第23話 リハーサル開始!

 昼休みが終わり、再び大木の前に浮かぶ世界珠の前に集められるエキストラ達。


『カップルの方達にはリクエストどおりのお子さんのゴーレムを用意しておきました』


 三歳から十歳ぐらいの男女の子供が現ると、カップルのエキストラの元へ走っていった。


『では村人らしく【変化】のスキルを掛けましょう。皆様の【変身】、【変化】に上書きするだけですから、ロケが終われば【解術】されますので安心して下さい。あ、特に必要のない方はそのままです』


 光に包まれるエキストラ達。やっぱりというか、ゴンベーはそのままだった。


「では私も【変声チェンジボイス】のスキルでおじいさんの声にいたしましょう」


 ウサギ頭から白髪白ひげの男性村長に変化した村長は、自身ののどにスキルを掛けた。

「あ~あ~。こんなもんですかのう」

 婦人の声から、しゃがれた老人の声へと変わっていた。

(おお! すげぇ! スキルって便利なんだな)


『さすがに名前なしはまずいですので、私が適当に名前を付けておきました。お気に召さなかったら訂正します』


 ゴンベーは自分の履歴書を確認する。

(俺は『ゴン』か。ゴンベーだから別にいいか……ん?)

 疑問に思ったゴンベーは世界珠に質問する。

「あの~。他の人の名前を知りたい時はどうするんすか?」


『ああ、アナタ新米のゴンさんですね。履歴書の端の『検索』を押すと、目の前に丸い円が現れます。知りたい物をその円の中に収めると名前とかの情報が出てきます。これは物にも有効ですから、本番中ゴンさんは円を表示させたまま演じることをお勧めしますよ。この円や情報は主人公さんからは見えませんです』


「わかりました」

 ゴンベーは検索の円を出現させ他のエキストラをターゲットに収めると名前が現れた。

(村長さんは『村長』なんだな)


『それでは軽く日常のリハーサルを行いましょう。張り切って体をこわさないようにして下さいね』


 ゴンベーは家畜小屋へ戻り、立てかけてあったクワを手にするが

「そういえばこの恐竜を使って畑を耕すとか言ってたな。お~い、起きろ! 仕事だぞ」

 しかし恐竜は眠ったままだった。

「起きろってんだよ~」

 仕方なしにゴンベーは両手や肩で一生懸命押すがビクともしなかった。


「はぁ~はぁ~。どうすりゃいいんだ」

 早くも疲れたゴンベーは恐竜にもたれかかって息を荒くする。


「はっはっは! ゴンさん、手こずってますね」

 家畜小屋に現れたのは壮年の男性と若い男性だった。


「え~と、《ザムさん》と《ジルさん》ですか。このゴーレム、壊れているンっすかね?」

「これは【御者:恐竜】のスキルがないと操れないんですよ」

 ザムとジルは光った手で恐竜の鼻の辺りをポンポンと叩くと、恐竜たちはムクッと起きあがった。


「ほえ~! このスキルはエキストラエリアにある学校で取ったんですか?」

「そうです。こういったスキルがあるといろいろな役ができますからね」


 ザムとジルは壁に掛かっている鞍やあぶみ、手綱を恐竜に取り付ける。


「は~。仕事やオーディションのことばかり考えていたけど、今度学校をのぞいてみようかな~」


 畑では広い場所は恐竜が巨大な馬鍬まぐわを引き、狭いところは人の手で耕していた。

 ゴンベーもクワを手に取り大きく振りかぶる。


(へっへっ! こちとら伊達に農民のエキストラをやっていないぜ)


 ゴンベーが勢いよくクワを振り下ろして荒れ地を耕すも、すぐに元の荒れ地に戻っていた。


「なんだこの! この! この野郎!」

「はっはっはっ! ゴンさん、無駄ですよ。リハーサル中は永遠に畑を耕せませんから」


 水上スキーのように馬鍬の上に乗るザムの後ろの土も、耕すそばから元に戻っていた。


「なんかあっちの方が楽そうだな。小型特殊免許のつもりでスキルの学校を本気で考えてみよう」


 やがて日も沈み始めると、世界珠の声が辺り一帯に届けられる。

『本日はお疲れ様でした。夕食を準備してあります。あとは就寝まで自由行動です』

「ふぅ~やれやれだぜ」

 ゴンベーは曲がった腰をゆっくりと伸ばした。 


『本番でも夜は自由行動にしますので、今のうちに何をやるか考えておいてください。なお村の外に出たり、この世界にふさわしくない物で遊ばれた場合は注意、または一時的に没取しますのでご了承下さい』


「元々何も持ってこなかったからいいか。てか腹減った~」


 飼育小屋に戻ると、ゴンベーは鞍や鐙を取り外すのを手伝う。

 ザムとジルが再び光った手で恐竜の鼻の辺りをポンポンと叩くと、恐竜は足を曲げ再び眠りについた。

「ではゴンさん、お疲れ様でした」

「お疲れ様っした!」


 疲労と空腹でフラフラのゴンベーはすぐさまテーブルへと向かう。

「晩飯は何かなぁ~おお! これは!」

 テーブルの上に鎮座するは、うるしの桶に入った上寿司であった。

「うひゃ~。回っていない寿司なんて何年ぶりだ! いっただきまぁ~す! ……くぅ~シャリとネタとワサビの絶妙のハ~モニ~!」


 ふとゴンベーは思う。

(そういえばこれって誰が作っているんだろ。まさか……世界珠?)

 世界珠から腕が伸びて寿司を握っている姿を想像する。


”そのとおりですよ。いかがですか? 私が握った寿司は?”


 ゴンベーの心に届けられたのは世界珠の声だった。

 ”ゴホッゴホ!”と咳き込むゴンベー。


”これは失礼、驚かせてしまいましたね。安心して下さい。ギルドのお店からの出前ですから”

「え? なんだ? どこから聞こえているんだ?」


”ゴンさんは新米ですから、【飛声フライボイス】のスキルのテストもかねて話しかけています。本番中に私に聞きたいことがあれば、今のように私に向かって念じて下さい。もちろん主人公さんを始め、他の方へは話している内容は聞かれません”


(え~と、こういう風ですか?)

”そうですそうです。大丈夫そうですね。ではまた何かありましたら遠慮なく申し出て下さい。お食事中失礼しました”


 特にやることのないゴンベーは腹のふくれと心地よい疲れからか、瞬く間に大いびきをかいていた。


 次の日も同じように畑を耕していたが、時々、一人二人と村の方へ行き、また戻ってきた。

 ザムとジルも恐竜を連れ立って村へ帰っていき、しばらくしたら戻ってきた。


「ザムさん、ジルさん、どうしました?」

「ああ、個別の演技指導です。例えば主人公さんが恐竜の乗りたいと言ってきた場合どうするかとか」

「へぇ~」


「何せ主人公さんはワナビー神や世界珠さんの思惑どおりに動いてくれない時もありますからね」

「大変ですね」


 ふとゴンベーは動物物の映画を思い出した。


「大抵はパートナー役やヒロイン役のベテランエキストラさんがコントロールしてくれますが、それでも予期できる行動はすべて対応する必要がありますからね。今回は銀等級のスーパースターさんが手綱を取ってくれますが、それでもどうなる事やら……」


 昼食後、大木の近くに集められるエキストラ達。


『日常生活はこれぐらいでよろしいでしょう。ではこのシーンの山場について説明とリハーサルを行います』


 ”ゴクリ!”とゴンベーは喉を鳴らした。 


『すでにお気づきの方もいらっしゃいますが、あなたたち村人はあるモンスターに苦しめられています。ちなみに、モンスター役のお三方も一応それに含まれますが、このシーンではすでに主人公さんに倒されています』


(やっぱり、あの怪しい沼か……)


『今からそのモンスターに苦しめられる演技と』

(ふむふむ)


『そのモンスターをあっという間に倒した主人公さんを』

(まぁ、当たり前だな)


たたえ、あがたてまつる演技の練習を致します!』


(はぁ……はぁ? はあぁぁぁぁぁ!?)

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