人工衛星ネットワーク「かんだた」

人類は昔、「庚申こうしん待ち」というものを行っていました。


人体の頭と腹と足には三尸さんしの虫というものが住んでいます。頭に居るものを「上尸じょうし」、腹に居るものを「中尸ちゅうし」、足に居るものを「下尸げし」と言い、この三匹を合わせて「三尸さんし」と言います。


この三尸の虫は干支でいう庚申かのえさるの日、我々が眠っている隙に体から抜け出して天に昇ると、天帝(いわゆる閻魔大王のことです)に日頃の罪悪を告げ口します。その結果、人間は罰として寿命を縮められてしまったり、来世に三悪道という不幸な世界に転生させられたりしてしまうのです。


そうならないようにと行われていたのが庚申待ちです。年に数回ある庚申の日には、人々は眠ってしまわないよう夜通し騒いで過ごしていたのです。


町単位で集まって庚申講こうしんこうと呼ばれる会合を作り、神仏を祀ります。そして囲炉裏を囲みながら酒盛りや太鼓の演奏をして徹夜をするのです。


この庚申待ちですが、「かんだた」の導入とともに廃れてしまいました。


現在、低軌道上を周回する37基の人工衛星群が人体から抜け出した三尸の虫を監視しています。この人工衛星群によるネットワークの愛称を「かんだた」と言い、衛星は観測衛星と迎撃衛星の二種に分類されます。


観測衛星には当時最新鋭の高解像度カメラが搭載されており、天に昇ろうとする三尸の虫を遠距離から補足することができます。三尸の虫は二寸という微少なサイズですが、道士や一本足の牛頭などの特徴的な姿をしているため、AIはそれを即座に識別します。


観測衛星が虫を補足すると、その位置情報を迎撃衛星へと送信します。最も近距離にある迎撃衛星がターゲットに照準を合わせ、レーザー照射により天帝の下にたどり着くまでに焼却するのです。


この三尸の虫迎撃システム「かんだた」は、99パーセントの割合で天帝への告げ口を阻止することに成功しており、現在では人類のほぼ全員が死後に天道や人間道に転生するようになっています。


「かんだた」のお陰で人類は庚申の日に怯える必要は無くなりましたが、オールナイトで騒ぐイベントが廃れてしまったのは、少し悲しい感じもしますね。

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