瑞原大学物語 ~ボクと狐ちゃんのほのぼのキャンパス生活~

みやび

入学式と新歓活動とお花見 1

瑞原大学の入学式は4月1日であった。

一浪した後に第一志望で入れた有名大学なので入学できて感無量…… なんて感慨も残念ながら湧いてこなかった。

ただ、入学式にはちゃんと参加しよう、そう思い、この日のために買った女性用のジャケットとズボンを着て、初めて履くローヒールのパンプスを履いて家を出る。どこでこういったちゃんとした服をそろえたらいいのか全く分からず右往左往した挙句、結局近くのスーパーの婦人服売り場でなんとなく購入してそろえたものだ。若干安っぽいが、ちゃんとした正装には見えるだろう。そう自分で自分に言い訳をして、大学へと向かった。



春の日和は温かく、桜がそこかしこで満開になっていた。道途中にあった公園では場所取りなのか、ビニールシートが大量に広げられていて、人がまばらにしかいなかったが、一部の人は朝なのにお酒を飲んでいた。ずいぶん楽しそうである。そんな風景を尻目にボクは大学講堂へと向かった。

そのまま入学式の会場にある大学講堂に到着する。薄い茶色のシックな見た目だが、高さは非常に高い。2,30mぐらいある時計台がついた立派な講堂である。その時計台からは、ボクの到着と同時に鐘の音が聞こえた。時計台の時計を見るとちょうど9時らしい。時間にあわせて鐘が鳴ったのだろう入学式は10時からだから、1時間早く着いてしまったようだ。

講堂前の広場にいる人はまばらだが、全く誰もいないわけではなかった。親と思しき年配の人と一緒の人や、友達と一緒に集団行動している人がそこかしこにいた。

広場の周りには桜が咲き誇っていて、吹いた風でひらひらと桜吹雪が舞っていた。

講堂の前でボーっとしているのも何なので、中に入り、空いていた一番後ろの端っこに座った。座ったがやはり暇であった。続々と新入生が入ってくる。その人の流れをただただ、ぼんやり眺めているだけであった。

周りを見回すと、友達と仲良さそうに話している人や、きりっと新生活に期待を膨らませて座っている人ばかりである。観覧席にいるのだろう親に手を振る人や、偶然隣に座った人に話しかける剛の者もいる。ボクはそのうちのどれにもなれず、一人ボケーっとしているしかなかった。今日に限って本を持ってこなかったのを少し後悔した。


少し待っていると、アナウンスが流れはじめ、入学式が始まった。お偉いさんの挨拶が続いていく。あくびを噛み殺しながらボケーっと聞いているものだから、頭にも入らずに時間ばかりが流れる。周りをうかがうと、暗くてよくわからなかったが、皆真面目に話を聞いているような気がする。そんな中、急に学ランを着た人が舞台に上がり、校歌斉唱が始まった。校歌の歌詞は入口でもらったパンフレットに歌詞が書いてあった。声を張り上げて大きく歌う人、恥ずかしそうに小さく歌う人、本当に様々な人がいる。一応周りの人にあわせて立ち上がるも、周りにあわせて歌う気もなれず、みんな楽しそうだなと思いながら一曲の間、ずっと立っていた。

1時間もかからずに無事入学式は終わった。


入学式が終わっても特に感慨も沸かずにさっさと講堂の外に出る。周りでは、入学式が終わった人たちが集まって、やれ昼ご飯はどうする、サークルはどうするなんて話を楽しそうにしていた。親とか同じ高校とか、同じ予備校とか、そういった知り合い同士で固まっているのだろうか。ボクはそんな相手もいなかったので、特に話をする相手もいなかった。これだけ人がいても、いや、人がいるからこそかもしれないが、ボクは一人だった。


この後何かやる予定もない。人が多くて酔いそうだしひとまず家に帰ろうか、なんてことも考えながら、大学構内のほうを見ると、いろんな人たちがひっきりなしに行き来しているのが見えた。サークル勧誘をする在学生と、サークルに加入しようとする新入生たちの合わさった人の群れである。まるでお祭りのような人ごみであった。

家に帰って、お昼ご飯にパスタでも茹でて、適当に食べてから本でも読んでよう、なんていつも通りの予定を頭の中で立てていたボクは、少し考える。

他人は苦手だ。特に髪の色が今の色になってから、不躾な目で見てくる人が非常に増えた。あの、好奇心だけでなく、猜疑心が混じりながら女としての値踏みをしてくる目が非常に苦手だった。今すれ違う人の中にも、そういった目で見て、ひそひそと話している人がいるような、そんな気がする。おそらく自意識過剰なだけなのだが、そういう気が一度すると精神が削り取られるような気がするのだ。だから、知らない人の群れというのは非常に苦手だった。

しかし、今日このまま帰ってしまったら、ボクはずっと一人なのではないだろうか。もともと一人だったのだから、寂しいわけではないのだが、ずっと一人というのが本当にいいのか少し不安になった。せっかくの大学生生活だ。今日一日ぐらい人に酔うのも我慢して、サークルの勧誘を受けたほうがいいのではないか。そんな思いが頭をよぎる。

一瞬悩んだが、もしいやなことがあったら、それこそすぐに家に帰ってご飯を食べて本を読んでいよう。そう思って、ボクは入学式の会場の講堂から、正門をくぐり大学の構内に足を踏み入れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る