第6話 虎穴に入るは専門業者
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「貴方が、噂の探偵ですか」
「いや、正確には何でも屋です。まぁ猫探しは得意ですが」
市場に出回る謎の薬、黄金を生むその鶏を抑えようと、数々の手が蠢いていた。これはその一つの話である。
此処は街でも、いや世界でも有数の製薬会社、
街の一等地にそびえ立つそのビルの、最上階の応接間にその2人の姿はあった。
「いえいえ、貴方の活躍は聞き及んでおりますよ。表彰こそ辞退されていますが、貴方は数々の難題を解決している傑物だと」
支店長である自分の目の前に腰掛けるのは、何処にでもいそうな人の良さそうな青年だ。
だが、人は見た目に寄らないとはこの事、この街で少しでもモノを知っている人の中で彼の事を知らない人は先ず潜りだろう。
彼の名は
彼の行く先にトラブルあり、だが彼に解決できないトラブルなし。そう謳われている名探偵だ。
「それで、立花様。本日のご用件は?」
彼は先程渡した名刺をチラリと見ながら、私にそう尋ねて来る。彼ほどの若さでありながら、相手が支店長だろうと物怖じしないのは彼が潜って来た修羅場によるものだろう。
「貴方も耳に挟んでいるかもしれませんが――」
他言無用とお定まりの言葉を枕とし、私は例の薬の調査について彼に依頼を行った。
他社より先に彼を抑えることが出来たのは上々だった。彼を専属の調査員として契約しようと幾つもの会社が手を伸ばしているが、彼は組織に縛られることを良しとせず、頑なにその手を拒んでいる。勿論我が社もその一つだ。
彼を見ていると支店長の椅子にふんぞり返っているのが矮小な事に見えてしまう。他所から見れば大成功を収めている私だろう。だが組織と言う看板を取っ払ってしまえば、何処にでもいる唯の中年にしか他ならない。彼の様に自分一匹で世界に立ち向かえる勇者と言うガラでもない。
先ずは例の薬について、我が社が用いる情報の漏らせる部分についてを彼に話す。彼の事を信頼していない訳ではないが、信用しきっている訳でもない。彼が持ち得たデータをライバル企業に売り払う危険性を除外するわけには行かない。
「そうですか」
と、彼は目の前に広げられた書類を眺めてそう呟く。その中には例の薬を売りさばいていた店主の顔も収められている。
別口の調査によると、店主の名は糟谷と言い、何処にでもいる
それどころか、彼はヤクザと悪い意味での繋がりがあり、そこに厄介になっている可能性が高いと言う。
法整備がなされ、今や風前の灯火とも言える
獣の巣に手を入れるのに、自らの手を進んで出すような勇者はそう居ない。熟練のハンターの手を借りるべきなのだ。
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