第12話 またいつか、どこかで

 △ △ △


騎士「間違った?そりゃ誘拐する時点で人生間違ってんだろけどよ」


女騎士「そうじゃなくて……本当は私じゃなくて他の人を連れてこようとしてたんだと思う……それから」


騎士「それから?」


女騎士「なんか……車の中臭くない?」


騎士「レバニラと餃子食って乗ってくるアホがいたからな」


 ▲ ▲ ▲


騎士団長「ヒゲ男どこだああ!」ザッシャアア!


山賊「外壁さえ壊すなら、内壁をぶち抜いて移動するくらいは容易いか……本当に人間か?」


騎士団長「蟹食わせろおお!あと部下も返せええ!」ドッシャアアア!


山賊「随分と逞しく育ったものだ……それにしてもなんか臭くないか?」


 △ △ △


女騎士「あのユーチューブ動画の旅行とか……本当は私じゃなくて……別の誰かにしてあげたかったことなんだと思う。それができないから、私を代わりにした」


騎士「……あの上げられてた動画は広告収入が目的じゃない?」


女騎士「あれは……アルバムの代わりなんだと思う。本当は、こんなことをしてあげたかったっていう、アルバム」


騎士「お前じゃないなら誰にだよ?」


女騎士「はっきりとはとは聞けなかった。でも、本当は愛情を注ぎたかった相手なんだってことはわかる……」


騎士「……ヒゲダルマとお前くらいとの年齢差で……お前が代わりになる相手……そりゃあ」


女騎士「娘、だと思う。なんとなくだけど」


騎士「……じゃあなんで娘のとこいかねぇんだよ?」


女騎士「会いに行きたいけど、自分からは行きにくいのかも。だから娘さんから会いに来て貰いたいんだと思う」


騎士「……? じゃあなんでお前に蟹食わせてたりしてたんだよ」


女騎士「私をそうやって誘拐すれば、私を助けに娘のほうから来る、そう考えてたんだと思う……あの山賊はずっと待ってた」


騎士「……!ヒゲ男の本当の目当ては団長か!」


 ▲ ▲ ▲


騎士団長「お前が誘拐犯! 蟹を食わせろ! しゃぶしゃぶも食わせろ! あとついでに女騎士返せ!」


山賊「ずいぶんと……大きくなったものだな……逞しくなりすぎだ。女騎士はもう外に逃がしたよ」


騎士団長「いい心がけだ。大人しくすれば大ケガはしないぞそして蟹食わせろ」


山賊「本当に……会えて良かっ…あれ?」


 △ △ △


騎士「なあ……ちょっと待て。お前と騎士団長って十近く年離れてるよな」


女騎士「うん」


騎士「お前を娘と間違えた……? 普通お前と騎士団長見間違うか? 実の親なら年のあたりくらいは付くだろ」


女騎士「だから……多分山賊は」


 ▲ ▲ ▲


山賊「失礼ですが、名字は?」


騎士団長「え、山田です」


山賊「………ご両親は?」


騎士団長「春日部で二人とも健在です」


山賊「なんか思ったより年食ってるなと思うはずだ…すいません人違いでした」


 △ △ △


騎士「結局人違いかよ! バカかお前ら! バッカじゃねぇの! クソみたいなオチだな! ていうかなんとなく察したならお前もまず言ってやれよ!」


女騎士「でも言ったら蟹とか焼き肉もう食べられないし」


騎士「このブタが! 美味しい思いできりゃそれでいいのか」


女騎士「はい」


騎士「はいじゃねぇよ!」


 ▲ ▲ ▲


騎士団長「なぜ初対面で年齢を指摘されねばならない……」ギリギリ


山賊「本当にすまない。そう思ってる」


騎士団長「なら大人しく捕まれ!そして蟹を食わせろ!」


山賊「蟹は無い。しかしそこの足元にあるキノコはあげよう」


騎士団長「……? あ、デッカい椎茸!」


山賊「それ松茸だよ、隙あり」カチッ


 △ △ △


騎士「う、わ! 山の斜面ごと陥没した!?」


女騎士「あそこ……山賊のアジトがあったところ……!爆破したんだ!」


騎士「おいおいあのカニカマ女でも生き埋めはヤバいんじゃねーか……?」


女騎士「早くいかないと!!」


 △ △ △


騎士「おい生きてるか埼玉の核弾頭!」


騎士団長「うへぇ……土が口に入ったよぉ…まずいよぉ……」ペッペッ


女騎士「全くの無傷……! さすが埼玉防衛の要!」


騎士「対群馬決戦兵器の名は伊達じゃねぇな!!」


騎士団長「あ、女騎士生きてた!」


騎士「結局山賊には逃げられたか……」


女騎士「私が蟹や寿司を食っただけで終わりでしたね……」


騎士団長「でもでも松茸は一本だけ守ったよ! ほらほら立派なやつを胸の谷間に挟んでガードしたの!」ペロン


騎士「こんな時にまでヨゴレ芸人根性発揮しなくていいから」


 △ △ △


 ──山賊はあれから私の前に現れることはなかった。

 騎士団長は群馬との攻防に戻り

 騎士はその補佐をやっている。私達にいつもの日常が帰った。

 舌が肥えたせいでカロリーメイト飯は苦痛になったが。


 この間ユーチューブで山賊が上げたらしき動画を見つけた。ノルウェーでサーモンを釣り上げ調理してベアグリルスの物まねをしながら食べるというもの。オークも一緒に映っていた。

 ノルウェーへの営業妨害だと思う。

 しかしロードムービー的な撮影手法は、固定ファンがいるらしい。


 彼は旅の果てに娘に会えたのだろうか? それともまたどこかで同じことを繰り返しているのか? 私にはそれを知る手段はない。


騎士「無理だろ娘の年齢間違える時点で相当なダメ親だぞ」


騎士団長「私は蟹と寿司を山ほど食わせてくれるなら赤の他人でも親と呼ぶぞ」


 色々あったが、正直なところ山賊には幸せになってほしいと思う。あと騎士団長を嫁に貰ってくれる人は誰かいないだろうか。


 ▲ ▲ ▲


 茨城


姫騎士「く、あなた、なにを飲ませたの!? 体が熱い…まさか、媚薬!」


山賊「くっくっく、勘違いするなよお姫様…今のは媚薬なんかじゃない…」




山賊「卵酒だ」


 終わり

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