんだろうと思ってみていると、ソファの背もたれと座面の間に沿って置かれた。隣に座るということは、ここに寄りかかることになるけどいいんだろうか、と思いながら特に何も言わないし、遠くに座るのも何なので尻尾に寄りかかるように座ると、尻尾がボクの腰に巻き付いてきた。もふかった。
「なんというか、期待外れだったね。もっと恐竜の化石とか、アンモナイトとかあると思ったのに」
「そうだね、美術館と博物館の間みたいな感じだし、正直いまいちだったね」
「でも静かでいいね。人も来ないし」
「休むならいいかもね」
尻尾をなでなでしながらぼーっと周囲を眺めていると、展示室に入ってきたのと別の扉があることに気付いた。スタッフさん用とかの入り口だろうかとも思うのだが、立ち入り禁止とか何も書いてないし、入口と同じ扉だから、もしかして奥があるのではなかろうか。
「クーちゃん、奥にもまだあるのかもよ」
「奥に何かあったとしても…… 似たような物しかなさそうじゃない」
「たしかに」
正直微妙だった展示がさらに続いても、微妙感が増すばかりだ。どうしようかなーと尻尾をなでながら考える。
「ひとまず奥まで見て、つまらなかったら帰らない?」
「そうだね。ひとまず奥に行ってみようか」
立ち上がるクーちゃん。尻尾はクーちゃんにくっついて腰からシュルシュルと離れていった。ちょっと残念だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます