第6話 出会いと戸惑い6

「怪しい! 洗った手をそのままカーテンで拭くみやびが、CAREN のハンカチを持ってるなんてあり得ない! どこで盗んできたの! 誰のお家のベランダから盗ったの?」


「おま、カーテンはその為にあるんだろ! ってなんで下着泥扱いされなきゃならん! 腐っても僕は誇り高き年齢=彼女いない歴の偉大な男であってだな――」



 僕が手を伸ばせば、奈緒は背を翻りハンカチをお腹で抱える様に守るもんだから、嫌がる女の子を後ろから襲う男の図の完成である。



 言っておくが、ココは学園きっての渋滞発生区域、しかも最も登校中の生徒で賑わう昇降口だ。さっさと靴を履きかえて教室に向かえば良いモノを、僕らは血迷ったことに互いの体を抱き合わせたり突き放したり、シャンプーの香りが鼻孔にダイレクトに直撃するくらい頭や顔を近づけて言い合いをしているもんだから「なんだなんだ?」って声がチラホラ聞こえてくる。



 周囲からして見れば男が女の子を強姦している決定的な瞬間とも見える光景、僕らの体格差がそれをより再現度を高め、激しい攻防が更に緊迫感を添え、周囲に不穏な空気が流れ野次馬がどんどん集まってきている。



「おいおい、白昼堂々ってか、朝っぱらから性犯罪はやばいだろ……」


「ねえ、あれって奈緒さんじゃないの?」


「フラれた因縁でもつけてるのか? とんでもない男だな――」


「身の程をわきまえてほしいわね、あんな優しい男止まりの都合が良いモブキャラと人気者の奈緒さんが釣り合う訳ないわよ――」



 世の中、ホント浮世の風は身にしみる。僕だって進路を塞ぎハンカチ争奪戦をして少しは悪いと思っているが、野次馬の口から発射される誹謗中傷で出来上がった“ヤジ”を投げつけれる言われはどこにもない。じゃあ、これらの原因はなんだ。



 それはあまりにも簡単な問題であった。原因は僕の懐に収まる奈緒のせいだ。



 常々、奈緒の人気は風の噂で聞いていたから別に驚きはしない。顔だけ見ても奈緒は可愛い。性格だって表裏なしで言いたいことはちゃんと良い、言わなくていいことはグッと胸の内にしまえるしっかりした子だ。困っている人がいれば助けるし、困ったことが起きる前に率先して厄介ごとを引き受ける度胸も持っている。



 じゃあね、原因は奈緒でも、悪いのは僕であるって答えにたどり着く。


でも言いたい、言わせてくれ。この謂われようもない酷評はなんだ! 僕ってそんな昼夜問わず性欲旺盛な未練がましい典型的な噛ませ犬に見えるのか? 痴漢なんて下劣な行為をしようと思ったことはみじんもないぞ。



「――、どうした奈緒?」


「……」



 僕が周囲の中傷に心をへし折られそうになっていると、何故か先に他人事でも聞いてる僕が嬉しくなる評価をされる奈緒が動きを止めた。僕の薄い胸板に顔を埋め黙り込んでいる。これは非常にやばいかもしれないと幼馴染だから思うが最早手遅れであった。



 井戸の底がテレビの画面を内側からぶち破るあの幽霊の様に、奈緒は僕から離れ姿勢を前かがみにさせダンマリしている。何か意識が他に移ったのか、ハンカチを死守する事を忘れ、ユラリユラリと大きく体で船を漕いでいる。

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