第225話 美紗編 Ⅳ

「あぁ、いやいや。そんなに変な人じゃ無いがよぉ。ダニちゃんは、ちっちゃい頃からけーちゃんと一緒いっしょやったからねぇ。昔から、そう言ってるだけやよぉ。だから気にせんといてあげてぇ。ねぇ、美穂ちゃん。そうやねぇ」

(翻訳:あぁ、いえいえ、そんなに変な人じゃ無いですよ。ダニエラさんは、小さい頃から慶太さんと一緒でしたらから。昔からそう言っているだけですよ。だから、気にしないであげて下さい。ねぇ、そうですよね。美穂さん。そうですよね)



 はっ! アルねぇ、グッジョブです!


 良い所で、お義母かあ様に話を振って下さいました!


 お義母かあ様がどう考えているのか、そこの所が非常に重要です。



「そうだねぇ。ダニーちゃんは、いつも慶太には甘かったわねぇ。でも、結婚したい……って話は聞いた事が無かったなぁ。へぇぇ。そんな風に思ってたんだぁ。意外と慶太もモテるんだねぇ」



 なんと! やっぱり、彼女ダニエラさんの思い込みだったんですね。


 なーんだぁ。


 そう言う事ですか。理解しました。えぇ、理解しましたとも。


 結構、おとしされた『かず後家ごけ』が、上司の孫に横恋慕よこれんぼ


 えぇ、ありがちな物語ストーリーですね。陳腐ちんぷな話です。


 あります、ありますとも。


 基本、この手のキャラは、おばさんキャラで、雑魚ざこキャラ扱いですね。


 安心しました。もう大丈夫。


 ダニエラさんも論外っと。


 私は心のノートにメモメモ。



「それじゃあ、ダニーちゃんも来たみたいだから、お鍋始めちゃいましょうか。あぁ、アルちゃん、運んでくれる?」



 あらあら、お義母かあ様が、お鍋の道具を持って居間の方へ行こうとしています。


 これは、ちゃーんす!


 アルねぇ包丁捌ほうちょうさばきに見惚みほれてしまって、ここまで私の出番が全くありませんでした。


 まずは、『使える娘感むすめかん』をお義母かあ様にアピールしなくてはですよっ!


 とその前に、お義母かあ様って、確かそろそろアラフィフじゃ無かったかしら?


 確か慶太くんにそう聞いたもの。


 それにしては、めちゃめちゃ若いのよねぇ。


 肌の色艶いろつや一つとっても、全然若いの。


 この部屋着だって、パッと見、普通っぽいけど、全部ブランド物だわ。


 はは~ん。お義母かあ様って、ファッションとか美容系が大好きな感じ。


 これは話が合いそうね!



「お義母かあ様ぁ、そのお皿、私が持ちますよ。アルあねは、手が離せない様ですし……あぁ、そう言えば、お義母かあ様の、そのダスティピンクシャツ。とっても大人フェミニンな感じで良いですねっ! 私も見習いたいなぁ」



 さぁ、どう?


 どうなの?


 お義母かあ様、どうなのよっ!



「……」



 突然私に話し掛けられた、お義母かあ様。……少し目を丸くして、私の事を見てる。


 んん? ちょっと外したかしら?


 ううん。絶対にそんな事無い。


 大丈夫よ、美紗。自分の見立てを信じなさいっ! 大丈夫、大丈夫よっ! これまで、伊達だてにファッション雑誌をむさぼる様に読み込んで来た訳では無いのよ。


 すると。



「あらぁ! 美紗ちゃん。分かるぅ? そうなのぉよぉ。今日のコーデポイントは、ダスティピンクシャツにグレー系スキニーデニムを合わせて、少し着崩きくずした感のある大人フェミニンだったのぉ。いやーん。美紗ちゃん、話が合うわねぇ!」



 満面の笑みで喜色きしょくを表すお義母かあ様。


 ……取ったっ! ビンゴッ!



「ですよねぇ。お義母かあ様はですから、すごく似合ってますよぉ」



「いぃぃやぁぁぁ。美紗ちゃん、ですってぇ。もぉ、そんな事無いわよぉ。もうすぐ五十になっちゃうのよぉ。全然くなんて無いわよぉ。でも、だなんて、嬉しい事言ってくれちゃってぇ。そう? 私、かしらぁ。そうよねぇ。でも、ちょっと若作わかづくりかしらぁ。困ったわぁ。ほほほほ」



 わっ、分かりやすっ!


 お義母かあ様、めちゃめちゃ分かりやすいわっ。


 しかも、おだてに、めっぽう弱い。


 更にキラーワードは、『


 もう、分析する必要も無いぐらい。


 って言うか、逆に、本当に可愛い人。私、こう言う素直な人、めっちゃ好き。


 さすがは、私が選んだ慶太くんのお義母かあ様ねっ。


 これは、お義母かあ様とは、仲良くやって行けそうよっ!



「それじゃあ美紗ちゃん、そのカニのお皿、持ってきてくれるかしら? ダニーちゃんも紹介するわねぇ」



 私は指示されるまま、ベニズワイガニの乗った大きなお皿を持って、お義母かあ様の後に続いて行ったの。


 もう、完璧。


 なしくずしだけど、お義母かあ様と呼べる関係を造り上げる事に成功よっ!


 少なくとも、あの女リーティアには負けてはいられないわ。



「あら、ダニーちゃん、お疲れ様ぁ。ちょうど良い所に帰って来たわねぇ。ばんご飯食べてくでしょぉ?」



「あっ、はいっ……お様……」



 って、ちょい、ちょい、ちょいぃぃ!


 突っ込み所満載まんさいよ!


 何? 誰? 貴女あなたがダニエラさんなの?


 めっちゃ綺麗きれいじゃない!


 なに? その少し赤み掛かったつややかな黒髪。


 なに? その大自然が生み出した芸術の様な琥珀色こはくいろの瞳。


 なに? そのエキゾチックな雰囲気ふんいきかもし出すほりの深さ


 一級品とびきりの美人だわっ!


 アッ、アルねぇったら、私をかついだわねっ!


 って、かついで無いか。


 確かに『美人さん』って言っていたものね。


 と言うより、美人って、どう言う事?


 大体、女性同士の言う美人って、当てにならないんじゃ無かったかしらっ! あぁ、それを言ったのは私ね。ごめんなさい。


 それにしても、こんな片田舎かたいなかに、極上の美人がもう一人って、一体何なの? 北陸って、美人ばっかりなの? 美人しか生まれて来ないの? ブスはいないの? 醜女しこめは生きて行けない土地柄とちがらなのっ?


 ベニズワイガニを持つ私の両手は、あまりの憤慨ふんがいに、ぷるぷると震えだして仕方が無かったのよ。

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