第21話 配役決定!

 ”村長”は慌てて階段を下りながら適当なところで腰を下ろした。


「お隣の奥さんとつい話が弾んじゃってね~。まだオーディションは続いていますよね?」


『はい、今から村長役を決めるところですが、まぁ、一応決まり事ですので』

 世界珠は光の球を飛ばすと、手を上げているウサギ頭の婦人の頭上へと集まった。

『では村長役は決まりですね』


「すげ~一発かよ」

 皆と一緒に拍手しながらゴンベーは眼を見開いて驚いた。


 婦人は立ち上がり、

『よろしくお願いします』

と言いながら四方にお辞儀をした。


『では最後に村人役です』


 ”ゴクリ!”とエキストラの間で緊張が走る。

 モンスター役、そして村長が決まった今、会場に残っているのは十六、七名ほど。

 募集要項では十数名ほどと書いてあった為、数人はあぶれる計算になる。

 それがわかるゴンベーも、全身から緊張の汗をにじみ出していた。


『カップルの方は一つの家に住んでもらうとしても、家が足りなくてお一人余るんですよね。え~っとそこのアナタ』


 世界珠から赤い光がレーザーのように伸び、それがゴンベーの胸元を照らしていた。


「おれ……私?」

『アナタ、オーディションは初めてのようですし……』

 ”ダメか……”とゴンベーは心の中で落胆する。


『せっかく来て頂きましたので、村長の下働きの男役でよければ何とか役を創れますが、いかがですか?』

「え?」


 確認するようにゴンベーはマネージャーへ顔を向けると、マネージャーは微笑みながらうなずいた。


「や、やりま~す! やらせて下さい!」

 バンザイするように両手を上げるゴンベーに、世界珠もびっくりする。


『よ、よろしいのですか? 家ではなく家畜小屋で寝泊まりする羽目になりますが? まぁ家畜はすべてゴーレムですから、匂いやフンはしませんけどね。あ、食事は皆さんと同じモノがちゃんと出ますので安心して下さい』


「はい! 大丈夫です!」

 今度は立ち上がってバンザイする。


『ではこれで村人役は決まりですね。世界珠としてもせっかく来て頂いた皆様に役を差し上げられるのが何よりの喜びです。では詳しいことは後ほどマネージャーさんを通じてお知らせ致します。ダブルブッキングだけはお気をつけ下さい。本日はお疲れ様でした』


 オーディション会場を拍手が満たす。

 ゴンベーはさっそく村長役の婦人の元へ走っていった。


「よろしくお願いします!」

「あっら~貴方新米さんね。そんな堅苦しくしなくても大丈夫よ。ロケ中は世界珠さんや私の指示に従えばいいし、多少のことはフォローできるからぁ」

「はい、ありがとうございます」

「ではロケ現場で会いましょうね」

「お疲れさまっした!」

 ゴンベーは婦人が光のドアをくぐるまでお辞儀をした。


「お疲れ様ゴンベー」

「ははは……役が決まっちまったい」

 緊張が解けたからか、ゴンベーはマネージャーに向けて力のない笑顔を向けた。


 ゴンベーは早速『串カツ』ののれんをくぐり、屋台の親父に報告する。

「ほほう、役が決まったかぁ。よかったなぁにいさん!」

「ま、まぁ、お情けで役をもらったようなものですから、あまり威張れませんけど……」


「なぁに、誰でも最初はそんなモンさ。セックスシンボルの大女優、《マンロー・モリリン》だって、最初は『ハロー』しか台詞がなかったんだぜ」


 皿の上に盛られた串カツや串に刺したウィンナーやイカ下足げそをほおばりながらゴンベーは親父に尋ねた。


「親父さん、ウチらは転移したエキストラだけどさ、主人公さんは転生したんだろ? 何か気をつけることはないかな?」


「そうだなぁ……あまり主人公さんへ近づいたり話しかけたりして出しゃばるなって事だ。何せあちらさんはこの異世界ディファールドを現実だと思っているからな」


「それがいまいちピンと来ないんだなぁ。なんか、《どっきりテレビ》みたいでさぁ……」


「ふぁふぁりふひゃくはんふぁえなひほーはひーふぁよ(あまり深く考えない方がいいわよ)

 串カツを三本まとめてかぶりついているマネージャーが、アドバイスにならないアドバイスをする。


「だから食うかしゃべるかどっちかにしろよな!」


「まぁベテランの村長役の人がいるんだろ? その人や周りのエキストラに合わせた演技をすればいいさ。それににいさんの役は下働きの男役。ファンタジーでそういう役は多少オツムの足りない演技をしなければならないから、逆にみんなとワンテンポ遅れて演技するのもアリだぜ」


「なるほど、役を逆に利用してそういう演技をする手もあるか……」

 真面目に考え込むゴンベーに向かって、マネージャーが茶々を入れる。


「さすが世界珠ね。”元々”オツムの足りないゴンベー役にピッタリの役をあてがったんだから!」

「てめぇ! どういう意味だゴラァ!」

 親父の屋台をゴンベーの怒鳴り声と親父、マネージャーの笑い声が満たしていた。


 ― 数日後。ゴンベーの部屋 ―


「準備はいい!」

「おう! どんと来い!」

 これからも使うだろうとゴンベーは前もって世界珠が指定した

『標準的なファンタジーの服装セット(人族成人男性)』

をショップで買った。


 その内訳は

 ・薄茶色のズボンに薄い藍色のシャツ

 ・黒のベスト

 ・木製のサンダル

である。

 当然下着も地球のではなくファンタジー的な野暮ったいデザインのを身につけた。


「替えの下着も持った? オシッコは出ないけど夜中に『男の子のオシッコ』が出たら、他のエキストラさんに迷惑がかかるわよ」


 マネージャーのグウの根も出ない正論に、ゴンベーは一緒に買ったズタ袋に予備の下着や服装セットを押し込んだ。


「では、いざしゅっぱ~つ!」

 ズタ袋を持ったゴンベーは、マネージャーが出現させた光の扉をくぐった。


 扉の先は最初のロケのような近代的な街並みではなく、地面がむき出しなっている村の中だった。


 村の中心には大木がそびえ立っており、村を貫くように石畳を地面に埋め込んだ道が蛇行して整備されていた。


 そんな広場を包み込むように年代物のログハウスや小屋が点在しており、木でできた柵の外側にはうっそうとした森が広がっていた。


「あらかじめファンタジー映画で予習しておいてよかったぜ。森の中の村って感じだな」

「とりあえず荷物を置いてきたら?」

 光の玉となったマネージャーはゴンベーに指示する。

「お、そうだな、村長の家だから一番大きいはず……あ、あれか!」


 村長の家にたどり着くと、村長の周りにエキストラが何人か集まっていた。

「よろしくお願いします」


 ゴンベーの挨拶に皆も挨拶を返す。

 ガチガチのゴンベーの様子に村長はちょっと心配そうに声をかける。


「あまり固くならないでね。ここではむしろ普段の生活の演技が求められるから、今からそんなんじゃ疲れちゃうわよ」

「はい、わかりました」


 すると村中に世界珠の声が響いた。


『皆さんお集まりのようですのでミーティングを行います。一度村の中心の大木へお集まり下さい』

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