雪についた足跡をたどってみたら
肥前ロンズ
男は逃げられた。
人間に本質なんてわかんないんだよ。と、あいつは言った。
椅子は踏み台になれるし、箸は簪にだって使える。ほら、本質なんて言葉で纏められないよ。人の性格だってそう。
だからさ、私を『優しい』なんて一言で言わないで。
そう言って、あいつは逃げた。
……プロポーズした公園に、俺一人残して。
10分固まってしまったが、立ち止まっている場合じゃない。降り積もる雪の街路。あいつがつけた足跡を辿りながら、追いかける。
雪が降っているとどっちに行ったか分かるのはいい。……なんて思ったが、タイヤ痕や別の足跡で泥だらけの状況を見ると、だんだん気分が萎えてくる。ついに誰の足跡かわからなくなったところで、俺は立ち止まって息を整えた。現在地は公民館。さっきの公園から大分離れた場所だ。
なんちゅー速度で走ってるんだ。姿すら見つけられない。もしかしてさっき来てたバスに乗ったか。いや、あいつ財布もニモカも持ってねぇわ。じゃあ自力でか。
思い出したけど、あいつ見た目は清楚で華奢な姿でも、中身は武闘派のゴリゴリゴリラだ。
俺の親はとんだクズだった。母親は男を作って消えて、その母親によく似ている俺が憎くてたまらなかった父親は俺を殴っていた。
だけど、その暴力は五歳の時、突然窓ガラスを割って乱入してきたあいつの飛び膝蹴りによって終わりを告げる(最初何が起こったのかわからなくて、呆然としていた)。
勢いよく倒れた父親は、けれどダメージはそんなになかったんだろう。すぐに立ち上がって、あいつを殴ろうとした。
――その瞬間に、またもや乱入してきた大人の掌底撃ちが決まった。クソ親父K.O.
乱入してきた大人はあいつの格闘技の師匠で、その後は俺を養子にしてくれた。以後俺はとても穏やかな人生を歩む。とは言っても、それなりに色々あったが、どんな困難があったとしても俺には心を許せる親とあいつがいた。
……学校の成績では俺が勝っていたが、結局組手と徒競走で勝ったことは一度もない。勝てるわけねえ。
ちくしょう、っていうか何であいつ逃げるんだよ⁉
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