第14話 ドワーフ村での急展開

それから二ヶ月ほどはクエストに明け暮れた。


エヴァン村との街道が正常化した事で採取クエストの依頼が一気に増えたのもあるが、実りの秋を迎えて単純に忙しくなったのもある。


森にはこの時期にしか取れない貴重なモノが多い。


そして暫くすると一気に気温が下がり短いながらも冬が訪れる。

村には雪が積もる事は少ない様だが、朝晩は霜が降りる為に草木は葉を落とし春を待つ種が多い様だ。

この冬の時期に、村では収穫した植物などを使って貴重な薬やポーションを造り貯めするのだ。それが村の収入源となる特産品になる。


アルティとカルノスも狩りや採取したモノは食糧調達以外は売り物が殆どで、自ら加工することは少ない。だから獲物が極端に少なくなり、しかも貴重なモノも特にない冬の時期は狩りや採取も休みの日が多くなる。

つまり三人とも暇を持て余しているのだった。

 

本来アルティは実家の皮道具の仕事を手伝うらしいのだが、交易路の復活で注文が増え従業員を雇った為に免除になったと言っていた。

 

「今年は三人で随分頑張ったからね。一級の素材が大量に手に入ったから注文が増えたんだよ」

と嬉しそうに話していた。

親孝行をしている様で、そのくせ実家ではなく自分達と暮らす親不孝者である……

だから、あの店に行くといつも親父さんに睨まれるのだ……

その割には毎回おまけしてくれるだけど……


カルノスの方は、毎年アルティの手伝いさせられるか、本と共に引き籠るのが恒例らしい。


そして自分は、暇を持て余し暖炉用のマキ割に勤しみ過ぎて、いつの間にかマキ売りの真似までしていた。

別にお金を稼ごうとした訳ではない。この九ヶ月で二〇〇万リオンほど、日本円で四〇〇〇万くらい貯めた……だから積極的に金儲けをする必要性は感じていない。


暇な時期だから、どこか遠出するのもいいかもしれないと考えているのだけど……

その理由の一つが、生命エネルギーポイントだ。

やはり予想していた通り、アンデッド退治以降あまり増えていなかったのだ。


三八万ポイント、この殆どがアンデッド退治で得たものだ……

賢者様に見せてもらった生命ポイント表からすると、この世界の人類に換算して約四〇人分、必要最低限でなら約一二〇人分くらいかな。


一人で出来る事には限界がある事は分かっていても……焼け石に水と言った感は否めない。

だけど、この問題は直接アルティやカルノス、この村の住人の将来に関わる問題だ。今のままではアルティ達に子供は望み薄だろう。


それを考えるともっと生命エネルギーを増やしたいと思うのだが、そうポンポンとアンデッドが生まれる訳でもないし、それ以外の美味しいモンスターとも遭遇していなかったのだ。


最悪は反乱軍として占領軍と戦えばポイントを増やせるのだろうけど……生命ポイントの為に戦争に参加するのは本末転倒だと思う。

戦争に参加する理由があれば別だけど……


こればかりは仕方ないのかもしれないと諦め気分になっていた。


かといって、何もしないのも何なので、この暇な時期を使ってドワーフの『ユミル村』に行く事にした。


放置していた白い石の正体を調べるのと、もう一つ、こちらが目的なのだが、この時期に山で見られると言う氷花と氷結コガネムシを見に行いくのだ。


「ちょっと寒いけど、絶対レン兄は気に入ると思うよ」


「……ちょっとどころじゃないと思うけど。でも綺麗な光景だよ」


と言う様に二人がオススメするので事で行く事になったのだ。


その場所に向かうにはユミル村を通るというので、それならという事でギルに紹介状を書いてもらった。

ユミル村までは、エヴァン村から西の山脈へ三日歩くと着く。

雪山での野営に不安を感じていたが耐寒テントと寝袋のお陰で問題なく過ごせた。


道中、寒さ以外は常に坂道なのが辛かったくらいで何事もなくユミル村に到着した。


この村にはドワーフ族が一〇〇人ほど住んでいると聞いていたが、人間もちらほらと見受けられる。


「人も住んでいるんだ」


「殆どが職人だよ。修行に来た人達からそのまま住み着いた人とか」


「それより、早く宿屋へ行こうよ! 寒すぎる……」


カルノスが寒さに震えながら訴えてくる。既に日は落ち一気に気温が下がってきたので急いで宿屋に向かった。

エヴァン村とは交流が盛んなので何度か来た事のある二人は迷う事無く先を進む。


そして宿屋に部屋をとり、一階の酒場で食事をしていると次から次へと声がかけられた。

アルティとカルノスがこの村に来るのも数年ぶりだったのと、自分の噂がここまで届いていたので、物珍しさで人が集まりいつの間にか大宴会になっていた。


「お前さん達、ディアドラ様に会いに来たんじゃって?」


「そうだよ。俺もアルも会った事ないんだけど、どんな人なの?」


「いたって普通の方じゃよ。ただ魔術の研究に没頭しておられるから滅多にお目にかからないけどな」


「そうそう。外に出るのは魔術研究の旅くらいだと聞いたぞ」


「まぁ、あまりこの辺りに顔をお出しにならないのは皆様同じじゃけどな」


「皆様って、ハイドワーフの人達? この村には何人か住んでいるんだよね? ギルに聞いたけど」


「ああぁ、そうじゃよ。ココに居るハイドワーフ族の方々は我々ドワーフ族からすると貴族にあたり、その中には王族の方もおられる。ギル様もその一人じゃ」


「しかし、我らの王国は一五年前に滅んだ……軍事同盟の一つスツルテに唆された闇の軍団によってな!」


そう言って『バンッ』とテーブルを思いっきり拳で叩いた。


「あ、あぁ、その話は知ってる。それでここに村を作ったんだよね……」

カルノスがちょっとばつが悪そうに言った。どうやらここのドワーフには辛い話題に入ってしまった様だ。


「あの時はどうしようもなかった。歴戦の戦士たるハイドワーフの王侯貴族の方々でも……我らドワーフ族も必死に戦ったが、数が違い過ぎた。その戦いで王も騎士団長も近衛騎士団の方々も亡くなられた……」


「そして我らは王の最後の言葉にしたがい、この地に逃げて来たんじゃ……いつか我らが国を再興する為にな……」


「しかし、王弟バンダル様も戦士長だったキュアン様も責任を感じとってな……国を奪われた者が敬われるのは憚られると引き込まれてな。北の館から殆ど出てこられんのじゃ」


その後も、ドワーフ達はいろいろ話をしてくれた。

アルティとカルノスの二人も初めて聞く話が殆どだったようだ。


この村は元々、王国の砦の一つだった事、王国に戻りたくても結界によりドワーフ族の力が半減してしまう事、その為地底の王国の現状が分からない事、この村に避難できたハイドワーフ族は六人しかいない事、戦乱以前に世界のドワーフ三王国に異変が起こり加護の光が失われた事などだった。


このユミル村のドワーフ達はいつか王国を取り戻そうとしている戦士の村だった。

その後は『辛気臭い話は止めだ!』と宴会が再開され、ベッドに入った頃には夜が大分更けていた。


という訳で、翌日は三人とも昼前まで寝ていた。


本当は昼前にディアドラさんを訪ねる予定だったのが大分ズレてしまった。

この村の建物は砦だった名残か、石造りのモノが多く城壁や見張り台もある。そんな村の北のはずれにひと際大きい石塀で囲まれた木造の建物があった。

これが昨日も話に出てきたハイドワーフ族の住まい『北の館』だ。


館は塀に囲まれていても門が無かったのでそのまま敷地に入った。すると


「ココに何の用だ」


ドワーフらしいぶっきらぼうな口調で声をかけられた。

そちらに目を向けると敷地内の畑で今まで作業中だったであろうハイドワーフが立っていた。


「僕たち、ギルの紹介でディアドラさんに会いに来たんです」


アルティが答えると、そのハイドワーフは笑みを浮かべて


「ギル叔父の知り合いか! 叔父は元気か?」


「あなたがキュアンさんですか?」


「おう、そうだ」


「これ、ギルからの紹介状です」


この人がギルが紹介状を渡す様に言っていた甥のキュアンさんか……昨日の話の中でも出てきた戦士長だった人だ。


「おおぉ、そうか。まぁ立ち話もなんだ、中に入れ」


キュアンに連れられて館の中に入り、応接間に通された。内部は華美な装飾はなかったが家具や柱などにドワーフの職人によると思われる彫刻が施されていた。

自分達が椅子に座るとすぐに紅茶が出された。

どうやらこの館では人間のメイドを雇っている様だ。そしてもう一人、人間の若い女性が現れた。


「あら、キュアンさんにお客さんですか? 珍しいですね」


「おっ、ちょうど良かった。ディアドラ婆様にギルの紹介で客が来ていると伝えてくれ。何やら見てもらいたいアイテムがあるそうだ」


「分かりました。少々お待ちくださいね」


「今の人は?」


メイドと言う雰囲気でもなかったので興味本位で聞いてみた。


「あぁ、アレはディアドラ婆様の助手のブリギッドだ。いろいろ教わっとる様だが、慌て者でな。よく失敗しとる」


自分のイメージとしてはドワーフ族全般に魔法が苦手な感じだったけど、助手まで付けて魔法の探求とは、この世界のハイドワーフ族は魔法に堪能なのかも、と考えていると


「わざわざギルの紹介であたしに会いに来たって言う客は誰だい」


そう言って部屋に入ってきたのは、玉ねぎ頭のずんぐりとしたゴツイ老婆だった。


「婆様、こっちの三人だ」


「おやおや、これは可愛らしいお客さんじゃ」


そこで自己紹介と、一通りの説明をしてあの白い石を見せた。

ディアドラさんはその石を見るなり目を大きく見開いてまじまじと見つめた後に、木の枝の様なモノを取り出して、白い石に触れた。

するとその枝の様なモノが『パキッ』と音を立てて真っ二つに裂けた。そして、ディアドラさんは無言で持った枝を見つめたまま固まっていた。


その場にいる全員がディアドラさんを見つめ反応を待っていたが、キュアンさんが痺れを切らして声を上げた。


「婆様! どうしたんだ? さっきのは一体なんだったんだ? その石は何だ?」


それでもしばらく沈黙が続いた……もしかして何か魔法にでもかかってしまったのかと心配し始めた頃、今度は急に大声で叫んだ。


「これだよ! これならイケる! 坊や達! これをあたしに売っておくれ!」


あまりの急な事にみんなが驚いていると


「これで王国への扉が開くよ!」


「本当か⁉ 婆様⁉」


「本当ですか⁉ お師匠さま⁉」


今度はキュアンさんとブリギッドさんが大声を出して立ち上がった。


自分達三人は事情が分からず困惑するしかなかった。


「あ、あの……何の話をしているんですか?」


おずおず聞いた自分に対してディアドラさんが我に返ったのか


「あぁ、すまないね。年甲斐もなく興奮してしまったよ」


「い、いえ……お気になさらずに」


「まず、この石はね、魂封の白虹玉と言う超ド級のレアアイテムだよ。条件は不明なんだけど、何らかの条件が重なった時にアンデッドからドロップする宝石でね、あらゆる呪いを無効にする効果があると言われているのさ。冥府の玉骨と同じ様にアンデッドに絶大の効果もあるらしいけどね。重要なのは呪い無効化の方で、さっきの枝は呪魂木と言ってね、戦場などに生える呪われた木の枝なのさ。その呪いが一瞬で霧散した……こんな強力な解呪の力は見た事がないね」


「そうなんですね」


と言ってみたが、呪いの無効化か……そんなに凄い効果なのか、いまいちピンと来ない。アルティとカルノスに目をやると二人とも同じことを思ったのか微妙な笑みを浮かべていた。

という事でお互い目で合図しあい決まった


「売っても良いですよ」


「本当かい⁉」


「えぇ、ただ先ほどの王国の扉が開くとかの話を聞いても良いですか?」


「あぁ、それは構わんよ……それより、バンダルはまだ戻らんのかい?」


「バンダル様なら夕刻にはお戻りになるはずだ」


「そうかい、なら、お前さん達。今日はココに泊まっておいき。夕食にはみんな揃うからね、そこで話す方が一回で済んで楽だよ」


当然断る理由もなく、その提案を受ける事にした。


そう言えば、もう一つ大事な事を聞いてなかった。


「それで、どの位で買ってもらえるんですか?」


「そうだね、二本で一〇〇〇万リオンでどうだい?」


あまりの予想外の金額に三人とも一瞬固まってしまったが、次の瞬間ハモっていた。


「「「売りました!」」」と。



その夜、食卓を囲んだのは王弟バンダル、魔術師ディアドラと助手のブリギッド、元戦士長キュアン、そして長老衆のアダン、バール、マナスの三人だった。


バンダルが帰って来た時の自己紹介で


「お前たちはギルを呼び捨てで呼んでいるのだろう? 古き友の友人ならば我らにとっても大切な友人じゃ。儂たちの事も呼び捨てで構わんよ」


という事で多少の抵抗はあったがそれに従う事にした。

そして夕食の歓談のあと、ディアドラが話し始めた。


「我らの王国は今やゴブリンやオーガどもが跋扈する地となってしまった。そしてその地に踏み込もうにも結界のせいで力が削がれてしまい、偵察もままならん状況だよ。しかし、今日この者たちが持ってきた魂封の白虹玉のお陰で問題は一気に解決する!」


「それは本当なんだね⁉」


長老衆のマナスが聞き返した。

長老衆と言ってもアダン以外は老人ではない。マナスは中年のおばちゃんと言った感じの女性で、バールはキュアンとさほど変わらない位の男性だ。


「ああぁ、本当さ。あの結界は一種の呪いみたいなもんでね。だからこの石で作った首飾りでその効果を無効化出来るはずだよ。そして王国のどこかにある結界の起点にこの石を置けば結界は消え去る……」


確かに結界が無くなればドワーフ族は本来の力が発揮できるだろうし、ハイドワーフの力は強大なのだろう……しかし


「でも、王国にはまだたくさんの闇の軍団の兵たちが居るんだよね……しかも、昔も圧倒的な数の差が原因で負けたって聞いたけど」


カルノスも同じ事を思った様でその疑問をぶつける。


「おや、物知りだね。その通りさ……あの時は敵の数に圧倒された……そして今はこちらの数はあの時の一割にも満たないよ」


やっぱりだ……昨日の酒場での話からすると戦士は殆どが命を落としたのだろう。戦力的にはさらに差が開いているのではないかと思う。


「だけどね、本来あの時もあの程度の戦力差なら負けなかったんだよ」


王国開放に懐疑的な考えを巡らせていた所に、ディアドラから超強気な発言が飛び出した。


「それはどういう事?」


「確かに、ユグド王国は小国だったけどね、その分、防衛の為に魔道ゴーレムを多数配備していたのさ。因みにその魔道ゴーレムを作ったのはあたしだよ」


魔道ゴーレム⁉ これは初耳だったとカルノスの方を見ると、両手を胸の前で組み合わせて目を輝かせていた……隣のアルティはそんなカルノスを見て『うわ~』と言う声を漏らす。


「カルノスは魔道ゴーレムを知っているのか?」


その問いに待ってましたと言わんばかりに


「当然! いいかい、魔道ゴーレムは芸術品なんだよ! 単なるゴーレムの様な品の無いモノじゃないんだ。術者がいなくても自立行動が出来る優れモノ……その反面、魔道ゴーレムの調整は難しく、まともに動くモノを作り出せる魔術師や魔道技師は世界でも数えるほどしか居ないのさ、その一人が今目の前にいる! 俺は幸せだよ~」


これは、変なスイッチが入ってしまった様だ……


「カルはゴーレムオタクなんだよ」


アルティが飽きれた様な口調で耳打ちして来た……カルノスの新たな一面を見た様だった。


「お前さんも魔道ゴーレムに興味があるのかい? 魔法使いのようだし、なんならあたしの弟子になるかい?」


「本当ですか⁉」


カルノスがその言葉にすぐに飛びついたが


「ちょっと、お師匠さま⁉ 弟子は私がいるじゃないですか⁉ 私に何か不満でもあるんですか⁉」

ディアドラの隣に座っていたブリギッドが焦った表情で抗議しだした。


「はっはっはっ、何言ってるんだいこの子は、別にクビにしやしないよ。もう一人ぐらいなら弟子を取ってもいいって話だよ。その方が研究が進むだろ?」


「あっ、そう言う事なら……よろしくね、カルノス君」


「いや……まだ、決めた訳じゃないですけど……」


カルノスはさっきのやり取りを見て少し冷静さを取り戻した様だ。


「まぁ、急いで答えを出すこともないさ。それに、暫くはあたしも忙しくなるからね。それで、話を戻すと、その魔道ゴーレムで闇の軍団も撃退できるはずだったのさ……それが、いきなり機能を停止してしまった。今考えると、結界の様なもので魔力を遮断されたんだね……それでこの結果さ。でもね、ゴーレムたちは今でも動くのさ。多少壊れていたとしても動き出せば自己修復機能が働き出すからね」


「でも、その魔力を遮断している結界を解かないとダメなんですよね? それを大軍を相手にしながらやるのは難しいんじゃないのかな」


「それは大丈夫だよ。偵察の結果その結界は消えているのは確認済みさ。多分、術者由来の結界だったんだね。そしてそいつはもう王国にはいない様だしね」


「えっ? 偵察に入ったんですか? 満足に動けないんじゃ自殺行為ですよ」


今まで静かだったアルティが声を上げる。


「大丈夫だ、まったく動けないわけじゃない。それに我々ハイドワーフは全力が出せないと言ってもドワーフ並みの能力は維持できているんだ。だから偵察に行っている。その結果、ほとんどの部隊は撤収していて残っているのは混成部隊の一部隊だけだ」


キュアンが真面目な顔で答えた。その言葉を受けてバルダンが続けた。


「そうだ、元々我らの王国を占拠したのも中央王国を攻める為の足掛かりの一つにする為であったからな。その中央王国も滅んだ今となっては、あの国を抑えておくメリットは殆どない。今残っている部隊も、はぐれ者の集まった盗賊の様なものだ。大方、封印した宝物庫を狙っているのだろう」


「宝物庫?」


「ああぁ、国が落ちる前に、あたしが封印を施したんだよ。それをどうにか解こうと欲深いのが残ったんだろうね。封印を解くにはあそこの太陽石の結晶がないとダメなのにご苦労なこった」


ディアドラの視線の先を追うとそこには星の形を象った水晶の様なモノがあった。

星の石に月光石とくれば太陽石があってもおかしくないと思っていたが、本当にあったんだな……予想的中だ、などと馬鹿な事を考えていた。


「すっごい! あんな大きな太陽石の結晶があるんだ……太陽石自体が少ないのに結晶であの大きさなら街一つ買えるんじゃないかな」


「本当だ……しかもアレ、カッティングされてるから元はもっと大きかったんだ……」


おっと、二人のその反応は、超レア物って事ですね……だから見た事なかったのか。


「自分たちの採ってきた星の石の結晶より遥かに大きいもんな」


自分も二人の反応に乗っておいた。


「あの鉱脈で一番大きくても、あの半分くらいの大きさじゃないかな」


「なんだい、お前さん達、星の石の鉱脈持ちなのかい? もしかして優秀な冒険者のなのかい? まぁ、あの太陽石の結晶は特別なモノさ。地底に王国を築いた我らハイドワーフ族にエーテリオンから送られたモノじゃからの。あの石の輝きが五〇年前に消えた時から王国の滅亡は始まったのかもしれんがね」


「そんな重要な役割があったんですか?」


「地底の太陽と言われた重要なもんだったよ。昔はオレンジ色の光を放ち続け、その光は王国の道を通って国中に建てられた柱に光を与えていたんだよ。その光は太陽と同じように熱を持ち、地底に恵みをもたらしていたんだ。それはまた闇に住むモノを弱体化させる力もあってな、まさに王国の繁栄の支えになっていたのさ」


「それだと、石に光が戻らないなら、行きつく先は同じになるんじゃないんですか?」


「その通りさ。だから光が失われてからずっと調べていたんだよ。そして一〇年前、遂に謎が解けたのさ。結論から言えば単純に太陽の光を浴びていなかったのが原因だね。これは星の石や月光石と同じだよ。太陽の光を吸収して光る、そして地脈や魔力も利用して光る……しかし太陽石には、より太陽の光こそが重要だったのさ。内部にため込んだ光を使い果たしたから光は失われた、つまり再び太陽の下で光を溜めれば光は戻ると言う訳さ」


理屈は理解できたけど、そんな単純な事だったのかと思った。

まぁ、そこに在り続け、それが普遍的になってしまうとその本当の意味を見失うのは世の常かもしれない……人生の教訓だね。


そして一通りの話を聞き終わってから、ある提案をされた。

それは、この作戦を冒険者として手伝ってほしいという事だった。報酬は一人一〇〇万リオン、更にもし成功したら追加報酬も出すと言う破格の条件だったがその分危険も大きい……


いま王国を占拠している敵の数は一〇〇〇近いという事だった。

その構成は大半がゴブリンで他にはホブゴブリン、オーガとオーク、それにグレムリンと餓鬼がいるらしい。

それに対してこちらは、結界を無効化する首飾りがどれだけ作れるかで決まるという事なのだが……一本は結界破壊用に、残りは魔道ゴーレムなどへの魔力供給用の魔法石の結界用に加工して、その残りを首飾りにするという事だった。


よって結界の影響を受けない自分たちの協力が欲しいと言うのだ。

ただし、正面切って戦う訳じゃない。


まずは魔法動力の回復の為に動力室を確保するのだ。

そして幸いな事に動力室は王国から見ると最奥の施設、この村から見ると一番近い位置にあるらしいのだ。そこまで辿り着けば魔道ゴーレムを起動できる……


そんな訳で、リスクは高いけど可能性も十分あると言う結論でこの依頼を受ける事にした。

個人的にはこの依頼は受けたい気持ちだったのでホッとしている。


と言うのも敵の兵は劣化種族が元なのだ。

魔族グレムリンと餓鬼にゴブリンは知性の低い原種族だけど、ホブゴブリンは妖精族ノッカーの変異、オークが魔族コボルトの変異、そしてオーガがドワーフ族の変異である。

それぞれの変異体が繁殖したのが闇の軍団の正体だ。


変異体は生命エネルギーのバランスが崩壊した状態の為、同種の変異体が増える分にはまだ余裕がある様だ。ただその分、知能を始めとする各能力は弱まっているので相対しやすい。

これらの種族も知性と文化を持つ異世界の人類であり、彼らを倒すことが生命正常化の一助になるのだ。


「これで更に多くの生命エネルギーを補充できる……少しでもあの二人の未来に希望が出るのなら……」


覚悟を胸にクエストに挑むと決意をしたけど、準備の為に二週間ほど待機となった

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