ボクと狐ちゃんのキャンパス巡り3

鍋を火にかけたまま放置していることに気付き、慌ててキッチンに戻る。中を覗くとまだ焦げてはいないようだったので、慌てて冷蔵庫から取り出した牛乳を鍋に注ぐ。ティスプーンで掬って味見するとイイ感じのミルクティになっていた。前に焦がしたときは、すごく苦くて残念な感じになったが、今回は味見する限りセーフだった。

そのままキッチンでお茶の様子を見ているとクーちゃんが何をしでかすかわからないので、急いで部屋に戻りパソコンの置いてある机の前の椅子にクーちゃんを座らせる。

スリープ状態になっていたパソコンのスイッチを押して、パソコンを起動させた。


「ひとまずパソコンの電源は入れたから、変なものいじらないでね」

「ショウちゃんの下着、黒なんだね」

「てりゃー!!」

「ぬわー!!!」


部屋を見回していたクーちゃんの爆弾発言に思わずその顔面にシラバスを押し付けてしまった。さっきまでの尻尾の攻防はまるで堪えていないようだ。


「なにみてんのさ!!」

「いまのショウちゃんの下着もなの黒かな」

「ズボンの中覗かないでよ!!!」


今はいているのは裾に余裕のあるショートパンツだ。クーちゃんはボクのショートパンツの裾をめくってのぞき込んできた。驚きで思わず膝が出そうになり、慌てて思いとどまる。クーちゃんの顔面に膝蹴りなんかしたら絶対一大事だ。


「見えた、やっぱり黒だ! ショウちゃんのエッチ!!」

「エッチなのはクーちゃんだからね!?」

「だって、そんなあだるてぃな下着きていたらエッチじゃない」

「よくみてよ! ユニクロだよこれ!?」


干していた下着をクーちゃんに突き付けようとしたところで我に返る。何やっているんだ自分は。ニコニコしているクーちゃんに、からかわれていることに気付き、深呼吸して冷静になる。ちなみに黒なのは、色味がついている服が苦手だからだ。だからボクの買う服は大体黒か白になってしまう。下着は白だと汚れが目立ちそうなので、昔から黒一択だった。


「もう、お茶入れてくるから! あとの手続きは自分でやってね!!」

「はーい」


結局捨て台詞しか吐くことができず、またいつか、あの尻尾をいじめてやると内心誓いながら、ボクは台所へ逃げ出した。






どうせクーちゃんは甘党だろうと考えて、はちみつもたっぷり入れたミルクティにして、用意した2つのマグカップにそそぐ。猫さん柄が入った、ボクのお気に入りのペアマグカップだ。いつも自分で2つを交互に使っているので、二つとも一度に使うのは初めてな気がする。

紅茶を注いだ後、ボクのマグカップにはスパイスを振り入れていく。シナモンやジンジャー、胡椒などの瓶を順々にとって振りかけていく。スパイスティさすがに癖があるので、クーちゃんの方にはスパイスは入れていない。本当は煮だしたほうがいいらしいし、普段は最初から入れているのだが、そうすると全部スパイスティになってしまうので、今回は後入れだ。

部屋に戻ると、クーちゃんはパソコンを操作しながら既に登録サイトにログインしていた。マウスを動かす様子やキーボードを打つ様子は案外堂に入っていた。

キーボード横にマグカップを二つ置く。


「パソコン使えるんだね。スマホさっぱりだったけど」

「家だとパソコンばかりだからね。スマホは苦手なんだ」

「ボクもスマホ苦手。タッチパネルとフリック操作が全然慣れない」

「フリック操作ってあの十字に文字が出てくるあれ? 私も全然できないや」

「やってると指が震えてくるんだよねぇ」


そんな雑談をしながらも画面はどんどん切り替わり、無事登録画面にたどり着く。ボクがパスワードとIDをメモした紙以外、資料なにもみていないようだ。それでそこまで進めるのだから、クーちゃん結構直感的に操作するタイプらしい。

これなら大丈夫か、と思い、机の横にあるベッドに座りながら紅茶を飲む。胡椒やジンジャーが入っているが、案外辛くないので不思議なものである。ただ、体が非常に温まる。体によさそうな味であり、ボクの好みであった。


「ショウちゃんって、講座何とったの?」

「シラバスに付箋が張ってあって丸が書いてある奴だよ。これとこれ、あとこれだね」


1年前期に必修以外でとれる科目数はたかが知れている。

ボクは自分の好みでとった民俗学と日本史、あと日本文学の授業をページをめくってクーちゃんに見せる。先輩がいれば、単位がとりやすい講座がどれか、なんてことも聞くことができたのかもしれないが、そんな伝手はなかったので好きなのをとろうと思って選んだものだった。


「ふーん、じゃあ私も同じのにしよ」

「好みでとったやつだから、単位簡単かわからないよ」

「大丈夫大丈夫。同じ授業出られるねー」


クーちゃんは嬉しそうに尻尾を振りながら、ぺこぺことキーボードで操作をしている。一人で受けると盛だったが、知り合いがいれば確かに心強いかもしれない。


「そういえば必修はどんな感じだったのクーちゃん」

「第二外国語は中国語取ったよ」

「ボクはドイツ語だから一緒じゃないね」

「なんでドイツ語にしたの?」

「かっこいいから」

「ドイツ語にするとなんでもかっこよくなる法則あるよね」

「必殺技の名前とか決め台詞とかドイツ語だとかっこよさそう」

「あるの? 必殺技」

「ないけどもしもの時のため。どの言語も将来あんまり使わなさそうだし」


英語以外の言葉を使うシチュエーションというがいまいち思い浮かばない。なのでどれを選ぶか迷った末、かっこいいという程度の基準でドイツ語を選んだだけである。


「クーちゃんはどうして中国語?」

「漢字だし簡単かなーって思って」

「確かに読むことはできそう」

「ドイツ語は読めなさそうだよね」

「そんなこと言われるとなんか急に心配になってきたんだけど」

「ダメだったら中国語一緒に勉強しよう」

「単位取れなくて卒業できなくなっちゃうじゃない」


そんな雑談をしている間に、クーちゃんの科目登録手続きは無事終わったようだ。最後に登録完了の紙を印刷したようで、ガシャン、ガシャンという音がしてプリンターから紙が一枚出てきた。

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