ボクと狐ちゃんのキャンパス巡り2
IDとパスワードが分かったし、登録手続きをするかと思ったのだが、この場作業をするには足りないものがあることに気付く。
一つは、登録するための機器だ。スマホでも登録できると聞いているが、そもそもボクはスマホが非常に苦手だ。クーちゃんは昨日の花見の様子を見る限り、スマホどころか機械全般苦手そうである。ここにあるスマホで作業するのはいろいろ苦戦しそうである。
もう一つ、シラバスがない。あれに講座の内容がいろいろ書いてあるのだ。一応インターネット上にも掲載されているが、画面で見るのは非常に見づらい上、クーちゃんは画面で見る方式になれてなさそうだ。やはり紙のシラバスが欲しい。
そこら中走り回って、いろいろすれば両方とも解決するかもしれないが…… 手っ取り早く確実な解決方法は一つである。自宅に呼ぼう。
「クーちゃん、うちくる?」
「ふえ?」
「シラバスとかないし、うちに来ればパソコンあるから登録作業楽だと思うんだよね」
「いいの?」
「クーちゃんが嫌でなければ」
「いくー!!」
今泣いた烏がもう笑う、というべきか。さっきまでしょんぼりしていたクーちゃんは機嫌をよくしたようだ。ボクの家に来ても大したものはないんだけどなぁ。変に期待されていないか若干心配になってきた。
「歩いて5分ぐらいだから、ついてきて」
「ショウちゃんのおうち♪ ショウちゃんのおうち♪」
猫ちゃんを膝からベンチに降ろし立ち上がる。猫ちゃんは興味なさそうに桜を眺めていたが、尻尾がぺちぺちと動きバイバイ、とアピールしているように見えた。
そのまま資料をカバンにしまい、すごくうれしそうなクーちゃんを連れて自宅へ戻ることになった。
なお、一人で歩けば片道5分前後の距離だがクーちゃんのスローな徒歩にあわせて移動したら10分以上かかった。すごくゆっくりしていた。
ボクの自宅は、女性向きのアパートだ。オートロックがしっかりしており、セキュリティがちゃんとしているのが売りというところである。オートロックを開け、1階にある自分の部屋へいく。1階はセキュリティ的にあまり良くないと聞くが、ボクは1階主義者なのである。2階以上だと、下の人が気になってくつろげない気がする。
そのまま玄関前の金属柵を開けて、玄関の鍵を開けて、クーちゃんを部屋に通す。
「椅子、一つしかないからベッドにでも腰かけて。あんまり片付いてないけど許してね」
「えー、私の部屋よりきれいだよ」
人を招くことは考えていなかったため散らかりっぱなしだ。具体的には洗濯物が室内に干しっぱなしである。外に干すと盗まれるという話も聞いたことがあるので、服はすべて洗濯機についている機能で温風乾燥をした後、室内干しをしている。下着まで干しているので、女同士とはいえ少し恥ずかしくなるとともに、これ以上散らかっているクーちゃんお部屋は一体どんな状況なのか、ちょっと気になった。
「ひとまず飲み物入れてくるから。紅茶でいい?」
「ミルクティーがいいな」
「わかった。ちょっと待ってね」
どうせだから濃いミルクティーを入れよう。ミルク鍋にカップ1杯分の水と、ティースプーン6杯の紅茶の葉を入れて火にかける。ぐつぐつ言うまで5分ぐらい煮たら、ミルクを入れて沸騰しないように温めると完成する、チャイという飲み物だ。
鍋を置いたコンロに火をつけて、5分砂時計を持ちながらキッチンから戻ると、クーちゃんはボクのベッドでうつぶせになっていた。
「ショウちゃんの匂いがする」
尻尾を激しく振りながら、ボクの枕に顔をうずめるクーちゃんは、さながら変態であった。
人の家で何をしているの!? ともおもったが、このままやられっぱなしも悔しい。きっと真っ赤になって怒ってもクーちゃんには堪えないだろう。むしろ喜ぶかもしれない。なので、ちょっといたずら心がと好奇心が湧いたのもあり、反撃してやることにする。
「えっ!? ショウちゃん!?」
砂時計を机に置いて、ベッドに寝転がるクーちゃんの腰の上にまたがる。お尻の方を向いてまたがったので、ブンブン横に揺れる尻尾がよく見えた。尻尾の付け根を見ると、袴に尻尾を出す穴が開いていて、その上から布がかぶせてあるつくりになっていた。お尻が見えないように、尻尾を出せるようにそうなっているのだろう。尻尾を出せる専用の袴があるのにちょっと感心した。
なんにしろ反撃である。ボクはクーちゃんのもふもふの尻尾の真ん中をつかむと、そのまま顔をうずめた。
「ショウちゃんっ!? ひゃあああ!?」
本当に毛が柔らかくてもふっもふっの尻尾であった。野良猫だと、よくゴワゴワしているが、手入れがよくされているよう本当にふわふわであった。石鹸のモノらしき甘い匂いと、手入れをしても隠し切れない獣臭さが混じった良いにおいがする。なめした毛皮と違い生暖かく、本物の尻尾なんだなぁと変に感心した。
「ショウちゃんっ!」
「ボクの枕にしたのと、同じことをしてやる」
あまりのモフモフさに我を忘れて尻尾を撫でまわしながら顔をうずめ続ける。
天然の狐の毛皮、生ものでしかもちゃんと手入れがされている極上品である。これ以上のモフモフはまず存在しないだろうと謎の確信をして、頬を尻尾に押し付ける。
クーちゃんはいろいろ声をあげているが、騒いでもここは防音がしっかりしたアパートだし、周りに音は漏れない、とかいう性犯罪者っぽい発想が頭に浮かんだ。
「ううううう、恥ずかしい……」
「クーちゃんが枕に変なことしている時も、ボクは同じように恥ずかしかったんだけど」
「ううううう、ごめんなしゃい」
クーちゃんが謝るので、さすがに尻尾から手を放す。「ふえええ」と謎の声をあげてひっくり返ったクーちゃんは、息を弾ませ頬を紅潮させていた。謎の達成感と満足感とともに我に返った時には砂時計の砂はとっくに落ち切っていた。
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