幕間(登場人物紹介っぽいヤツ)

第13話 美穂ちゃんとアルちゃん

「ねぇアルねぇ、チョッと近くないかな?」



 居間のコタツでみかんを食べていると、アル姉が隣に寄って来ます。



「もぉ、なんでアル姉って言うがぁ。昔みたいにアルちゃんでいいがんにぃ」

(翻訳:どうしてアル姉って言うの? 昔みたいにアルちゃんでいいのに)



 日曜の昼下がり、めずらしく天気が良いので、二人でお洗濯。


 慶一郎さんはお父さんおじーちゃんと海釣りに。何が釣れるかな?


 大物釣ってくるから、夕飯はお刺身だ! って言ってたけど……、でもカレーの準備は出来てるの。



「はいはい、分かったよ。アルちゃん」


「えへへへ。美穂ちゃん、膝枕してぇぇ」



 アルちゃんは、二人だけの時はとっても甘えん坊さん。


 まぁ、慶一郎さんや、お父さんおじーちゃんにも甘えているけど……。


 だけど、慶一郎さんは私のもの。アルちゃんにはあげません。



「アルちゃん、たまには女の子らしい格好して、街にでも行ってみたら?」



 アルちゃんはとっても美人さんなのに、全く出かけません。


 着るものも、近所のユ○クロで全て済ませています。



「えぇぇ。一人で行っても全然楽しくないがやもん」

(翻訳:えぇぇ。一人で行っても、全然たのしくないんだもの)



「ふぅん、じゃあ、来週の日曜は、二人でお出かけしよっか?」


「ふぇぇぇ。本当! うれしぃぃ。うん、行く行く! どこ行こっか?」



「そだねぇ。アルちゃんは何処に行きたい?」


「えぇっとねぇ。ア○ヒビールのビール工場で、ビールの試飲! 一回行ってみたかったん」



 アルちゃんは、お酒に目がありません。



「そっか。分かったよ。じゃあ、ビール工場行ってから、帰りにデパートでアルちゃんのお洋服も買おうか?」


「えぇぇ、いいよぉ。私はこれでぇ」



 アルちゃん。お出かけにジャージと長靴が許されるのは、自宅から半径500メートルまでだからね。


 あと、床に落とした食べ物も、三秒までならセーフね。



「まぁ、美穂ちゃんが行きたいんだったら、良いよぉ」



 アルちゃんは素直な良い子なので、言えば分かってくれます。



「そう言えば、昨日の夜何処行ってたの?」



「ギクっ!」



 アルちゃんは素直な良い子です。今、「ギクっ!」って、口に出てましたよ。



「いや、チョッと向こうの世界に用事があって……あのぉ……そのぉ」



 実は理由を知っています。


 この季節、向こうの世界では『ホタルイカ』の様な、小さなイカがたくさん取れます。


 朝方に懐中電灯で照らすと、驚くほど良く取れます。


 アルちゃんはそれを持ち帰って、ゆでてから『からし味噌和え』にするのが大好きです。


 ちなみに、アルちゃんは、料理も、お掃除も、お洗濯も、とっても上手です。


 その外見からは想像できないぐらい、家庭的な子です。しかも甘えん坊さんです。


 チョッと料理は、お酒のアテになるものが多いのですが、本人に聞いたら、『ついつい』だそうです。


 ただ、問題は懐中電灯を持って行っている事でしょうか。


 お父さんおじーちゃんは、こちらの世界のものを、向こうに持って行く事をとても嫌がります。


 向こうの人たちが自分達で考えて、成長してくれる事がうれしいのだそうです。



「アルちゃん、懐中電灯持って行ったでしょう? お父さんおじーちゃんに叱られるよ?」



「えぇっ! 美穂ちゃん、絶対に言わんとってね。絶対やよ。本当に絶対やよ」



 アルちゃんは本気でビビッています。かわいそうなので、もう許してあげましょう。



「それから、昨日からアルちゃんの部屋から、何か音がするんだけど、どうして?」



「ギクっ!」



 アルちゃんは素直な良い子です。今、「ギクっ!」って、また口に出てましたよ。



「な、何にも拾って来てないがよ。本当やよ。取って来たんは『イカ』だけやよ。後で茹でるだけながよ」

(翻訳:な、何も拾って来てませんよ。本当ですよ。取って来たのは『イカ』だけですよ。後で茹でるだけなんですよ)



 もう、最初に『何か拾って来た』って、言っちゃってます。


 しかも、みーみー声が聞こえます。もう、間違いありません。



「アルちゃん。元の場所に捨ててらっしゃい」



 アルちゃんは、地獄の底で閻魔様に会った様な顔で私を見つめます。


 私の顔はそんなに怖いですか? いえいえ、笑ってますよ。私。あぁ、余計怖いって事ですね、わかります。



「美穂ちゃん、ちゃんと自分でお世話するから、ご飯も私の分の半分あげるから、だから飼っても良いでしょう?」



 もう、完全に動物ねこを拾って来たみたいですね。



「ふぅ……」



「ちゃんと自分でお世話できる?」



「出来る、できる。ちゃんとお世話するから。お願い!」



 まぁ、家事全般が得意なアルちゃんです。問題無くお世話するでしょう。


 元々、ナースメイドが本業らしいので、子供の扱いにも長けています。


 時々、お母さんおばーちゃんの運営する保育園でアルバイトもしています。



 あれ? 結構アルちゃん働いてますね。でも、稼いだお金の殆どは“純米酒”で消えてしまうそうです。


 ちゃんと子猫さんには、お酒ではなくご飯を食べさせてあげて欲しいものです。



「じゃぁ。良いよ。後で、スーパーで子猫グッズ買ってこよ」



「うん、そーしよ。……でも、美穂ちゃん、どうして猫ちゃんって分かったん?」

(翻訳:うん、そうしましょう。でも、美穂ちゃん、どうして拾って来たのが猫ちゃんだって分かったの?」



 それは分かるよ。だって、みーみー言ってたもの。アルちゃんの部屋で。



「さぁ、どうしてでしょうねぇ。ふふっ」



「もぉぉ、美穂ちゃんすごいねぇ。何でも知っとるもんねぇ。ねぇねぇ。猫ちゃん見る?」



「うん、見る見る」



 どんな子猫か凄く興味があります。



「いま連れて来るねぇ。えっとねー名前はミカエラって言うん



 へぇぇ。ミカエラですか? 良い名前ですね。でもウチにもミーちゃんがいるので、同じミーちゃんで、ちょっと被りますね。まぁ。仕方がありません。



 でも、何か引っかかりますね?


 『ミカエラ』って名前は、誰に聞いたのですかね? はて?



「じゃーん、ミカエラだよ」



「……」



 うーん、想像していたのとチョッと違いましたね。



 どうしましょう。飼っても良いって言ってしまった手前、いまさら後には引けません。


 とりあえず、慶一郎さんが帰ってきたら相談してみましょう。



「ただいまぁ」



「「お帰りなさーい」」



 意外と早かったですね。さて、さて、大漁でしょうか?



「結構、海は波があってねぇ。風も強くてさぁ。仕掛けも、もう少しだけ重い方が良かったかなぁ。だいたい狙う魚が違っててさぁ……」



 あぁ、言い訳が多いですね。これは駄目なパターンです。



「アルちゃん、オペレーションBカレーの作成を発動します」



「美穂ちゃん、らじゃー」



 まぁ、楽しかった様ですし、無事に帰って来られたのですから良しとしましょう。


 それより、猫ちゃんミカエラの事を慶一郎さんに説明するのが不安です。


 まぁ、ご飯を食べながら、ゆっくり説明しましょうか。

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