そんな先輩、私は彼女。

曼珠沙華

そんな告白、私は戸惑う。

「好きです、付き合ってください!」

 それは突然の告白だった。放課後、靴箱に入っていた手紙の指定通り裏庭で待っていたら、突然これなのだ。

「えっと、ごめんなさい。どういうことですか……?」

 相手は同性。しかも学校でも人気が高くて、学年主席を務める一つ年上の先輩。名前はえっと……神崎さん?下の名前はあいにく覚えてない。同級生はみんな、神崎先輩って呼ぶし。

 そんな人がこんなことを私にしてくるなんて、予想していなかった。

「ちょっと突然すぎて、何が何やらって感じで――」

「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと心の整理が追いついてなくて」

「……はぁ」

 先輩の顔が真っ赤だ。そんなに私のことが好きなんだろうか。いや、今のはうぬぼれじゃない。断じてうぬぼれなんかじゃないから!

「神崎先輩、で合ってますよね?」

「え、えぇ。神崎都古です」

 あぁ、やっぱり。

「その神崎先輩が、私の靴箱に意味ありげな手紙を仕込んで、私をここに来るように仕向けた、と」

「そういうことね」

「それで、私が来たのを見計らって突然私に告白した、と」

「そういうことに……なっちゃうわね」

 すんごい照れてるなぁ。結構美人なのは噂に聞いてたし、遠目に何度か見たことはあったけど、こんな表情を見るのは初めてだ。私だったら一生他人に見せられないような顔だよ、本当に。私に見せちゃって大丈夫なのかなぁ。

 とりあえず経緯は一応整理できた。でもこの場合、私ってどうしたらいいんだろう。逃げる?断る?……それはそれで、ここまでいろいろとやってるいるであろう先輩に申し訳ないような。

 だいたい、同性同士っていうのがよくわからない。今まで恋愛なんて他人の話を聞くばっかで、私には縁遠いものだったわけだし。それがいきなり告白されてる、しかも同性。やっぱりよくわからない。本当によくわからない。


「私もね、結構勇気を出したのよ?あなたにちょっと、……いや、とっても惚れちゃったから」

 うわぁ、すごいセリフを言っちゃったよこの人。将来黒歴史とかにならないといいけど。見ているだけで心配になって仕方がないよ。

「神崎先輩って、そういう感じの人だったんですね。ちょっと意外です」

 苦笑いするしかない。

「私だって驚いてるのよ!?だってこんな気持ちになったの、生まれて初めてなんだもの……」

 今度はなんだかウブっぽくて、すっごいもじもじしてる。こうして一挙手一投足を見ていると、手のかかる妹を持ったみたいだ。先輩は私よりも背が高いから、ちょっと変な感じもするけど。

「それでさ、叶さんはどうなの?告白について」

「え、あぁそうでしたね」

 しかしそう言われても、私はどうしたらいいんだろう?

 同性同士の恋人って、どんなことするの?何か私の知ってる小説とかで――だめだ。卍と花物語では、時代と状況に差がありすぎる。


 そうだ!こちらから色々質問してみて、その反応を見ながら考えてみるっていうのはどうだろう!無下に断ったり、うやむやにするよりはよほど良さそうじゃないか!

「じゃあ、いくつか質問してもいいですか?」

「えぇ、望む限り何でも答えるわ!」

 色々と怒られそうな返答だが、本当にこの人は大丈夫なのかな。やっぱり不安だ。

「まず最初に、どうして私なんですか?」

「えっ、それはね……えーっとね……」

 何だかさっきよりももじもじしている気がする。感情がそのまま動きに出やすいみたいだ。先輩には悪いけど、見ていてちょっと面白い。

「……覚えてないの?」

「……はい?」

 覚えてない、とはどういうことだ?私は先輩のことを知っているけれど、直接関わりがあったわけじゃない。学年主席ということで遠目に姿を見たり、友達から伝い伝いに話を聞いた、くらいのものだ。入学してから一度も面識はないはず。

 私が無意識に何かやったとか?それこそない。っていうか先輩くらいの有名人相手なら、何かあったら記憶に残るだろう、普通。

 それじゃあ、私が間接的に何かに関わったとか?それならありえるかもしれない。けどそれでも、やっぱりここまでになるっていうのはおかしくないか?それに何かそのことでお礼があったりとか、そのつてで先に話が入ってきてもおかしくないし。

 う〜ん、一体なんのことなんだろう……。でもここで相手に聞き返すのも失礼だし、やっぱりなんとかして思い出さないと――

「もしかして、覚えてないのかしら?」

 あ、先に言われてしまった。

「……ごめんなさい。実は思い当たる節がなくて」

 察されてしまったものは仕方がないし、ここは正直に話そう。

「それで、私ってなにかしましたかね?」

「……恥ずかしいわ」

 私は、先輩に、恥ずかしがられるような、ことをしたのか!?

 いやいや待て待て。落ち着こう。落ち着くんだ叶。っていうか今気づいたけど、先輩さらっと私のこと名前呼びしてましたね。そっちの方がハードル高そうにも思えるんですが。

 先輩に恥ずかしがられるようなことって本当に心当たりがない。私が間接的に関わっていたとしても、言えないようなことに関わった覚えは一切ない。

 ここまでくると先輩が人違いで私に告白してしまったんじゃないかとすら思える。

 いや、仮にも先輩は学年主席。勉強の方はもちろんだけどスポーツだってかなりできると聞いている。そんな人が人違いなんてするはずが――今までの先輩を見てるとやらかしてしまいそうに思えてしまう。

「私ってそんなに、恥ずかしすぎて言えないようなことをしてしまったんですか……?」

「いや、そういうわけじゃないのよ!私にとってはちょっと恥ずかしいっていうか。世間一般には普通だし、叶さんは平気な顔でしてたから、気づかなかったのよ、きっと」

 また名前呼びをした。友達といる時も宮崎ーなんて呼ばれてるはずなのに、どこで名前を知ったのだろう。まぁこれは後でもいいか。

 本当に私は何をしたんだろう。気になる。気になりすぎて夜しか眠れなくなってしまいそうなほど気になる。でも先輩は話してくれそうにないし、やっぱり私の方で記憶を辿るしかないのかなぁ。


「それで、返事はどうなのかしら?」

「付き合うかどうか、って話ですよね」

「お試し、お試しとかでもいいの!とにかく少しでもいいから、私と付き合って見ないかしら!?」

「おぉう、結構ぐいぐいきますね……。でもお試しって、その場合は具体的にどういうことするつもりなんですか?」

 そうだ、気になっていた。年頃の若い男女なら想像も浮かぶけど、同性同士の恋人って何するのかよくわからない。しかもお試し。

「えっと、二人で遊びに行くとか?」

「普通にデート、ってことですか」

「二人でお揃いの物を買うとか!」

「俗にいうペアなんちゃら、ってやつですか」

「一緒にご飯食べるとか……」

「ごめんなさい、私が変なツッコミしすぎただけですから、気を落とさないでください」

 でもそういうことをするだけなら、別に性別は関係ないみたいだ。よくある理想のシチュエーションって感じがするし。

「というわけなの、お試しでどう?」

「えっと、じゃあはい。わかりました?」

 あ、反射的に答えちゃった。

 まぁ恋人の関係っていうのはちょっと抵抗があるけど、やっぱり同性だと話を聞いていても、友達の感覚で考えてしまう。

 どこか遊びに行くのも、お揃いの物を買うのも、ご飯を食べるのも。なんだか特別には感じられない。どれも今までに、友達と一緒に歩んできた道程。先輩とは確かに初対面(私が覚えていない事柄を除く)だけど、これからそんな感じの関係になるだけなら、拒むような理由もないし。

「あれ、どうかしました先輩?」

 そういえば先輩の返事がない。感極まって言葉が出ないとか?

「――ッ!」

 うわっ、まさか抱きついてくるなんて!しかもなんだか胸のあたりが、じんわりと濡れてくる。泣いてるんだろうな、これは。

 先輩って、遠目から見たら確かに美人だし、私よりも優秀なのかもしれないけど。

「あー、よしよし。逃げたりしませんから、ね?」

 こうしていると、やっぱり背の高い子どもみたいだ。頭を撫でるのは少し辛い体勢だけど、うんと泣いていいよ。


 あ、髪の毛すごいサラッサラだ。いつもなに使ってるんだろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る