第13話 街に出かけ、ある噂を聞く。

湖を堪能した後は第二の目的地へ向かった。


この遺跡から更に二日ほど歩いた森の奥には大地の裂け目があり、その下に広がる洞窟の奥には、星の石と月光石の鉱脈があるのだ。

そこには、それぞれの石の結晶体もあり、その結晶体は地脈や魔力を利用して自ら発光するので、太陽光の届かない地底でも光を発する事ができた。


その光景は、まるで某アニメの鉱山跡の様な光景だった……天井も壁も足元も、まるで宇宙空間を漂っている様な空間だった。


因みに、この結晶はレア物で超高値で取引されるが、ここに広がる希少な景観保護の為に村の決まりとして、発見者のアルティとカルノス以外の採取を禁じている。

それに、ここにはそれ相応の危険もあった。


結晶は地脈と魔力を集める為に、この空間には二つのエネルギーが溜まりやすく、それに魅かれてモンスターが集まって来るのだ。

しかも、ここを縄張りにしようと争うので自然と強いモンスターが居座る事が多いらしく、自分たちが訪れた時も岩石蛇と土蜘蛛がいた。

どちらも、めちゃくちゃ硬いし一撃が重く苦戦したが、カルノスの植物魔法の大活躍で倒すことができた。

土属性の二体には植物魔法は天敵だった様だ。

 

そんな苦労をして見に来たのも『思い出を作る』と言うアルティの発案である。


「ありがとう、二人とも。凄い光景だよ」


「それは良かった。だけど土蜘蛛がいたのは予想外だったよ」


「びっくりした。あんな魔獣まで来るなんて……やっぱり結界張った方がいいかな……」


カルノス曰く、ここは地脈と魔力を利用して侵入を阻害する強力な結界を、永続的に張れる条件が整っているという事だった。

そんな訳で、ここの魔力で強力なモンスターに成長されても困るから等とブツブツ独り言を言いながらカルノスが結界を張る作業を始めた。


そして自分とアルティはキャンプの準備をする。


「ココの結晶、何個か持って行くんだよな?」


「うん、今年はまだ採ってないからね。いい機会だから街で直接売ろうかと思ってね」


街で売る……

そう、村に帰ったら次は森を抜けた先にあるテーゼの街に行く予定なのだ。別に観光に行く訳じゃなく、クエストである。


キャラバンの荷物と遺品回収のクエストは完了して通商ギルドに引き渡したのだが、その荷物を取りに来れないという事で、こちらからテーゼの街まで運ぶ事になったのだ。

で、そのついでに村の特産品も売ってこようという事になった。

自分にとってはエヴァン村以外の人里は初めてで、当然観光もして遊びつくすつもりだ。


そのテーゼの街は、南北に伸びる街道と東の王都背レイスロードとゼダ魔法学園都市に繋がる要所に作られた街だった。

ただ、街道の要所の街ではあっても地理的に敵国の侵略に備える必要性が低く、キャラバンや旅人の中継地としての役割しかないので人口は一万弱の小都市であった。


自分達の暮らすエヴァン村、そしてテーゼの街とゼダ魔法学園都市は共にロベア王国に属する。

そしてそのロベア王国は七年前に西ゲルタ軍事同盟に攻め滅ぼされ、それ以来占領下にあるのだ。


その為、このクエストにはカルノスは同行しないし、他の避難者も同様だ。

占領軍の動向が分からないのでトラブルを避ける為でもある。よって村に戻って集められたメンバーは自分とアルティ、レミィにリデル、ファバルの五人に、商人のケントとノイの二人が付いてくる。


エヴァン村から片道八日ほどの道のりで、道中アンデッドの残りや獣に警戒が必要……のはずだったんだけど、ふたを開けてみれば、道中アンデッドを一二体相手にしただけで無事テーゼの街に到着できた。


「やっぱり、殆ど残ってなかったね」


「まぁ、あれだけ倒したからな……でも魔獣も出てこなかったけど」


「魔獣は元々もっと森の奥に居るものだから、あの時倒したので全部だったのかもね」

街に入り通商ギルドに向かう道すがらアルティと話す。


街の中は予想以上に賑わっていた。占領下と言っても交易は許可されている様で検問でも商人と護衛という事ですんなり通してもらえた。

ただ、エヴァン村から来たという事には驚いていたけど……

つまりこの街の軍にしても今まで森の中は近寄りがたい状態だったという事だろう。


街並みは自分が期待したのとは少し違っていた。石造りの建物に石畳の道が続く昔の西洋の街をイメージしていたのだけど、道は村と同じ土で建物もほとんどが木造でエヴァン村を大規模にした感じであまり変わらなかった。


「まぁ、これはこれで十分雰囲気は出てるから良いけどね」


そんな自分の独り言を聞いていたリデルが


「なんだ、想像と違ったか? 王都や魔法学園は石造りで整備されてて壮観だぞ。機会があれば見に行ってくるといい」


そう言って笑うリデルは、元は王都で警備にあたっていた傭兵である。

傭兵は商人、冒険者と同じように比較的自由に世界中を移動できる。その為今回は情報収取の任も帯びている。

今やエヴァン村には避難民が多数存在する……中には王国関係者もいる……状況次第では占領軍が捜索隊を派遣してくるかもしれないので、情報収取は重要なのである。


「しかし、占領下にしては兵士も少ないし、何より住民の表情が明るいな」


「僕もそれは思った。リデル、これが普通なの?」


「いや、俺が知る占領軍はこんな感じじゃないな……幾ら前線じゃないからって、兵が少なすぎる……何かあったのかもしれんな」


その答えは通商ギルドに着いてから分かった。

荷物を引き渡して報酬を受け取った後に、リデルが聞いた所によると……


数ヶ月前から王都付近で軍事同盟軍に対して反乱軍がゲリラ戦を展開しているという事で、この街の軍隊が警護の為に王都と魔法学園に移動したという事らしい。

それに伴い、街の兵士が激減して行政府の警備に手一杯で、街中の監視まで手が回らない状態なのだそうだ。


これは、自分達には好都合だった。

余所者である自分たちは兵士の尋問などを覚悟していたのだが……結局、滞在中一度も衛兵に関わる事はなかった。

その為テーゼの街では快適に過ごす事ができた。


用意していた収集品も、暫く入荷の無かった『エヴァン村産』という事でいつもの相場より高値で売れたし、星の石と月光石の結晶なんて全部で二〇〇万リオンで売れた……さすが超レア物である。


観光の方は、この街のシンボル『テーゼの大聖堂』を堪能してきた。この大聖堂は一言でいえば『ケルンの大聖堂』にそっくりだった。と言っても自分も本物を見た事がある訳じゃなくネットで見た知識ではあるが、二つの塔を有した巨大なこの建造物は荘厳な雰囲気を醸し出していた。

ココに祭られているのは『大地の女神』と『山と鉱物の女神』である。


この世界の宗教の信仰対象は『女神』であり、その中で一番人気が大地の女神なのである。

さらに眷属たる山と鉱物の女神はその性質上『富み』に結び付けられているので商人の信仰を集めている。

そしてここテーゼは交易の拠点の一つである為、こんな大聖堂が作られた様である。



本当はテーゼ観光の後に、ココから三日ほど離れたゼダ魔法学園都市も見に行こうかと計画していたのだけど、兵隊が派遣され警備が強化されているという状況では、トラブルに巻き込まれる可能性もあるという事で中止になった。

因みに、その警戒の原因になっている反乱軍とはどうやら旧ロベア王国の王家の関係者が関わっているらしく、徐々に勢力を増してきていると言う事だった。


「これは、近いうちに大きな戦いがこの辺りでも始まるんじゃないか……」


宿屋に戻り、みんなで夕食を取っている時に自然と現在の情勢の話題になった。


「可能性はあるな。ロベア国王は『賢王』と呼ばれ国民だけじゃなく近隣諸国からも頼られてたからな……その王家の関係者が指揮しているとしたら、相当な数が集まってくるはずだ」


「さすが、リデル。詳しいな……で、そうなった場合、勝てるのか?」


自分はそう小声で聞いてみたが、それに答えたのはノイだった。


「それは厳しいな……リデルは見たかどうか知らんが、あのデスナイトと飛竜騎士団は強すぎる……」


彼は三七歳の元交易商人で、戦乱以降はエヴァン村で何でも扱う商店を営んでいた。戦乱前はエヴァン村の商品を王都や学園都市に売り歩いていたらしく、ロベア王国が滅亡した時も王都にいて命からがら脱出して来たとよく自慢げに話していた。


実は、このノイがカルノスとゲンデルさんにエリア達、王都の人達をエヴァン村まで避難させた張本人なんだけど、その事を村で語る事はなかった。自分もカルノス本人から聞いただけで、それ以降、何となく事情を察したので自分も話題に出さなかった。


「確かにな、デスナイトの方は知らんが飛竜騎士団は強かったな」


「……そうすると、少なくとも数年間は小競り合いが続くって感じ?」


いつの間にか他のメンバーも深刻は表情で聞き入っていた。


「多分そうだ。少なくともその間はエヴァン村にちょっかいを出す余裕はないだろうさ」


「まぁ、個人がどうするかは別として、今すぐ深刻な事態になるような事じゃない。それより商談も上手くいったんだ。楽しく飲み食いしようぜ」


「そうじゃ、辛気臭くなっては酒が不味くなるわい。さぁ飲むぞ!」


食事を楽しめとばかりにファバルがジョッキの酒を飲み干した。

それを契機に宴会の開始だ。

村の特産が高値で売れ全部で一〇〇〇万リオンにもなったのだ……交易が途絶えてから貯め込んでいたから品数が多かった、と言っても破格の金額だった様だ。

よって宴会費は村持ちと勝手に決めて飲み食いしている。


これがゲームなら、反乱軍を助けて王都開放に協力して大活躍と言った所なのだろけど、今の実力では到底無理だろうし、そもそも反乱軍に加わる理由がない。


街で兵士に追い掛けられた訳アリの少女を助けるとか、反乱軍と占領軍の戦闘に巻き込まれて反乱軍のリーダーを助けるとかいうお約束なイベントは、取り敢えず今の所発生していないので、反乱軍の噂についてはこのままスルーするのが得策だと判断した……

まぁ、先の事は分からないけど。


こうしてテーゼの夜は更けて行った……


テーゼの街は大きく店も多く、服を何着か買い込んだが、二日で飽きてしまう様な街だったと言うか、退屈だったと言うべきか……

実際、大聖堂以外に見るべき名所もなく……見て回る所が無くなったのだ。

それで三日目には時間を持て余し気味になっていた……


この街に来た時、本当は心の片隅で、占領軍とのトラブルを期待していた……それが全くの無風状態で肩透かしを食らったのがあるんだと思う。

自然に囲まれているのんびり暮らしたいと思っている自分と、どこかで刺激を求めている自分がいる事も自覚していた。


この世界で生き残らないといけないのは分かっているんだけど……強大な敵と戦っている自分にも憧れるよなぁ……


「帰ったら、難易度高めのクエストか狩りにでも行くか……」

そんな事を思いながら、結局テーゼの街には四日滞在して帰る事になった。

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